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隠し階層の魔物たち

 討伐は意外と順調に進んでいた。

 一度に出会うゴブリンは五体前後で、稀にその倍の十体の集団がうろついていることもあった。


「この調子なら、あと数回程度で今日のノルマは達成だな。調子が良ければそのまま狩り続けてもいいかもしれない」


 消費した魔力は二割にも満たない。このまま、一気に倒し切れるのではないかと一輝はレイラのもつ水晶玉を覗き込む。

 その横でエミリーは、怪訝な顔で周囲を見渡した。


「うーん。あたしたちが優秀なのはわかるけどさー。それでも、討伐目標数が低すぎるかな? これ、パーティーでの討伐も可能になってるから、やろうと思えばもっと大人数で挑戦できるんだよね。あたしだったら、十人くらい呼んで魔法剣を貰ったら、売ってお金に変えちゃう――って、もしかして!?」

「なに? そんな大声を出して。そんなことしたら魔物が寄って来るでしょ」

「いや、今は寄って来てくれた方が探す手間が無くていい――じゃなくて、魔法剣だよ。魔法剣! レイラ、ちゃんと現物は確認したの?」


 エミリーの問いかけに、レイラは気まずそうな表情で視線を逸らす。


「えっと、ギルドへの銀貨の預かりは確認できたけど、現物は見てない……かな」

「もう、ダメだよ。先生も言ってたじゃん。万が一、指名依頼を受けられるようになったら、お金やアイテムのギルド預かりがあるかを確認しなさいって! 学園の卒業生も、それで何度か詐欺に遭ってるんだから!」

「で、でも、銀貨は全額あったし、大丈夫なんじゃないかな?」

「いやいや、魔法剣だってランクがあるでしょ! レイラが見つけたのはダンジョンの宝箱から出て来た『レアアイテム』。もし、そこらの店売りの低品質品を押し付けられて、納得できるの!?」


 慌てた様子でエミリーが両手をぶん回す。

 流石に、レイラも自分の思い通りの未来が待っているとは限らない可能性に思い至ったのか。少しずつ顔色が蒼褪めていく。


「そうか。俺も武器屋で魔法剣を買ってるところを見ていたから、そういうことがあり得ることに気付くべきだったな」

「今ならカズキが心配してくれてたことが、よくわかるかも。少し魔法剣に目が眩んでいたわ」

「まぁ、依頼を一度受けた以上はしっかりとやらないといけないな。少し時間がかかっていいなら、俺が何とか用意するから安心しろよ」


 一輝は木刀を担いで胸を張る。

 ここ数日の王都での生活で、一輝はレイラの魔法剣を何とかする算段がつき始めていた。

 ニコイチ魔法によるランクアップは、切れ味や耐久性といった各種性能をかなり引き上げることができる。木刀であってもレイラの魔法剣を欠けさせるほどの攻撃力と耐久性を持っているのだから、その魔法の効果は証明済みだ。

 それならば、やるべきことは一つ。低品質でもいいので、魔法剣の性質を持ち、かつ同じ形状の剣を買い集めてニコイチ魔法を掛ければいい。

 お金は魔術師ギルドのポーションのランクアップで比較的、楽に稼ぐことが出来る。あとは魔法剣を少し割増料金を払って鍛冶師に作って貰えば準備は整う筈だ。


「あー、指摘するべきところがいろいろあるんだけど、その購入代金はあなたが稼ぐつもり?」

「あぁ」

「あのね、あなたに恵んでもらう程、私も落ちぶれていないわ。そもそも、命を助けてもらった私の方こそお返しをしなければいけない立場でしょう?」

「……そうか?」

「誰がどう考えてもそうでしょ! 一緒に戦うってことは、互いの武器や魔法がぶつかり合うことだってある。あなたがわざと魔法剣を攻撃したわけじゃないんだから、あれは事故であり、私の責任。だから、王都に入る時のお金も返さなくていいし、むしろ私がどうしたらいいか悩んでるくらいなんだから、これ以上、借りを作らせないで!」


 一輝は目を丸くして、どうしたものかと考える。

 一輝としてはお世話になっているので、何とかしてレイラの力になりたい。レイラはこれ以上の借りは困る。互いの意見が正反対だ。


「俺は部屋に住まわせてもらってる時点で永続的に命を救われている状態なんだけどさ。それで別にいいんじゃない? 貸し借り無しで」

「む……」

「で、俺からすれば、こっちに来た時に急に魔物に襲われた状態なんだから、その時の俺視点からすれば命を救われた側なんだよな」

「な、なにが言いたいの?」


 レイラが困惑した表情を浮かべる。その横ではエミリーが何故か両手を腰に当てて頷いているが、一輝はそれは一度放っておいて、レイラに言うべきことは言っておかねばならないと口を開いた。


「受け入れられるかどうかはわからないけどさ。こういう時はお互い――」


 一輝が言葉を紡ぎきらない内に、洞窟の奥の方から大きな悲鳴が聞こえて来た。すぐに三人はそちらの方へと視線を向ける。


「もしかすると、ヤバいエリアを引き当てた奴がいるのかも」

「この前、私たちが遭遇したみたいに魔物の群れに襲われている可能性があるわ。急ぎましょう!」

「あぁ!」


 一輝とレイラが走り出すのに遅れて、エミリーも走り出す。そんな彼女の口から小さく声が漏れた。


「……まったく、仲が良いのか悪いのか。でも、ある意味でお似合いかもねー」

「エミリー、何か言った!?」

「いーや、あたしより前を見て走りなよ。カズキンにぶつかって、押し倒しちゃうかもー」

「そ、そんなこと、早々起こるわけないじゃない!」


 意地の悪い顔をするエミリー。それに対して、レイラは顔を真っ赤にして顔を背ける。

 レイラの反応を見たエミリーは、おや、と呆気にとられた顔をする。


「もしかして、本当に押し倒した?」


 実際は押し倒すどころか、唇同士の口づけを交わしているのだが、それをエミリーが知る由は無い。



***



 一本道の洞窟の通路を抜けると、正方形状の大きな空間に行きついた。


「……あそこよ。この部屋は本来、向こう側に抜ける一本道だったはず。多分、あれが新しく見つかった所に違いないわ!」

「気を付けて行こう。手遅れになってないことを祈ってな」


 一輝とレイラは新しく開いたと思われる壁の穴へと向かう。それは最初からあったように違和感がなく、レイラに言われなければ未発見エリアとは気付かなかっただろう。


「こんな壁なら、誰かが見つけてそうだけど……」

「ここが自然発生のダンジョンだからよ。地脈の魔力を強く浴びていると、ダンジョン自体の構造が変化することがあるの。大抵の場合は、下へ下へと新しい階層ができるのだけど、ここは特殊で、隠しエリアが浅い階層でも出現するの」

「へー。じゃあ、運が良ければ、そこから何階層も下に直通でいけるショートカットが開通することもあるってことかー」

「今は下に潜ることじゃなくて、叫び声の主を見つけることを優先するのよ」


 まず一輝とレイラが通路に踏み込み、エミリーが続く。

 通路はかなり幅が広く、奥まで続いているように見える一方で、ところどころに横道が存在しており、レイラと出会った場所に酷似していた。


「なぁ、この感じ……」

「言わなくてもわかってるわ。もしかして、同時期に生成されたエリアは似通う傾向にあるのかしら……」


 一歩間違えれば退路を断たれる形になる構造に、一輝たちは及び腰になる。しかし、そこに奥から爆発音と、先程よりも大きな叫び声が聞こえて来た。

 そこで一輝は木刀を握りしめレイラを見る。すると、彼女もまた一輝を見つめ返した。


「悪い、一緒に行ってくれるか?」

「もちろんよ。ここで逃げ帰るなんて、私のポリシーに反するわ」

「ま、あたしは最初から行く気満々だけどねー。さっさと行って、救助開始ー!」


 エミリーの突き上げた拳を合図に、三人は通路を走り始める。

 ヒカリゴケに照らされた地面を蹴って進んで行くと、また爆発音が響いて来る。一輝はその音が火球が炸裂した音だと気付き、肩越しにエミリーへ指示を出した。


「エミリー。火球をどこでもいいから一発爆発させてくれ! そうすれば、俺たちがいることに気付くはずだ!」

「任せて、カズキン!」


 瞬時にエミリーの杖から火球が放たれる。前方の壁に当たったそれは、爆炎こそ少ないものの、かなりの大きな音を立てて弾けた。


「エミリー。魔力制御が上手くなった? 無詠唱で爆炎を小さくしたでしょ」

「へへーん。威力は勿論、爆発と延焼の切り替えや攻撃範囲もある程度は弄れるんだ。リアムっちとは得意分野が違うからねー」


 薄い土煙が舞う中を突破し、一輝は耳を澄ませる。三度目となる誰かの魔法を放つ音があると信じて。

 数秒後、狙い通りにすぐ近くの曲がり角の奥から爆発音が響いて来た。一度、速度を落として曲がり角を警戒した一輝は、中を覗き見て目を見開く。


「たーすーけーてー!」


 通路の向こうから、大声で叫んで走って来る男の姿が見えた。

 ローブをはためかせている様子から、魔法学園の生徒かもしれない。そんな推測をしている内に近付いてきていた彼の姿の全貌が露になる。

 ところどころ服が破れ、血が滲んでいる。ローブも自分の魔法が掠めたのか、端が消えて焦げており、誰が見ても敗走という言葉がぴったりであった。そんな彼の後ろからは、ゴブリンとオークが集団で追いかけてきており、一瞬で一輝とレイアが出会った時の集団以上の数だとわかる。


「そこの君! 早くこっちに! 後ろの奴らは、あたしたちが引き受けるから、そのまま入口まで走って!」


 男子生徒は返事をする余裕はないようだが、それでもエミリーの声を受けて、希望の光が目に宿った。


「魔法で援護して、少しでも魔物の進行速度を抑えないとな。何かあった時の為に順番で撃とう!」

「オッケー、まずは私に任せて!」


 エミリーが即座に杖を向けて火球を一発放つ。すると、男子生徒の脇を抜けたそれは、端を走っていたゴブリンに着弾。さらに爆発で周囲の魔物を纏めて薙ぎ倒した。

 結果、後ろにいた魔物たちは怯んで男子生徒との距離が開く――はずだった。


「うっそ。あいつら、仲間が吹き飛んだのに、平然と走って来る!?」


 遅くなったのは、ほんの一瞬。

 死体は勿論、生きている個体ですらいないものとして、構わずに突撃して来る。その異様な様子に、一輝は背筋を詰めたい物が流れ落ちるのを感じた。


「あの生徒が駆け抜けると同時に、ニコイチの火球で一気に吹き飛ばす。レイラ、次を頼む!」

「任せて! 『燃え上がり、爆ぜよ。汝、何者も寄せ付けぬ一条の閃光なり!』」


 剣先に火球が形成され、エミリーよりも早い速度で撃ち出される。流れ星のように尾を引いて通路を駆け抜けた火球は、男子生徒の横を抜けた瞬間に直線から軌道が変わり、背後の集団のド真ん中へと突き刺さった。

 流石に魔物の集団も、これには足を止めざるを得なかったようで、一気に男子生徒との距離が離れていく。


「『燃え上がり、爆ぜよ。汝等、何者も寄せ付けぬ二条の閃光なり』」


 一輝は両手の人差し指の先に火球を一つずつ生み出す。そして、そのまま左の指先へとその火球を統合(ニコイチ)する。

 今にも吐きそうな顔で一輝の横を男子生徒が駆け抜けると、通路の奥から土煙を破って魔物の集団が向かって来ていた。


「残念。こっちの方が少しだけ早かったな」


 玄関のインターホンを押すような気軽さで、一輝は火球を前へと押し出す。その緩慢な動作とは裏腹に、火球は一気に加速して先頭のゴブリン――の頭上を抜けて、その数メートル後ろのオークの腹へと吸い込まれた。

 一輝たちはそれを確認することなく、通路の出口から避難する。身を翻して数歩の場所だが、壁に張り付くようにして出口を見ていると、そこから勢いよく爆炎と煙が噴き出した。

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