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幕間

 オリビアはレイラの指名依頼のことを聞いて、一緒に行くことを断った。しかし、一輝が何かの罠じゃないのかと疑っていたことが気にかかり、リアムに相談をした。すると、意外なことにリアム自らレイラたちを尾行することを提案したのだ。

 ダンジョンの入口から中に入ってすぐの場所でリアムとオリビアは顔と頭に巻いた布を外し、片手で顔を扇いだ。制服ではない冒険者装備とはいえ、顔や髪からバレる可能性がある。その為に即興で用意した苦肉の策だったが、存外に上手くいった反面、少しばかり熱が籠ってしまった。


「その……無茶なお願いを聞いてくれて、ありがとうございます。やっぱり、レイラさんたちが心配で」

「何だい、急に。僕は君にお礼を言われるようなことはしていないぞ」


 隠し階層ダンジョンの入り口からさほど離れていない場所で、リアムはオリビアへと告げた。その表情は不満と言うよりは警戒の色が強く、瞳が忙しなく左右に揺れる。彼の瞳には魔物は映っておらず、ヒカリゴケの放つ光で揺れるかすかな人影を追っていた。


「――僕はね。あの女が下らないことで堕落していく姿を見たいだけだ。落ちていく目の前で、どちらが格上なのかを見せつけて、どんな顔をするのか。想像するだけで最高の気分だ」


 杖を引き抜いたリアムは、空いた手をオリビアへと差し出す。


「行こう。人が良く通るダンジョンとはいえ、自然発生型の洞窟ダンジョンだ。足元に気を付けないと、転んで汚れるぞ」

「は、はい。でも、あの三人を追うとして、私たちが魔物に襲われたらどうすれば……」

「別に問題ない。風の魔法で一撃で仕留めれば、音もなくやれる。断末魔を上げる隙など与えるものか」


 杖でかき回すような動作をしながらリアムはゆっくりと進む。オリビアを掴む手が少しだけ強く握られる。

 オリビアは自身の心臓が高鳴るのを感じながら、汗ばんだ手を服で拭った。杖を握り直し、リアムに置いていかれないように歩く。幸いにも、一輝たちを尾行するためにリアムの速度は遅く、焦らなくても十分についていける。むしろ、オリビアとしては、リアムの隣で手を繋いで歩くことの方が、尾行することよりも緊張すると言っていい。何しろ、手を繋ぐことなど今までに片手で数えるほどしかなかったのだから。


「ヒカリゴケがそこまで多く無くて助かったな」

「そ、そそそ、そんなに私、人に見られたら変な顔してます……!?」

「何を言ってる――こちらの姿が見られずに済むという話だ」


 リアムはオリビアの顔など見ずに、洞窟の曲がり角の先の様子を覗き込んでいた。

 既にリアムは尾行することに集中しているのに、自分が舞い上がって変なことを口走っていることに気が付いたオリビアは、顔がさらに熱くなるのを感じた。


「しかし、驚いた。素性のしれない輩からの異様に高額な報酬に釣られるとはな。そこまで愚かだとは思っていなかった」

「ふ、普段はしっかりしてて、二人ともいい人なんですよ?」

「善良な人間の周りに善良な者が集まるとは限らない。むしろ、その逆で何か奪い取れるものがないかと寄って来る死肉漁りの鳥共の方が多いくらいだ。それにギルドもギルドだ。そんな呆れた報酬の依頼を手数料欲しさに通すなど、場合によっては権力の腐敗まっしぐら。僕が立場のある人間ならば、間違いなく何かしらの名目で捜査に踏み切るだろうね」


 軽く手を引いた後、リアムは曲がり角を出る。オリビアもそれについて行きながら、首を傾げた。


「高額すぎる報酬は、ギルドに止められるんですか?」

「誰にでも出来る依頼なのに、高額に設定するということは何か裏があると思うだろう? ましてや今回は指名依頼だ。あの黒髪の心配は至ってまともな奴の発想だ。当然、ギルドの受付でも警戒される――普通はな」


 かつては人気のないダンジョンに呼び出して奴隷契約を強引に結ばせたり、殺して装備を奪ったりといった事件も起こったことがあるらしい。それの対策として、「適正価格でなかったり特別な事情がない限りは受理されないはずである」とリアムは語る。


「後は単純に市場価格の破壊だ。適正な価格で売り出さなければ買う人間がいなくなる――今回の場合は依頼だから魔物を狩る冒険者が減るってことだ。『俺は銀貨一枚なのに、あいつは同じ労力で金貨を貰ってる。やってられるか』ってね。これこそギルドが恐れるべきことなのに、それを平然と受け入れている。規模が小さいからか、特別な事情があったからか。どちらにしても、あまり褒められた行為でないことだけは事実だ」


 大きなため息をついた後、リアムは立ち止まる。

 通路の先では爆発音が響き、十体近くのゴブリンたちが吹き飛んでいた。さらに奥にはオークが一体向かってきているのがわかる。オリビアが杖を握りしめるが、リアムは杖を彼女の前に差し出して前に出ないように制した。


「あの程度、難なく倒すことができる。それより、後ろからついてきているような奴はいないか?」

「いない、ですね。魔物も冒険者も」

「そうか。僕も警戒するが、オリビアも気を抜くなよ。万が一、危害を加える為に依頼を出したのなら、邪魔な僕たちから先に始末しにくる可能性もゼロじゃない」


 戦闘音が止んだからか、リアムは再び身を隠しながら前へと進む。そんな彼の後ろ姿をオリビアは笑みを浮かべながら追いかけた。

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