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 朝日が黄色い。

 こう連日連夜求められては腎虚になるかも知れん。


 大樹の前の広間に立ち、そんな益体も無いこと考えてる。

 目の前では子蜂たちが甲斐甲斐しく蜜集めをしており、背中には相変わらず女王様が張り付いており、がっちりホールドされている。

 この3日間ずっとこんな感じ。


「襲撃への備え、どうしましょうかね?」


 オレはメリアスの女王イオニクリサに問いかけた。


 ザーデルテ王国が戦争の準備の為にダンジョンを襲撃しているのかもしれないと言うのは、クシフィアから得た断片的な情報からの推測でしかない。

 真実はまた別かもしれないが、なんらかの対策はしておくべきだと思ってる。

 だが、オレには戦うための術も知識も無かった。


「難しいの。我らは力が強く頑丈ではあるが、攻撃は得意ではない。防衛に徹しようにも数が減り過ぎておる」


「共闘出来そうな他種族はいないんですか?」


「前にも言ったが、我らの縄張りはこの階層でも奥まったところにある。あれだけの数の冒険者がここまで攻め込めたと言うことは、道中の生存者は絶望的であろう。仮に生き残りがおっても、戦力として期待できるほどではないだろうの」


「どれくらい来たんですか、その冒険者たちは?」


「妾と直接戦ったのは50人くらいだったかの。子らの話も統合すると、ここまでたどり着いのが全部で200人。全体だと、恐らく1000人規模の侵攻だったのではなかろうかの」


 1000人!? めっちゃ多くね!? あ、いや、どうなんだろ? オレの感覚だと多い気はするが、オレはこのダンジョン攻略難度を知らないし、冒険者たちの強さも知らない。

 この世界の常識が無いオレでは、判断しようが無い。


「聞く限り手詰まりっぽいですね……」


 そこへ子蜂が一人飛んできて、イオニクリサに何事か報告を始めた。

 イオニクリサは何度か頷くと、グルんとオレを回転させ正面に向けた。


「主殿、蜘蛛の奴が生きておった。済まぬが奴にも治療を施しては貰えんか?」


「蜘蛛?」



◇◇◇

 数分後、オレは森の中を物凄いスピードで飛んでいた。

 大体、時速80キロくらいで。

 もちろんイオニクリサに抱きかかえられて、だ。


「女王様、その蜘蛛ってどういう方なんですか?」


「アラフネと言う種族で蜘蛛の様な姿をしておる。我らと違い、自分の縄張り以外にもよく顔を出す変わり者だの。妾のところにもよく顔を出しておった」


「友達なんですか?」


「どうだろうの? 気まぐれで、いつの間にか現れ、いつの間にか消えてる。そんな奴だの」


「変わり者なんですね」


「そうだの。独りで住み着いて、子を成そうともしない変人だ」


 そう話すイオニクリサは、どこか楽しそうだった。



 その日の日没前、オレたちはアラフネの巣の前に降り立った。

 巣、と言っても見えるのは破壊された大きな蓋くらいで、中がどうなってるかは分からない。

 巣の前には一人の子蜂が控えており、オレたちが着くと、すぐ別の場所に案内始めた。

 

 あれ? 巣にいるんじゃないのか……



 そこから数分の距離に、そのアラフネは居た。

 深さ5メートルはあるクレーター、そこに半ば埋もれるように彼女は倒れていた。 

 上半身は人間の女性、下半身は蜘蛛と言う異形の姿。

 だが、手足は後ろ脚の一本の除いて失われており、上半身の殆どは焼けただれていて、腹部(腰の後ろ)には針山の様に矢が刺さっていた。


 これで、よく生きていられたものだ……


「クラティア、聞こえておるかの?」

 

 イオニクリサが近寄り声をかける。

 しかし、反応は無かった。


「主殿」


「分かってる」


 言われるまでも無く、オレはすぐさま治癒の力を使った。


 腹部から矢が押し出され、火傷の跡が綺麗に治っていく。驚いたのは、欠損していた手足が再生したことだった。


 蜘蛛って手足が生え変わるんだっけ?


「相変わらず主殿の治癒の力は凄まじいの」


 感嘆したようにイオニクリサが呟く。

 まぁ、オレもそう思う。あの声の主が警告したのも良くわかるわ。


 しばらくするとアラフネは目を覚まし、目の前のオレに気付くや否や、いきなりオレの首を掴んで持ち上げ、右腕を引き千切った。


「ーーーーーーーーっ!!!!!」


 突然の激痛に声が出ない。

 

 アラフネはそのままオレを力任せに地面に叩きつけようとして、間に入ったイオニクリサに気付いて動きを止めた。


「イオニクリサっ!?」


「クラティア、そなたが手に掛けようとしているお方はそなたの命の恩人だ。速やかに手を離されよ」


「何を言う、こやつは―――」


「クラティア」


 諫めるように、だが淡々とイオニクリサはクラティア遮った。

 イオニクリサの静かな迫力に、クラティアはオレを地面に落とす。


「ぐっ……」


 痛ぇ……出来ればもうちょっと丁寧に降ろしてくれよ。

 

 待ち構えていたのか、子蜂が千切れたオレの右腕を持って飛んできて、すぐさま傷口に押し当てた。

 そして、何のつもりか例の黄色い蜂蜜の塊りを口の中に押し込んでくる。


 や、それは後で良いからっ! つか、鼻に入るからやめて!

 オレは口をもっきゅもっきゅしながら、治療の力を使う。


 自分に力を使うのは初めてだったが、痛みが一瞬で引き、熱が出ることも無く一瞬で千切れた腕がくっ付いた。


「本当にすげぇな、この力……」


 オレが自分の右手をにぎにぎしながら感心してると、イオニクリサが背中から抱き上げいつものがっちりホールドをしてきた。


「どういうことじゃ、イオニクリサ」


「どうもこうも、今のを見たでろう? これがそなたの命を救った主殿の力だ」


「なぜ人間が……」


「主殿は上の野蛮人どもとは違う。神によって我らを救うために遣わされた異世界人だ」


 女王様、やめてください! それだと神に呼ばれた召喚勇者みたいに聞こえます! 自分は現実逃避でスローライフを願っただけのただの凡人です!!


「異世界人……そうか……神の気まぐれか……」


 お? クラティアさんの方が冷静に把握してる模様。


「わしはアラフネのクラティア。済まんかったの、てっきり襲ってきた人間かと思ったんじゃ」


「オレは寿崎(すざき)当分(とうふ)、その謝罪受け入れます。状況を考えれば、オレも不用意でしたし……」


「そう言って貰えると助かる。して、イオニクリサ……おぬしは、なぜに寿崎殿にべったり張り付いておるのじゃ?」


「主殿には子種を分けて貰っておるのだ!」

 

 いや、そんなどや顔で胸張らんでも……つか、そういうことは他人に言う事では……


 クラティアさんは怪訝な表情になるも、すぐにはっと何かを察した。


「そこまでの被害を受けたか……」


「酷い物だったの。主殿が来なければ、我らは族滅しておった……」


 言って女王様はがっちりホールドに力を籠める。

 痛くはないけど、人前なのでやめて頂きたい。


「……ま、まぁ、立ち話もなんじゃ、続きは我が家で聴こうぞ」


 若干引き気味に、クラティアさんはオレたちを誘ったのであった。


 案内されたクラティアさんの家の内部も、荒らされて酷いことになってた。

 冒険者容赦なしである。

 クラティアさんは無事だったカップ類を集め、お茶をごちそうしてくれた。

 変わった風味で、元の世界のプーアル茶に似ていた。


 落ち着いた雰囲気で近況報告をし合う二人を他所に、オレは重くなる瞼に抗えず、そのまま寝落ちしてしまった。



◇◇◇

 ふと、人の気配に気付き目が覚めた。

 場所は見知らぬベッドの上。

 恐らく、クラティアさんが用意してくれたものだろう。

 辺りを見回すが真っ暗で何も見えない。

 不意にガサリと衣擦れの音が聞こえた。


「女王様?」


 流石に他人の家で()すのはどうかと思うので諫めようと思ったら、不意に口を塞がれた。


「寿崎殿、静かに。イオニクリサが起きてしまうじゃろ?」


 起きてしまうって……起きちゃ拙いことですもする気ですかぁ!?


「今回のことで、わしも一人でおるの事に危機感を覚えたのじゃ。イオニクリサに聞いたが、お主は異種族でも気にせんのじゃろう? どうかわしにもそなたの情けを分けてくれんかのう?」


 クラティアさんの要望は分から無いでもない。独りで死にかけたのだ。怖くなったとしても咎められることではない。


 けど……蜂の女王さま、めちゃくちゃ執着心が強いみたいなので、流石にバレたらヤバそうなんだよなぁ……

 別に伴侶ってわけでも付き合ってるわけでも無いが……そういう理屈が通用しないのは肌感覚で分かる。

 断腸の想いだが、ここはお引き取り願おう。


「イオニクリサのことならば問題無い。あやつも同じ事情だと理解してくれている」


 え? 合意にの上……?

 な、なら良いのか…………な?

 クラティアさん困ってるようだし、美人だし。


 と、欲望に弱いオレなのであった。


仕事が詰まってきたので、明日明後日は更新できません。

よろしくお願いします。

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