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 翌朝、オレは大樹の下の広場に立っていた。

 背後には蜂人間(メリアスと言う種族らしい)の女王様が立ち、4本の腕でがっちりホールドされている。

 どうやら、オレの奉仕がお気に召したらしく、昨夜から概ねこんな感じ。

 で、目の前にだが、なぜか死にかけの、強そうな装備を付けた女冒険者が転がされていた。

 女王様の子供たちが被害状況の確認と蜜集め行った折り、倒れているのを見つけたのだとか。

 本来なら襲撃した連中の仲間なので、メリアスらに助ける義理は無いのだが、メリアスを救ったオレが人間と言うこともあり、判断に困って連れてきたらしい。


 このまま放置していたら確実に死ぬだろう。だが、メリアスらの手前、安易に治療するのも憚られる。この冒険者はメリアスらを族滅の危機にまで追い込んだ連中の仲間なのだから。

 ただ、個人的には救える命を見過ごすのは気分が悪いと思ってる。


「我が子らよ、なぜこのような輩を連れてきた」


 物言いは静かだが、その声音は底冷えするほどの冷気をまとっていた。

 怒鳴られるよりよっぽど怖い。

 子蜂たちは困った様にオレを見上げた。

 オレも困るが、かといって見殺しにすることも出来ない。


「女王様、この冒険者を治療したいのですが、よろしいですか?」


 女王様はぎゅっと力を籠めオレを抱きしめる。

 恐らく怖い顔をしてると思うので見えなくて良かった。恐ろしくて失禁してしまうかもしれないから。


「なぜだ? この者らが我らを襲撃したと言うことは、そなたも知っておるのだろう?」


「もちろん知ってます。けど、こいつは一人だ。たった一人の冒険者に後れを取るほどメリアスも弱くは無いでしょう?」


 今もがっちりホールドから逃げ出せそうに無いし、子蜂たちも、昨日、オレを軽々と運んできたし……


「それはそうだが……だからと言って、我らの恨みが消えるわけでもない。こやつを助ける義理は無いだろう」


「それは分かります。だから、これはオレの我儘です。この冒険者を助けたら、ダンジョンの外の話しが聞けるかもしれないですし」


 いきなりグルんと視界が回転し、女王様の美しい顔が目の前にきた。

 や、オレが抱えられたまま回転させられただけだが。

 その女王の顔が悲嘆に暮れている。


「な、なぜだ……なぜ、外の世界のことを気にする!? そなたは妾と添い遂げるのだろう!?」


「え!? いや、子作りの手伝いと言う話しだったかと……」


 がーーーん……


 いや、古典的過ぎでしょう、その驚き方。


「お、お主は、あ、愛を確かめ合うと言うたではないか……あれは嘘だったのか……」


「いや、あれは人間同士の場合、そういう意味もあると言っただけで……」


 そもそも、あんた愛って言ってもキョトンとしてたじゃ無いですかーーーー!


「ぐ……ぐぐ……その女が良いのか……? 妾の様な異種族では無く……同じ人間の女の方が良いのかぁーーーーーー! 昨夜はあんなに優しくしてくれたのにーーーーー! この裏切者ぉーーーーーーううぇーーーーーーーん……」


 だぁーーーーーーーーーっ、女王ともあろうお方が子供の前で泣くんじゃありません!!

 

 泣きじゃくる女王を宥めすかして、なんとか女冒険者の治療を了承して貰った。



◇◇◇

 気を失っている女冒険者を子蜂たちが遠巻きに取り囲んでいた。


 オレは、女冒険者の脇に屈み、傷の様子を見ている。もちろん、背中にはオプションの様に女王様が張り付いている。


 両腕は折れ、両足の腱には切られたような傷、そして背中には長刀で袈裟切りにされた様な大きな傷。


「なんでだろう……どれも酷い傷だと言うことは分かるんだけど、全部中途半端に治りかけてる……」


 オレの言葉に女王様が、頬に当たるくらいの近さで後ろから覗き込む。


「これは、あれだ、ポーションとかいう奴で治療し痕だの。冒険者は、そういう薬液を使って傷を治すと聞いたことがある」


 ポーション……ゲームとかで出てくるアレか……

 

「まぁ、いいや、これから治療を始めます。暴れられると困るので取り合えず足の腱はそのままですが」


 言ってオレは女冒険者をギフトで治療する。

 みるみる内に傷がふさがり、女冒険者は目を覚ました。


「ここは……」


 女冒険者は上半身を起こし、辺りを見回す。


「き、キラー・ビー!?」


 そしてメリアスに取り囲まれてることに気付いて、咄嗟に腰に手を伸ばした。

 が、そこには鞘しか無く、差さっていたはずの剣はどこにもなかった。



 因みに、子蜂たちが運んできた時も剣はなったので、仲間の冒険者たちが持ち帰ったんじゃないかと思う。知らんけど。



「メリアス。彼女らはメリアスという種族だ」


 どうやら冒険者たちはメリアスをキラー・ビーと呼んでるようだが、物騒なので訂正しておく。


「お前は何者だ!? なぜ女王蜂を背負っている!?」


「いや、それは置いとくとして」

 

 説明するのメンドクサイし。


「死ぬところを助けたんだから、礼の一つでも寄越して良いんじゃないですか?」


「助けた……? っ!!」


 言って、冒険者は自分の身体を確認する。


「う、腕が……背中も治ってる!?」


「暴れられると困るんで、足はそのままだけどね。話によっては、その足も治してあげる」


 怪訝そうに見つめてくる女冒険者。


「……何が望みだ?」


「ここにいるメリアスたちと敵対しない事。それと情報。オレは異世界から転生してきたばかりなので、こっちの世界のこと何も分らんのですよ。ここがダンジョンだと言うことは女王様に教えて頂いたんですが、外のことはさっぱりで」


「異世界……? ああ、”渡り”か……400年前に帝国を築いたのが、確か”渡り”だったと言う話だったな……」


 お? 前の転生者はオレ強えぇしてたのか。担当者がまともだったのかな? オレの担当者ときたら、まともにスキル渡す気配すら無かったものな……いかん、思い出すと腹が立ってくる。


「その”渡り”がなぜキラー・ビー」


「メリアス」


「め、メリアスと一緒にいるのだ……?」


「質問してるのはこっちなんだが……まぁ、いいや。メリアス達が死にかけてたので助けたら感謝されたってだけ」


「きっ……メリアスを助けただと!? モンスターだぞ!? お前は自分が何をしてるか分かってるのか!?」


 女冒険者の言葉に、メリアスの雰囲気が剣呑としたものになる。


「モンスターじゃない。意思疎通ができるなら、それは単なる異種族だ。一緒にするのは失礼だぞ」 


「な……」


 女冒険者が言葉に詰まる。


「あんたら冒険者は異種族と会話したことは無いのか? メリアスはちゃんと知性が合って、言葉も交わせるぞ?」


「……メリアスの様な上級モンスター……種族が知性を持ってるのではないか、と言う論文が出されたのは知っている……だが、そんなものは世迷言だと一蹴されている……誰も信じていなどいない……」


「ほほほ……人間は野蛮だの」


 あざ笑うように女王が口を開く。


「しゃべった!?」 

 

 驚いて女王を見上げる女冒険者。


「我が子らは言葉を使わぬが、うぬら人間より余程上等な会話をし取るわ。うぬの背中の傷、味方にやられたのであろう?」


 ぐっと歯を食いしばる女冒険者。


「え? そうなの!?」


 そして、驚くオレ。


「お主は人が良すぎるのだ。そこが好いのだがな」


 言って頬をこすりつけて来る女王。


「普通の人間は仲間すら平然と裏切る。我らが自ら人間に関わろうとしないのも理解できるであろう?」


 ああ、だから人間もコミュニケーションが取れることを知らなかったのか……


「話が逸れたな。オレの望みはあんたがメリアスと敵対しない事、それと外の情報だ」


 女冒険者はわずかに逡巡したものの、素直に頷いたのだった。


蜂人間の種族名メリアス(Meliath) はギリシャ語で「蜂蜜」を意味する「meli」から取りました。

女王様の名前もちゃんとあります。次回更新時にはお披露目できるかと……



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