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翌朝。クラティア家リビング。
オレの前には眉間に皴を寄せたイオニクリサが立っており、背後から艶々のクラティアに6本の腕でがっちりホールドされていた。
「これはどういうことかの?」
と、女王様がこめかみをぴくぴくさせる。
「ほれ、そなたもいつも言ってたじゃろ? とっとと相手を見つけて、種族を安定させろと」
「……確かに言うておったが、だからと言って———」
「今は非常時じゃし、他に男がおらんのじゃ、仕方あるまい」
ぐぅっと口をつぐみ、怒りを抑えるイオニクリサ。
「……確かに、今は危機的状況じゃ。早急に子を増やさねばならん……だが、主殿の優先権は妾にある! 今すぐにその手を離されよ!!」
「嫌じゃ」
「なんだと!?」
「イオニクリサにはまだ子が残っておるじゃろ? わしは独りじゃ。一刻の猶予も無いのは自明じゃろう?」
「それはお主が今までサボっていたからであろう!! 自業自得というものだ!! 大人しく主殿から手を離せ!!」
二人が言い争いを続ける。
いいか? こういう時、男は口を挟んではいけない。
嵐に舞う葉っぱの様に、流れに乗って落ち着くのをひたすら待つんだ。
そうすれば————
「主殿(寿崎殿)はどう思う!?」
はい、逃げきれませんでした。
◇◇◇
オレは、
いつ襲撃があるか分からない状態で、子作りどころではないだろう!
今は協力して襲撃に備えるべし!!
と、正論をぶちかまし逃げ切ろうしたのだが、彼女たちは受精から二週間で出産。
メリアスはその後二週間で子蜂に成長し、アラフネは生後一か月で独り立ちするとのこと。
子作りこそ最優先!!
と、切り返された。
二人の読みでは次の襲撃は一か月後。この階層に辿り着くまでに更に2週間かかると言うことで、十分間に合うとのことだった。
「や、しかし、前回押し負けてるので、例え数を戻しても意味が無いのでは……?」
とオレ。
「寿崎殿は勘違いをしている。来た者が全員無傷で帰った訳では無いぞ? のうイオニクリサ」
とクラティア。
「そうだのう……無傷で帰れた者は100に届くまい」
100人!? 1000人来て!?
「それに、奴らは前回の襲撃で我らを排除しきったと思っておるだろう。それほど多くの戦力を再び投入してくるとは思えんし、やりたくとも恐らく出来んだろうの」
「わしらが居らなんだら、数を投入する意味も無い。次に来るのは鉱夫や樵、後は資源を運ぶ運搬人、それらを守る護衛くらいじゃろうて」
「まぁ、クシフィアの言ってたA級とやらが護衛についてたら厄介だがの。我が子らは、男なら何とか戦えるが、そもそも出生率が低い……そういう意味では、アラフネを増やすのは理に適って居る。2対1に持ち込めれば、子蜘蛛でも冒険者ごときに後れを取らんだろう」
う~~ん?
イオニクリサは50人とやりあって敗れてるから、1パーティ5人として、単純計算で10パーティ未満ならやり合える。クラティアも同等と考えると、この二人で20パーティ100人未満なら対処可能と考えよう。
子蜘蛛二人ならA級冒険者1人と同等で、男子蜂は戦えるが数が揃わず当てには出来ない、と。
「あの、メリアスとアラフネは一回の出産でどれくらい産むんですか?」
「わしは、寿崎殿が居てくれることを前提で200じゃな」
とクラティア。
子蜘蛛はツーマンセルでA級冒険者一人だから、単純計算で10人で1パーティに対応可能、全部で20パーティ100人まで相手取る事が出来ると……
「妾は産もうと思えば1000から1500だが、ここでそれだけ産むのは無理だのう。蜜が足りぬ。精々300と言ったところかのう?」
「なるほど。子蜂の男の子の割合は?」
「仮に300産んだとして、多くて1人だのう……」
0.3%以下か……いないと考えた方がいいな。
「と言うことは、アラフネを増やせば、数の上ではA級冒険者40パーティ200人未満だったら相手取ることが出来ると言う計算になりますね」
まぁ、全て机上の空論だが。如何せん、ザーデルテ王国の情報が全然ない。40パーティがザーデルテ国にとって大戦力なのか、いつでも集められる数なのかが分からない。一度偵察に行った方が良いかもしれないなぁ……
「主殿……それだと、メリアスは後回しと聞こえるが……」
「あ、いえ、今は単純に戦力の話をしてたのであって―――」
「その通りじゃ。まずはアラフネを増やさねば、この難局は乗り切れぬ! 我らが負ければ、メリアスの種の繁栄も無いのは分かるじゃろう?」
「な……では、そなたが主殿を独り占めすると言うのかっ!? 妾が連れてきたのだぞ!!」
「仕方あるまい。今は危機的な状況じゃ」
「危機と言っても、次の襲撃は先の襲撃ほどでは無いという読みであろう!?」
「それはA級冒険者が護衛に居なければの話じゃろ? それに今回は凌げても、すぐ次が来る。戦力増強は急務じゃ」
「ぐぐぐ……なら、妾が1500産む! そうすれば4人は男子が出来る! 男子なら妾と同等に戦えるのだ! 戦力ならこちらの方が上であろう!!」
「それは無理だと自分で言ったおったじゃろうが? 蜜が足りぬと」
「直に魔力を与えればどうにかなるわ!」
「それを下の”大喰らい”が許すかのぉ?」
大喰らい? 下の階層にそういう種族がいるのかな……?
「それこそ危機的な状況だ! 妾らが負ければ、次は奴だ。協力するほかあるまいに!」
「そうとも限らんじゃろう? 現に人間どもはこの階層までしか来ておらん。それはこの階層までの資源で事足りると言う事じゃ。奴にとっては我関せずじゃろうよ」
「甘いわ!! 人間どもの欲望なんぞ天井知らずだわ!! すぐ、下に向かうに決まっておるわ!!」
「むぅ……なら、おぬしがあやつを説得してまいれ。その間にわしは寿崎殿と子作りに励んでおるから」
「それはならん!! 妾の方が先に主殿とまぐわったのじゃ、妾が先に産むのが道理じゃ!! そなた、よもや道理を曲げると申すのか!?」
「あ、いや、この際道理とかは――――」
「主殿は黙っておれ! これは、妾らの矜持の問題じゃ!! 違えるわけには行かぬ!!」
「ア、ハイ……」
個人的に、この危機的な状況で道理も矜持もないと思うのだが……この人らにとっては重要なことらしい。
結局、二人(+オレ)で下に説得に向かうことになった。
”大喰らい”ってどんな種族だろう?
つか、強いんならそのまま防衛に協力して貰えば良いんじゃね?
そう思ったものの、怖くて言えないオレなのであった。
活動報告にも書きましたが、拙作より前に同じタイトルの作品が存在していたので改題いたしました。
あまり気入っていないので仮題です。何か思いついたら変えると思います。




