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叙勲

 その後、エミリーの打ち上げた火球に気付いた冒険者の一団が駆け付けた。

 彼女がしっかりと地図を用意していたおかげで道に迷うこともなかった。一輝たちの周囲は冒険者ギルドや騎士ギルドのスカベンジャー対策の部隊が到着するまで、厳重に守りを固められた。

 結果、スカベンジャーは捕縛。一輝たちは救助の傍ら、証人の保護という形で冒険者ギルドへと運ばれた。


(来ていた装備や魔法剣やらが、死んでしまった冒険者の使っていた物と何から何まで一致。死刑か、良くても炭鉱かどこかで一生奴隷生活か。まぁ、当然の報いだよな)


 冒険者ギルドでベッドに寝たまま証言をした後に聞かされた話だが、証拠をそろえるまでもなくほぼ確定らしい。

 何でも、指名依頼などを用意した際に受付嬢に魔道具で催眠を掛けていたことが発覚し、一輝たちがダンジョンに潜っている間に犯人の特定や捕縛部隊の用意が進められていたのだとか。

 エミリーの救難信号から部隊が素早く到着したのにも、そう言った事情があるのだという。


(あの時、もう一日、二日レイラを引き留められていれば、こんな目に遭わなくても済んだのか)


 そう後悔した一輝だが、すぐにそれを頭の中から振り払う。もしも、ダンジョンを訪れて居なければ、学園の生徒の命が一つ潰えていただろうから。

 もう終わったことはそれでいい、と一輝は小さく息を吐く。決して、ため息などではない。そんなことをしようものなら、せっかく助かった命が潰えることとなる。

 靴が固い床を叩く音が数人分木霊する。

 一輝は()()()()()、その音が止まるのを待った。


「面を上げよ。これより、国王陛下自ら貴殿らに叙勲を行う。それに先立ち、陛下からの御言葉がある。心して聞くように」


 目を開ければ、床には深紅のカーペット。わずかに視線を横に逸らせば磨き上げられた大理石のような床。一輝たちの両脇には騎士たちが整然と並び、槍と剣を掲げていた。

 上げた視線の先には、水色の髪と瞳をもった年若い男が玉座に座っている。中央から髪を左右に流し、切れ長の瞳で一輝たちの顔をじっくりと見つめていた。


「うむ、冒険者ギルドより君たちの活躍は聞き及んでいる。多くの有能な冒険者を殺害し、その身に纏っていた装備を奪って私腹を肥やしていた者がいたと。しかも、その不届き者は、あろうことか奪った魔道具で身を固め、騙し討ち同然で襲い掛かったとか。それを年端もいかぬ若き者たちが、協力して立ち向かい、正面から打ち破ったと聞いた時には心の底から湧き上がるものがあった。いずれ我が国を支えるだろう若者の中に、君たちのような者がいたことを嬉しく思う。今回の活躍を評価し、我自ら騎士の地位を与える。呼ばれた者から、前に出るがいい」


 国王が剣を引き抜くと、隣に控えていた宰相が巻物を開いて名前を読み上げる。


「オリビア・クラーク」

「は、はいっ……」


 緊張した面持ちで、オリビアが前に進み出る。心なしか腕と足の動きが微妙に一致していない。


「両親の教会での献身ぶりは、我の耳にも届いている。将来、どのような道に進むにせよ。己の力を信じて進むといい」

「あ、有難き幸せ、です」


 跪いたオリビアの右肩と左肩を剣の平面部分で軽く叩いた。


「リアム・グリフィン」

「はっ!」


 オリビアと入れ替わる形でリアムが国王の前へと進む。


「リトロー伯爵の息子か。伯爵から話は聞いているぞ。いずれ、我が軍の一翼を担う将官になることを期待している」

「勿体ない御言葉をいただき、感謝の極みです」


 オリビアと同様に剣で肩を叩かれたリアム。伯爵という地位に父がいるおかげか、オリビアと違って堂々としていた。


「エミリー・カーター」

「はいっ!」


 元気の良い返事で進み出るエミリー。リアムは、そんな彼女と入れ替わって元の位置に跪くが、その表情は明らかに不安そうであった。


「貴族の出ではないと聞いている。そのような中で、魔法学園では突出した才を発揮していると聞いた。両親に会った際には、この叙勲のことと共に、活躍した話をよく聞かせてやると良い」

「わかりました! ありがとうございます!」

「うむ、良い返事だ。では、頭を下げよ」


 国王に言われて頭を下げるエミリーだが、その一部始終を見たリアムは苛立ちを抑えきれないとばかりに拳を握りしめていた。

 この場において、似つかわしくない言動をする可能性が高いと前もってオリビアがエミリーに話をしていたのだが、その努力は報われなかったらしい。恐らく、そのオリビアの指導も、リアムの指示によるものなのだろう。


「レイラ・フローレンス」

「はいっ」


 名を呼ばれたレイラは、リアム同様に淀みなく立ち上がり進み出た。赤いポニーテールを揺らし、国王の前へと向かう。


「アブルフェーダ子爵の娘か。顔を合わせる機会は少ないが、彼の領地経営は非常に上手くやっていると宰相から報告を受けている。君は君で、魔法剣を手に入れて活躍していると世間では噂されているが、とんでもない。それを使いこなす努力をし続けて来たのは、君自身の力だ。周囲の下らぬ言葉など気にせず、腕を磨き続けたまえ」

「有難き御言葉をいただき、光栄です」


 そして、ついに最後の一人の名前が読み上げられる。


「カズキ・フタシロ」

「はい」


 一輝は立ち上がると、緊張した面持ちながらも何とか前に進み出ることができた。レイラが下がる際に、小さな声で「がんばって」と声を掛けてくれたおかげかもしれない。

 水色の双眸に緊張しながらも一輝が跪くとわずかに無言の時間が流れた。


(まぁ、一人だけこの国の人間ではないからな。そりゃあ、他の人と違って、どうやって声を掛けるか困るだろうな……)


 今回のスカベンジャーの討伐での最大功労者は、リアムも含めてレイラたちが一輝の名前を挙げた。その結果、叙勲も大トリを務めることになった。

 そんな最も大切なところを任された一輝としては、どんな言葉が掛けられるのかを期待と不安で胸を一杯にしながら待っていた。だが、今までの流れと違う声がかかる。


「面を上げよ」

「は、はいっ?」


 何か粗相をしたかと慌てながら顔を上げると、目の前に金貨が二つ差し出されていた。

 まさか、最後の最後になって、自分には金貨二枚だけで叙勲無しということかと考えてしまう。そんな一輝に国王はある要求を口にした。


「珍しい魔法を使うと聞いた。二つの物体を一つにするとな。それをやってみてくれないか?」

「えっと……硬貨の偽造の罪に問われたりは――?」

「本来ならば硬貨の偽造は極刑に処す決まりだが、我の特権で許す。やってみせよ」

「わ、わかりました――『ニコイチ』」


 一輝は戸惑いながらも、ニコイチの魔法を国王の前で披露する。両手を開いて硬貨があることを見せたままニコイチを発動させると、右手にだけ金貨が残った。

 国王はそれを摘まみ上げると、目を細めて観察し始める。


「ふむ、重さは変わらず。輝きもそのまま、か。他の金貨と比べても遜色なさそうだな。スタン、確かめてみてくれ」

「御意」


 紺色のローブにフードをすっぽりと被った男が玉座の脇から進み出る。声の質からして、五、六十歳くらいだろうか。フードの下からも、わずかにだが白い顎髭が見えているので、より一層老齢な印象を一輝に抱かせる。


「では、金貨を――」


 国王から丁寧に金貨を貰い受けた男は、静電気でも感じたかのように肩を跳ねさせた。


「どうした? 何かあったか?」

「失礼しました、陛下。まさか、私以外にも『この魔法』を『この精度』で使いこなす者がいるとは思いませんでしたので」

「ほう。スタンがここまで驚く日が来るとは思わなかった。明日は雪でも降るか?」


 国王がわざとらしく、光が差し込んでいるステンドガラスへと目をやる。


「御戯れを。私は本気でございます」

「そうか。では、この者の魔法は?」

「えぇ、私と同じ――『統合魔法』の使い手でございます」


 そう告げたスタンは、一輝の目の前で両手を広げる。右手にのみ置かれた金貨がわずかに光った瞬間、左手にも出現していた。

 一輝はその現象を知っている。


「俺の魔法を、解除した?」


 今までで一輝のニコイチ魔法を解除できたのは、一輝の知る限り父と曾祖父の二人のみ。

 相伝魔法であるが故に、ニコイチ魔法を使える存在はこの世界であっても極一部しかいないはずだ。そして、その一部というのは言い換えると、曾祖父がこちらの世界にいた時の血縁者でしかありえない。


「さて、少年。何故、この魔法を使えるのか、教えてくれるかな?」


 スタンがフードを取ると、雪のような真っ白な髪をオールバックにした老人の顔が露になった。その老人の顔立ちはもちろん、その茶色の瞳に、一輝は見覚えがあった。


「あの、俺のひい爺ちゃんが、この魔法の使い手だったんです。俺のいた所に移り住んで、名前も『理合』に変えて、家庭を持って――でも、この国に帰る方法が無くて、ずっと生き別れたお兄さんのことを心配していたんです」

「……リアイ? まさか、リヴァイのことか!?」


 スタンが唐突に大声を上げた。国王の前にもかかわらず、目を見開いて一輝の両肩を掴み前後に揺する。


「あいつのことを曾祖父と言ったな。では、お主はリヴァイの曾孫か!?」

「はい。面影は無いかもしれませんが、ひい爺ちゃんから魔法を教えてもらっていました」

「そうかそうか。それなら、統合魔法を使えてもおかしくはない。それで、あいつは元気にしているのか!?」


 喜色の混じった声音で問いかけるスタンだったが、一輝は目を伏せる。その行動に不穏なものを感じ取ったのだろう。スタンの表情が途端に曇り出す。


「ひい爺ちゃんは、最後までこの国とスタンさんのことを想いながら――一年前に亡くなりました」

「……兄より先に亡くなる弟がいるか、大バカ者めが。共にこの場に立って、陛下と国を支えると誓ったではないか」


 一輝の両肩に置かれた手から力が抜け、スタンは意気消沈した様子でここにはいないリヴァイへと言葉を投げかける。だが、どんな言葉であったとしてもスタンに声を返す者はいない。

 両手を握りしめ、歯を食いしばるスタンを前に、一輝は何もできなかった。


「そこまでにしておけ、スタン。死者を悲しむのはいつでもできるが、生者の祝いはこの時限りだ。弟の忘れ形見の晴れ姿を笑顔で見守ってやるのが、兄の務めではないか?」

「はっ、陛下の前で見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」


 数歩、スタンが下がるのを国王は見届けると一輝に視線を戻した。


「随分と我の想定外の結果となったが、スタンの血縁者であれば問題はあるまい。叙勲に戻るとしよう」

「お願いいたします」


 一輝は国王の言葉に従い、再び跪いた。右肩と左肩に冷たく、硬い金属が触れる。ただ、それだけのことであったが、その行為がこの場においては重要な儀式であった。一輝たちがこの国における騎士の爵位を正式に叙勲されたことを意味していた。

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