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 甘い夢を見ていた。

 可愛い幼女たちに囲まれ、彼女たちの差し出すスイーツを食べまくる夢。

 口の周りがべとべとになり、下手したら鼻の穴にまで押し込まれる。


「う~~ん……もう、食えない……」


 言葉を口に出してから、すぐ意識が微睡みの中から浮上していく。

 目を開けると愛らしい幼女が、オレの口の中に黄色くにちゃにちゃしたものを押し込んでいた。

 甘い舌触り。蜂蜜に似ているがそれよりも爽やかでくどさが無い。

 租借しながら起き上がると、そこは森の中の開けた場所だった。


 ああ、そういや、昨日ここで死体の山を見て、ギフトで治療して、そのまま寝ちまったんだっけか……


 オレが起き上がると、オレを取り囲んでいた蜂人間たちがサッと距離を取った。

 心配してくれてたのか、警戒されてたのか……

 よく見ると昨日あれほどあった死体は片づけられていた。


ヴヴヴヴ


 一匹の蜂人間がオレの前まで飛んでくる。さっきオレの口に蜂蜜(?)を押し込んでた個体だ。

 見ると、一本しかない腕に、器用に三本の腕を抱えていた。

 こいつは恐らく一番最初に治療した個体だ。たぶん、昨日のオレの呟きを聞いていたのだろう。

 蜂人間たちを見回すと、全員欠損部位を抱えていた。


「あ~~……はいはい、治せってのね。じゃあ全員この範囲に集まって」


 オレは両手を広げて範囲を示した。

 蜂人間たちはオレの指示通りに集まってくる。

 羽根が欠損してる者、羽根と足が欠損してる者など移動に不備がある者たちを比較的軽症者たちが抱えたり手伝ったりしてスムーズに集まった。


「はい、じゃあ……治療!!」


 やはり光ったりはしなかった。

 抱えられてた欠損部位が空気に染み出す様に消えていき、欠損個所から生えていく。


 なんとも不思議な光景だ。これで魔力を使わないと言うのだから原理を考える意味も無いだろう。一言言うなら――――――


 異世界のギフト凄い! だ。


 時間にして三秒もかからず、全員が五体満足に戻った。

 蜂人間たちは、嬉しそうな顔を浮かべ(嘘、表情変わらないのでオレの主観)頭をつつき合わせている。

 オレの言葉は伝わってるようなのだが、蜂人間同士は言葉を使わないようだ。


 一通り話し合いが済んだのか、蜂人間たちが一斉にオレを取り囲んだ。


「あれ?」


 そしてじわりじわりと輪を狭めていき、一斉に飛び掛かってきた。


「うわぁぁ----ーーーーーーーーーーーーっ!?」




◇◇◇


 数分後、オレは空中を運ばれていた。Tポーズのままがっつり手足を抱えられて。

 別に不快ではない。

 一匹(や、一人か?)の蜂人間がちょくちょくオレの顔の前に飛んできて、ペタペタとオレの顔に触れる。その都度笑顔を向けてやると、安心したようにオレを抱えて飛んでる連中の様子を見て回り、おかしな持ちかたをしてる仲間に注意をしてる。


 悪気は無いと思うのだが、どこに連れていかれるのやら……


 しばらくすると驚くほど巨大な樹が見えてきた。

 森の中なので全容は分からないが、直径20メートルは下らない、立派な大樹だった。

 黄色い花を咲かせ、一見美しいのだが、よく見ると焼け焦げがあったり、大木の様な枝が折れていたり……恐らく、ここでも争いがあったのだろう。


 近づいていくと、地上から10メートルくらいの位置が大きく膨らんでおり、そこには暗い洞が空いているのが分かった。


 この子達の巣だろうか。あそこが目的地かな?


 そんなことを考えてると、大樹の根元に降ろされた。

 洞には通されず、その下の根元に。

 理由はすぐに分かった。


 数匹の蜂人間に支えられている、両手両足両羽を失い、芋虫の様に樹にもたれてるひときわ大きな個体。

 恐らく女王だろう。

 脚が無いので正確には分からないが、身長は170センチくらい。

 ちっちゃい蜂人間を成長させた姿と言えば、その通りなのだが、彼女はずんぐりしてないどころか手足があれば元の世界の超一流モデルも逃げ出すほどの美貌の持ち主だった。


「…………」


 数秒お互いを見つめあう。向こうは観察する様に、オレは単に見惚れて……


「そなたが我が子らを助けたと言う人間か……なぜ、かような真似を――――――」


「治療!!」


 オレは彼女の言葉を遮るように治療を行った。彼女を支えてた蜂人間たちが欠損部位を抱えてたので、恐らく完璧に治るだろうと言う読みで。

 治癒は一瞬で済み、彼女は完全にその美貌を取り戻した。

 想定外だったのは身長。オレの読みより10センチは高い。恐ろしいほどの美脚の持ち主だった。


 女王は目を見開いてオレを見つめ、おもむろに立ち上がり六肢の無事を確かめる。

 問題無いことを確認したのか、再びオレを見た。


「なぜこんな真似を……放っておけば、この階層の我らを駆逐することも出来たろうに……」


「階層?」


 オレはあたりを見回すが、特に天井は見当たらず、木々の隙間から青空が見えていた。


「人間は”我ら”を殺し、このダンジョンに覇権を唱えようとしてるのであろう?」


「ダンジョン!? え!? ここダンジョンなの!?」


「…………」


 女王は驚いたようにオレを見つめる。

 そんな姿も美しく、オレは照れてしまう。


「そなた……何者だ? 人間……なのだろう?」


 正直、返答に困る。オレはこの世界の人間を知らない。彼女の反応から多分この世界の人間もオレと似たようなものだろうと推測は出来るが……


「一応、人間だと思ってるが……実は昨日別の世界から放り込まれたばかりなので、この世界の事がよくわからん。こっちの人間もオレみたいなのか……?」


「別の世界……そういえば聞いたことがあるの。この世界の神が気まぐれで別世界のものを呼び寄せると……なるほど、通りで行動がちぐはぐな訳だ」


「ちぐはぐなのか?」


「我らを襲撃したのは人間の冒険者と呼ばれる者たちだ。我が縄張りを蹂躙し、我が子を殺し、我らの糧食と財宝を奪っていきよった……」


 その相貌に浮かぶのは悲哀と憎悪。

 だが、そんな姿も美しい……いや、ホント美人ってどんな表情でも美しいのかもしれない。


「なんであれ、そなたには感謝を。同じ滅ぶにしても、我が子らを野ざらしでは無く弔うことが出来た」


 言って女王がある一角に目を向ける。

 釣られる様にそっちを見てみると、目に映るすべての木々の根元に土が盛られていた。恐らく埋葬されたのだろう。

 にしても……滅ぶ?


「そなたに礼をしたいのだが……生憎すべてを奪われた後だ許して欲しい」


「あ、礼とか別に良いよ。困ってる時はお互い様だし」


「お互い様……我らと人間で、か?」


 女王が苦笑する。オレの考えは、この世界の常識にはそぐわないのかも知れない。


「この世界の人間のことは知らない。オレの世界ではそうだったってだけだ。そういう考えのもと育ってきたから、今更変えられん。それより、さっき『滅ぶ』とか言ってたよな……あれ、どういう意味だ?」


 女王は苦悶の表情を浮かべた。


「言葉通りの意味だ。先の襲撃で、男が全員殺された……我が領土はこの階層でも一番奥まった所にあっての。ここまで攻め込まれたと言うことは……他種族の男も絶望的だろう……子種が無ければ種族は保てん……」


 この階層の一番奥か……上下にも階層があるってことかな? ここ何階くらいなんだろう?

 つか、この世界の冒険者ってすげぇみたいだな。ゲームでも無駄な戦闘は避けるし、蹂躙なんかしたくても出来ない。複数パーティーで攻略してたのかな?

 覇権を唱えるとか言ってたから、この世界のダンジョン攻略は宝探しや素材集めが目的では無いのかもしれないなぁ……


「おぬし……その、我らに嫌悪感は無いのかの……」


 ぼんやり考えごとしてたオレに女王が妙なことを聞いてきた。


「嫌悪感? いや、全然。むしろ美しいと思ってるが?」


「美しい? 我らがか!?」


「ああ」

 

「……///」


 オレの返事に女王は戸惑うような仕草を見せた。

 美醜の感覚はこの世界では違うのか? 価値観逆転世界とか……

 つか、この女王様が美しくなかったら、他の何が美しいと言うのだ。


「……我らを治癒してくれた相手に、礼も返せずこんなことを願うのは烏滸がましいと思うのだが……」


 女王が、何か言い辛そうに言葉を紡ぐ。


「?」


「その……そなたの子種の分けて貰えぬだろうか……?」



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