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伝言

 叙勲が行われた後、一輝とレイラはスタンに案内され、城の一室に通された。


「――え゛っ!? スタンさんって、宮廷魔術師!?」

「呆れた。あなたの目の前で金貨を元に戻した時に気付かなかったの? 前にオリビアが言ってたじゃない。『金貨を片手に偽造金貨が出回っていないか確認する宮廷魔術師がいる』って!」

「いや、だからって、それがニコイチ――統合魔法を使ってたからとは気付けるはずがないじゃん! 統合魔法はスタンさんは覚えていないって聞かされていたんだから」


 一輝とレイラが言い合っているのを、ソファに座りながらスタンが笑顔で頷いていた。


「仲が良いな。本当に、この世界に来て数日しかたっておらんのか」


 一輝はスタンにこの世界に来た経緯を洗いざらい話した。曾祖父が異世界に来てしまったことから一輝がこの世界に訪れたことまでを全て語ることはできなかった。それでも、事前に出会えた時の為に話すことを決めていたので、言い淀まずに話し終えることができた。


「はい。ただ、その原因は色々と複雑なものがありまして」

「まぁ、同じ屋根の下で男女が寝泊まりすれば、情の一つも湧くというものだ。学園の風紀が些か心配になるがな」


 大きくスタンがため息をつく。レイラは反論したそうにしているが、流石に相手は宮廷魔術師。血縁者の一輝と違って、迂闊に話しかけるのは貴族としての常識を弁えているレイラからすると不可能に近いようだ。


「その、実は比翼の呪縛にかかってしまっていて、十メートル以上離れられないんです」

「比翼の呪縛か。それはまた難儀なものにかかったものだ。もしも、アブルフェーダ子爵の耳に入れば大事になるだろう」


 スタンは気の毒そうに一輝を見た後、レイラへと視線を送る。


「因みに、その気はあるのかな? お嬢さん」

「なっ!? そ、その気って、それは、その……」


 言い淀むレイラを見てスタンは大声で笑い出す。大きな掌でふとももを叩く音が部屋に木霊した。


「いや、これは失礼。今日は少しばかり心が落ち着かんせいか、口も滑っていかん」


 顎髭を撫でながら目を細めるスタンを前に、一輝は顔が赤くなったレイラへと問いかける。


「レイラ、その気って何だ?」

「うるさいわね。私は良いから、親戚同士で話を進めなさいよ!」

「えぇ……?」


 戸惑いを隠せない一輝だったが、事実、ここにはスタンと話をする為に一輝だけがいればいい。比翼の呪縛で一緒に居ざるを得ないレイラからすれば、居心地が悪いのは当然と言える。


「それでは本題に入ろう。リヴァイが言い残したことを聞かせて欲しい」


 一輝が曾祖父が遺した魔法で、この世界に来た理由は簡単だ。リヴァイのスタンや両親に伝えたかった言葉を代わりに伝えるためだった。


「ひい爺ちゃんは、こう言ってました。『別れも言えず、国を捨てた形で異世界に渡ってしまったことを許して欲しい。ただ、こちらで自分が幸せに生き抜いたことは間違いない。だから、そのことだけは心配しなくて良い。私の故国がいつまでも平和で続いていくことを願っている』と」

「君は、その言葉を伝える為だけに、異世界を渡ったのか……」

「はい。個人的には、大手を振って魔法を使ってみたかったっていうのもあります。それに、俺はそのことに後悔していません。両親も納得済みですし。ただ、俺の住む世界とスタンさんがいた世界で時間の進み具合にずれがあったことは驚きですが」


 曾祖父であるリヴァイの歳は、明らかにスタンを上回っていた。それは転移した時に二つの世界の時間軸がズレていたからだろうと、一輝は推測する。御伽噺の浦島太郎が竜宮城から戻って来た時のように。

 この世界にやって来る時にしまっていたリヴァイの写った写真をテーブルに置きながら、一輝は申し訳なさそうにスタンの顔と見比べる。


「そうか。あいつがこんなに家族に囲まれて逝けたのは、私としても救いではある。ただ、それでも一言、弟に代わって謝罪をさせてくれ。君のような若者に重荷を背負わせてしまい、申し訳なかった」

「良いんですよ。俺としては、こちらの世界でそこそこ成り上がって、悠々自適に過ごすのもいいかと思ってるんです。実際は成り上がるほど忙しくなるんでしょうけど」


 一輝なりの冗談を飛ばすと、唐突にスタンが黙ってしまった。

 何かマズいことを言ったかと思い、レイラへと視線を送るが、彼女は彼女で首を傾げるのみ。再び、視線をスタンに戻しても顎髭を撫でながら天井を見上げるばかりだ。

 そんなスタンは、ふいに一輝を見てとんでもないことを言い始める。


「私の二人の息子には伯爵と子爵の地位と土地を分け与える予定だ。もし、君さえよければ領地持ちの男爵にすることも可能だが?」

「なっ!?」


 一輝よりも先にレイラの方が驚愕の声を上げる。先程までは我関せずを貫いていた彼女が、スタンへと言葉を投げかけた。


「シルベスター伯爵! いくらなんでも、それは陛下がお許しにならないかと。カズキは正式なファンメル王国の国民ではありません」

「血筋的には問題ない。我が家相伝の魔法は、十分その証として機能する。それは収束魔法を継承している君が一番よくわかっているのではないかな?」

「た、確かにそうですが、それでも騎士爵を賜り、その即日に男爵の位を与えるのは陛下にも失礼に当たります」


 国王が褒美として与えた爵位を、その配下である宮廷魔術師が上書きする様にして爵位を与えるのは不敬になる。その警告にスタンは大声で笑った。


「はっはっはっ、何も今すぐにという話ではない。将来的にどうだということだ。恐らく、統合魔法は私の息子たちよりも優れているようだし、あいつしか気付いていなかった使い方も心得ていると見た」


 スタンは一輝の木刀を見つめる。


(もしかして、ランクアップの効果については、あまり知られていない?)


 ランクアップは曾祖父から教えてもらった性質だ。長年、魔法を使い続けた者のみが気付くことができるものか、或いはスタンが覚える頃にはそれを伝えるべき人間が亡くなっていたか。いずれにせよ、スタンからすれば潰えかけた相伝の魔法を正しく継承させるチャンスが巡ってきた形だ。その思惑に一輝は乗るべきかを思案する。

 その間にスタンはレイラへと穏やかな声で語り掛けた。


「それに比翼の呪縛を解いてからではないと領地にも向かうことが出来ん。君もそれについて行くとなったら学生生活が困ることになるだろう? その気があるなら、話は別だがな」

「だーかーらー、違うって言ってるじゃないですかっ!」


 本来ならば伯爵――しかも、宮廷魔術師相手に言葉を交わすことも難しいというのに、何故かこの部屋では祖父と孫たちが会話するような和やかな雰囲気に包まれていた。

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