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異世界統合魔法伝「何でもランクアップで下剋上」~受け継いだ魔法は、両手に持った同じ物を融合するニコイチ魔法~  作者: 一文字 心
比翼連理の魔法剣

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依頼受諾

 隠し階層ダンジョン。

 それは一般的なダンジョンが次の階層に降りる為の階段を一つしか持たないのに対し、このダンジョンはその階段が複数隠されていることに由来する。隠された階段を見つけるには幾つか方法がある。

 一つは幻覚系の魔法で誤魔化されている場合で、触れようとすると通り抜けてしまう。棒や手などで壁を触りながら進むことで発見されることが多い。

 もう一つはギミック系の魔法で、特定の属性魔法に反応して消失するタイプだ。レイラが一輝と出会ったエリアを見つけたのも、彼女が放った火球の魔法の余波が当たった偶然からだという。


「ひゃー、これが噂の隠し階層ダンジョンかー」

「エミリーさんは、ここに来るのは初めてなのか?」

「もう、カズキン。一度、ダンジョンに潜った仲じゃない。あたしのことはエミリーでいいよ」


 エミリーは一輝の後ろに回ると背中を何度も平手で叩く。

 一輝は苦笑いをしながら、ダンジョンの中を見回した。

 一度、訪れたことがあるとはいえ、息をつく間もなく戦闘に入り、後は脱出するのみだった。当然、周囲を観察する暇など、ほとんどなかった。


「最初から分かれ道が結構多そうだな。レイラとエミリーは、どうやって道順を覚えてるんだ?」

「私は頭の中で地図を描くタイプ。最初は大変だけど、意外と慣れでできるわよ」


 レイラは人差し指で自分の頭を指差す。

 正直、一輝はダンジョンの中を一発で覚えられる気がしない。そんな一輝の横でエミリーは片手で羊皮紙を広げて杖を突きつけた。


「あたしは、そういうの苦手だから、書き込み用の白地図を用意するんだ」


 杖を翳した白地図には、わずかではあるが黒く書き込まれたような跡があった。

 見たことがない道具に一輝の目が輝き出す。


「へー、便利な物もあるんだな」

「そうでもないって。意外と値段はかかるし、他のダンジョンで使いまわそうとしたら一度消さなきゃいけないからさ。最終的には、レイラのように覚えておく方が便利だって。書き込む時は片手が塞がるし、杖先は地図に向けなきゃいけない。当然、魔力は消費する。はっきり言って、デメリットの方が多いんだよー」

「もしかして、無詠唱で魔法が撃てるようになったのって、そんな探索方法をしてたから?」


 敵が現れてから詠唱して攻撃するだけでも大変だ。そこに地図への書き込みを中断するコンマ数秒の遅れが生じるのは、時に致命的な隙となる。

 浅い階層のダンジョンならば問題は無いだろう。だが、敵の数次第では、それでもピンチになりかねない。


「へー、そこまでわかるなんて、流石だねー。まぁ、無詠唱を勧めたのは、そこのレイラだけど」

「当たり前でしょ。いちいち地図を見ていて、索敵も疎かになってやられましたなんて聞いたら、友人としてどんな顔していいかわからないじゃない。――本当に無詠唱ができるようになったのは意外だったけど」

「へへーん。リアムほどではないにしろ、初級魔法だけなら無詠唱は負けずとも劣らずってところ。おかげで、それなりの成績も維持できるようになったのです」


 二人の会話を聞いて、一輝は少しばかり羨ましくなった。

 魔法の会話ができるのは家族のみ。同年代の友人には口が裂けても言えない内容だった。もしも言える友人がいたのならば、二人のようにアドバイスをし合っていたかもしれない。今以上に魔法の腕を磨くことができた可能性も考えると、少し悔しくなる。


「……さて、とりあえず目的はここで敵を狩ることだったな。でも、何でこのダンジョンを指定したんだろうな?」

「うーん。隠されていたエリアが解放されると魔物が溢れ出したり、囲まれたりすることがあるっぽいんだよね。だけど、魔物を事前に狩っておくとそれが起こりにくくなるって噂があるみたい」


 エミリーの答えに一輝もレイラも、なるほど、と頷く。


「じゃあ、依頼主は可能な限り安全にダンジョン探索をする為に依頼を出したってことね」

「もしかすると、隠されたエリアで目星がついている場所があるのかもな。でも、レイラを指定する理由が未だにわからないのは少し不気味だな」

「カズキと出会った時の戦闘を見られていた、とかかしら。大勢の魔物に囲まれても対処するだけの力量があって、学生だから中堅以上の冒険者を雇うよりは安上がりになると判断したのかも」


 疑問を抱きながらも、一輝たちは奥へと歩を進める。向かうのは、一輝とレイラが出会った場所だ。

 何しろ、まだ見つかったばかりで探索もそれほど進んでいない。他の冒険者に先を越された可能性はあるが、宝箱が見つかる可能性もある。今回の目的である魔物がまだ残っていれば、一石二鳥という訳だ。


「本格的に狩る前に、魔道具が本当にカウントしてくれるのかも確かめないとね。二百メートルも行けばゴブリンくらい、すぐに見つかりそうだけど」


 レイラが取り出した水晶玉の中では白い煙が揺らめきながらも数字のゼロを創り出していた。一輝たちは魔物を倒すとこの煙が描く数字が変化していくものだと思っているが、誰もそのような魔道具には触れたことがないので推測でしかない。


「ふーん。どんな術式を籠めてるんだろう。ダンジョンがある場所と出現する魔物の設定をリンクさせて、死んだ時の魔力反応とかを計測しているのかな?」


 エミリーが屈んで水晶玉を覗き込む。ちょうど一輝たちからはその姿が逆さまになった挙句、歪んで映るので思わず笑ってしまいそうになる。


「ちょっとー、人の顔見て笑うなんてひどーい。あたしからみたら二人が変な姿に見えるんだからねー」


 頬を膨らませているだろう顔がさらに歪む。それを見て、レイラは肩を震わせながら水晶玉を腰のポーチへとしまいこんだ。そして、そのまま二振りの剣の内の一つ――最近になって購入した剣を抜いて肩に乗せる。


「ほら、さっさと中に進みましょう。何せ、依頼の指定時間は二日間だけど、移動や睡眠することも考えたら実質一日もないのよ」

「今日と明日は授業がないけど、安全も考えれば一日八時間いられればいいくらいだからねー。それに体力的にはそんなに長くいられないしー」

「そうね。キャンプする道具を運ぶのが面倒だし、ここのダンジョン程度でやると目立って恥ずかしいわ。――どこかの誰かさんは、やる気だったみたいだけど」


 レイラの呆れた視線が一輝へと向けられる。

 時間がないという話をした時に、真っ先にダンジョンの入り口でキャンプすることを提案したのは一輝だった。


「し、仕方ないだろ。時間がもったいないっていうから、部屋の隅にあった道具を活用した方が良いって言って何が悪いんだよ」


 レイラの部屋の隅には、彼女が使っていたであろう野営用の道具があった。それを指摘した時のレイラの表情を一輝は今も忘れられない。

 その時に言われた言葉は、「そんな鳩に投げ渡した餌を拾って食べるみたいな真似はできないわ」である。要は、そんなことをすれば冒険者として笑われるということだ。


「ダンジョンの奥深くに潜るためにキャンプをするならまだしも、街に帰れる距離の入口で狩り続ける為にキャンプするのは確かに恥ずかしいねー。今日で百五十体狩ればいいんでしょ? 戦うよりも見つける方が大変そうだけど、何とかなるって」


 エミリーは一輝をからかうことなく、屈託のない笑みを浮かべる。洞窟内の発光する苔が彼女の白い歯を照らし出した。


「とりあえず、魔力は温存しておきたいだろうから俺が前に出るよ。ゴブリン程度なら、身体強化もそれほど使わずに倒せるからさ」

「前衛は交代でやらない? もちろん、敵が多かったら二人で戦うけど、その方が周りを気にせず武器を振るえるから」

「あぁ、それでいい」


 そういうや否や、一輝は木刀を片手に走り出す。ちょうど、曲がり角からゴブリンが二体、姿を現したところだった。

 一輝の足音が洞窟の中に反響する。その音にゴブリンたちも気付いたようで、一輝の姿を認めて目を大きく見開いた。


 ――逃げるか、戦うか。


 その一瞬の戸惑いが、ゴブリンたちの瞳に現れた。後ずさりながら互いに顔を見合わせたゴブリンたちは、次の瞬間、棍棒を掲げて一輝を迎え撃たんと腰を落とす。


「まずは三体っ!?」


 軽く斬り飛ばして次へ行こうと考えていた一輝だが、唐突に体が動かなくなってしまう。足が鉛のように重くなり、上半身だけが前へと進んでいく。

 重力に従って倒れ伏した一輝とゴブリンたちとの距離は、およそ五メートル。身構えていたゴブリンたちは、一転、無防備な一輝に向かって走り出し――


「グギッ!?」


 紅蓮の炎にまとめて吹き飛ばされてしまった。

 倒れ伏したまま顔だけ上げていた一輝は、爆風に目を細めながらも目の前で起きたことを呆然と見つけることしかできなかった。


「――ちょっと、カズキ。あなた、まさかとは思うけど、忘れたわけじゃないでしょうね。何で、私とあなたが同じ部屋で寝泊まりしているのかを」

「あぁ、そういえば、そうだった。俺たちあんまり離れられないんだったな……」


 完全に失念していたと一輝は、軽くなった体で立ち上がる。苔や土を払い落し、大きくため息をついた。


「あー、話には聞いてたけど、本当なんだー。大変だねー、レイラもカズキンも」

「笑い事じゃないわよ。学園長が納得しているとはいえ、女子寮にいつまでも住まわせるわけにはいかないんだから。可能な限り早く出て行ってもらわないと、カズキも他の女子たちも双方にとって悪影響でしかないわ」

「うーん。でも、カズキンって、強いけど女子を襲うタイプには見えないし、大丈夫なんじゃない?」

「見える見えないの問題じゃないのよ。お父様にバレたら、後で何て言われるか……」


 レイラは剣の腹に手を添えると、一輝の腹の辺りに水の球を創り出した。生活魔法の一つで汚れを落とす魔法だ。


「気を付けて。時々、変な魔物や迷い込んだ蝙蝠とかの排泄物もあったりするの。病気になりたくなかったら、こういう時でも迷わず魔法で清潔にしておくことよ」

「わかった。肝に銘じておくよ。それとエミリー。さっきは助かった」


 一輝は完全に服が乾いているかを確認した後、感謝を告げた。

 無詠唱魔法でなければ、棍棒で頭を打ち据えられていただろう。木刀で防ぐことができないわけではなかったが、多少の怪我はあり得た。最悪、大怪我でせっかく受けた依頼が遂行できなくなっていたかもしれないことを考えると、エミリーのファインプレーと言ってよいだろう。

 照れくさそうに頬をかくエミリーは、一輝の向きを変えさせると前へ行くように急かした。


「それくらい良いって。それより、次はかっこよく魔物を倒すんだぞ?」


 一輝は背を押されたことに驚きながらも、すぐに大きく頷いた。汚名返上を誓い、今度こそ魔物を倒して見せると左右を見回しながら歩き始める。

 そんな一輝たちの背を遠くから見張りながら、追いかける者がいるとも知らずに。

【読者の皆様へのお願い】

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 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

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