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異世界の一員に

 中に入ると真っ先に目に入って来たのが、弧を描いて配置された長い受付のカウンター。年季の入った木材を使用しているためか、はたまた良いコーティングをしているためか。色艶が離れていてもわかるほど、美しく見える。

 両脇には二階に上がるカーブした階段があり、そこでは冒険者と呼ばれる人々が食事を楽しんでいた。

 一輝が感動して、その場で立ち尽くしてしまう。すると、それに気が付いたレイラが一輝の腕を引っ張った。


「ほら、さっさと登録を済ませておきましょう。ついてきて」


 レイラの促されるままに受付の右側へと歩いていく。

 銀髪に眼鏡をかけた女性がおり、頭頂部の左右から獣の耳らしき物体が飛び出ていた。


(獣人って奴かな? じゃあ、エルフとかドワーフみたいな人種も会えるか!?)


 曾祖父に聞かされた頑固で物作りが好きなドワーフや精霊と会話ができるとされるエルフ。一輝がいた世界では決して出会うことのできない人々に合うことも、異世界に行きたいと望んだ理由の一つだった。


「こちら、冒険者登録窓口です。登録をご希望されますか?」

「えぇ、私じゃなくて、彼が」


 レイラに背中を押され、進み出る。受付嬢はそんな一輝の目の前に水晶玉を置いて話し始めた。


「このギルドの存在意義は、『この世界に生きている人々の安全を確保し、生活水準を向上させること』になります。よって、基本的に自己の利益を追求するために、他人に害を与えることは禁止されております。それが守られなかった場合は、冒険者ギルドだけでなく、所属する各ギルドを敵に回すことになりますので、ご注意ください」

「わかりました。登録をお願いします」

「では、水晶に手を置いてください。そうすると、自動的に下に置いた羊皮紙に情報が書き出されますので」


 受付嬢の視線を追うと、確かに水晶玉の下に羊皮紙が差し込まれていた。一輝は言われた通りに水晶玉へと手を置く。ひんやりとした感覚に心地良さを感じていると、羊皮紙に文字が浮かび上がり始めた。


 ――――――――


 氏名:カズキ・フタシロ

 年齢:十七歳

 性別:男

 出身:不明

 種族:人間

 健康状態:良好

 魔法適性:優

 状態:比翼


 ――――――――


 羊皮紙に書かれた内容を見て、安堵と不安の二つの感情が同時に襲って来た。

 一つは出身が不明であることだ。この世界で生まれていない以上、日本などと書かれた日には大騒ぎになること間違いなし。ただ、公的な証明書の代わりになるのに不明でいいのかは疑問が残る。


「あの、出身が出ていないのですが……」

「あぁ、よくあることなので気になさらないでください。本人がどの国で生まれ、育ったかを明確に認識していない場合は、不明と出てしまうのです」

「それ、いいんですか?」

「はい。仕様なので」


 ギルド側の人間が承知の上ならば、一輝がこれ以上心配する必要もない。さらに羊皮紙を下に見ていくと、今度は状態の欄に「比翼」と書かれていた。


「これは……何ですか?」

「申し訳ありません。私にもわかりかねます。状態の欄に書かれていることから、体になにか異常は出ていませんか? よく見受けられるのは『呪い』というものがありますが」

「え、何それ。怖い」


 呪われた状態がよくあるという事実にも驚きだし、自身が呪われている状態と似た何かになっている可能性にも驚きだ。少なくとも、この世界に来てから呪われるようなことなど――


(いや、あったな。レイラに呪われている可能性が)


 大切に使っていた相棒を壊されたのだ。恨みの一つでも抱くのは、人として当然の反応だ。

 恐る恐る一輝が後ろを振り返ると、覗き込んでいたレイラと目が合った。


「怒ってはいるし、納得もしてないけど、呪ってやろうとまでは思ってはいないわよ。何とかして魔法剣は弁償してもらおうとは思ってるけど」

「もし心配ならば、ギルドの診療所や各教会で相談をされるとよいでしょう。そういったことにも対応できる方がいることもありますので」

「わ、わかりました。何か気になることがあったら、頼ってみます」


 一輝は受付嬢に礼を言う。

 それを受けて、受付嬢はカードと小冊子を取り出した。


「こちらはギルドカードです。各種依頼の契約と報告に必要になるほか、身分の証明にも使えます。尚、カードの偽造や改変は極刑となります。紛失時には再発行手数料が必要ですので、ご注意ください」

「は、はい……」

「こちらの冊子には、冒険者として活動するために必要な最低限の注意事項がまとめてあります。必ず目を通すよう、お願いします」


 冊子を一輝の方へと渡す際に、殺気染みた圧を受付嬢は醸し出す。思わず唾を飲み込んでいると、視界にレイラの手が割り込んで来た。

 レイラは手を上下させながら苦笑いする。


「はーい。職務に忠実なのは良いけど、真剣過ぎて怖いですよー」

「む、これは失礼しました。まだ、受付は慣れていないので申し訳ありません」

「いいのいいの。それより、あの決め台詞言ってあげて」


 レイラが手を退けると、受付嬢は軽く咳払いをする。

 目を瞑り、少し集中しているようだ。一輝が何事かと身構えていると、受付嬢の目が急に見開かれた。


「それでは、冒険者登録を終えたあなたにこの言葉を送らせていただきます。『冒険者は、冒険の最中に冒険するなかれ』。その意味は、これからの冒険者生活の中で把握していただければと思います。以上です」

「は、はい。ありがとうございます」


 一輝は理解しきれないながらも、とりあえずお礼を言ってカウンターから離れた。


「お疲れ様。それで、どうする? 依頼掲示板を見ていく?」

「そうだな。俺が出来そうな依頼だと何がある?」


 レイラに連れられて羊皮紙が張られた掲示板まで歩いていく。

 いくつも羊皮紙が張られているが、それを見たレイラは不満そうだ。


「どうした?」

「常時張り出してる薬草採取依頼が無い。あれなら、あなたでも簡単にお金を稼げると思ったんだけど……」


 他の内容を見てみるが、討伐依頼のものばかりだ。加えて、レイラが言うには、その魔物の出現する地域までは最低でも半日はかかるという。

 ちょうど羊皮紙を張り出しに来たギルド職員に尋ねると、薬草採取依頼は明日以降に張り出されるらしい。


「最近、低級ポーションの生産が間に合わず、メテル薬草が余ってるんです。もう一つか二つ上のランクのポーションなら、売れやすいんですけどね。そちらはそちらで供給不足なんですよ」


 一輝が今日稼げる依頼は今のところないことだけは確かだ。しかし、宿に泊まろうにも使える硬貨はない。


「そういえば、さっきの金貨預けないと……」

「預けるのにもお金がいるの。ギルドカードは、どこの誰が街の中にいるのかを把握するのに役立つから、無料で発行できるけどね」

「まじ、かよ」


 人生初の異世界での夜は、野宿であることが確定。季節的には何とか我慢できるが、それでも不安はつき纏う。果たして己の命と荷物を無事に朝まで守り切れるのか。

 一輝が頭を抱えていると、レイラは小さくため息をついて一輝の肩を叩く。


「ついてきて。短期間であれば、寝床くらいは用意できるから」

「それは助かる! レイラは命の恩人だ」

「それを言ったら、カズキこそ私の命の恩人よ。正直、あの魔物の大群は私も予想していなかったから。多分、隠しエリアだったから、魔物が討伐されずに残っていたんでしょうね」


 冒険者ギルドを出たレイラは、そのままメインストリートを北上していく。だんだんと城が近付いて来るにつれて、一輝は不安が増して来た。


(も、もしかして、レイラがこの国の王族、ってことはないよな? 王族がダンジョンに単身で潜るとか考えられないし、違うと思いたいけど)


 それでも万が一の可能性を捨てきれずに身構えていると、城へと続く門の手前でレイラは右へと曲がった。どうやら、単純に目的地の通り道だっただけらしい。そのまま、数分ほど歩くと、レイラは振り返った。


「ここが私の通う魔法学園よ。部外者が初めて中に入る時は、門番役のガーゴイルにギルドカードを見せるのが決まりなの。無くしてないわよね?」

「流石に、そこまでお子ちゃまじゃないさ」


 ポケットに突っ込んであったギルドカードを取り出すと、門の両側にいた石像の片割れが動き出した。先程までは褐色の砂岩のような質感だったのが、あっという間に滑らかな青黒い肌へと変貌し、大きな一対の蝙蝠の羽を広げた。山羊のような二本の角が突き出た顔を一輝へと向ける。


「カード情報確認完了。冒険者ギルド発行ノモノト確認デキタ。カズキ、ダナ? 入ルコトヲ許可スル」

「あ、あぁ、ありがとう」


 概算ではあるが、体長は二メートルを超える筋骨隆々とした姿に、思わず一輝は頬が痙攣を起こした。

 何となくではあるが、ダンジョンで出くわしたゴブリンやオークなどとは比べ物にならないほど強い気配がする。もし戦ったとしても、自分の木刀が耐えられるか自信がなかった。


「さぁ、今後は顔パスよ。でも、時々、急に提示を求められる時があるから、基本的には持ち歩いてね」

「それはいいけど、ここは学校なんだろう? 俺が入っていいのかって問題と、どこに泊るところがあるのかって問題だ」


 一輝は周囲を見渡しながら、レイラに問いかける。

 すれ違う人は格好も様々で、ブレザーのような制服を着ている人もいれば、ローブ姿の人もいる。中には魔女のイメージである三角帽子を被っている人もいた。ただ、レイラのように鎧を着ている人は見つからなかった。

 そして、やはり魔法学園と言うこともあり、持っているのは多くの人が指揮棒のような短い杖。極稀に一メートル以上の長さの杖を持っている人も見かけるが、みな老齢の人だった。


「何か、視線がすごいな……」

「それはそうでしょうね。私と一緒にいるのもそうだし、あなたの格好も髪の色も、この国ではあまり見ないから」


 黒のシャツにジーパン。ベルトに鞘付きの木刀を差して、登山用の大きな鞄を背負っているとなれば嫌でも目立つ。

 ただ、一輝はレイラの言葉に疑問を覚えた。


「レイラといるから?」

「私、魔法剣士として騎士を目指しているの。残念だけど、そういう人はこの学園にはそんなにいないのよね。一学年に十人いればいい方だと思う。それに学園のダンジョン内で魔法剣を手に入れたってことも、注目を浴びる原因の一つかもね」


 そう告げたレイラは城壁と繋がっている小さな――とは言っても、国王がいる城と比べてで、普通に大きい――城の入口へと向かっていく。

 一緒にその中へと向かうと、それを見ていた生徒らしき人たちがどよめいた。

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