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レイラの友人

 翌日、レイラの友人たちと学園のダンジョンに潜るということで、朝早くから学園の中庭に集まっていた。

 澄んだ水が勢いよく噴き出る噴水の縁に腰かけながら、一輝はレイラの友人たちが来るのを待つ。


「それで? 今日はどういう計画なんだ?」

「私たちの学年だと、みんな五階層まではクリアしてるわ。それで二十階層の到達が卒業条件なんだけど、久しぶりに潜るから浅い階層からやり直したいって子がいたのよ。だから、今日の目標は去年の進級条件だった五階層までの到達。早ければ今日の夕方までには帰ってこれる。無理だったら、途中の階層で転移して戻って来ればいいしね」


 ダンジョンには大きく分けて二種類あるという。

 自然に存在する洞窟や山が大量の魔力を帯びた結果ダンジョン化したものと人工的に作り出したもの。隠し階層ダンジョンは前者、学園ダンジョンは後者だ。

 そして、後者のダンジョンの場合は階層を跨ぐ場所に水晶が置かれており、一度触れた者はそこから入口に戻ることもできれば、入口から水晶までいきなり進むこともできるという。


「じゃあ、どっちにしろ俺がいる時点で一回層目からスタートってことか」

「そうね――って、ちょうど二人が来たみたいね」


 レイラの視線の先には、魔法学園の制服を来た女子生徒が二名歩いて生きているのが見えた。白いシャツにスカートで、片方の生徒はそれなりの暑さがあるというのに黒いマントを羽織っている。


「レイラ、おっひさー」

「いやいや、三日前に会ったばかりだって」


 片手を振りながら駆けて来た少女。茶色の髪をサイドにまとめており、見るからに元気がいい。背丈はそこまで大きくなく、一つか二つ、年が下なのではないかと勘違いしてしまう容姿をしていた。鮮やかなオレンジ色の瞳が、すぐに一輝へと向けられる。


「それでー、彼が噂の剣士君? 昨日はレイラだけのナイトだったけど、今日はあたしたちのナイト君になってくれるのかな?」

「学園のダンジョンに興味があって、無理言って入れてもらうことになったんだ。名前は一輝。よろしく」


 引き攣りそうになる表情を何とか誤魔化しながら、一輝は笑顔で対応する。

 視線を横に向けると、ほんの少しではあるがレイラが不機嫌そうにしていた。その理由は至って簡単で、一輝が変なことを言って、誤解を招かないか気が気でないからだろう。

 朝起きてからここに来るまでに、一輝は何度注意されたかわからない。


「あたしはエミリー。レイラの同級生で、特に取り柄のない女の子だよー。貴族でもないしー」


 楽しそうに笑うエミリーに、どう反応していいかわからない一輝だった。だが、反応をするよりも先にもう一人の少女が声をかけて来た。


「おはようございます。先日は、リアムが二人に迷惑をかけてすいませんでした」

「おはよう。私は気にしてないわ。いつものことだから――って、それを言ったら、よけいに気にしちゃうか。ごめんね」


 茶色味がかった金髪のウェーブがかった髪をかき上げて、苦しげに微笑む。太陽の光を浴びて輝く、噴水の水のような淡い水色の瞳が細められた瞼の間から覗いていた。


「この子はオリビア。大人しめで、人前で話すのが少し苦手なの。そこの辺りは理解してあげて」

「わかった。昨日はその……いろいろと悪かった。別にリアムをどうこうしようってつもりはないから、安心してほしい。とりあえず、今日はよろしく」


 決闘騒ぎのことを弁明するとオリビアは、かすかに顔を縦に振った。


「い、良いんです。どう見ても、悪いのはリアムですから。ただ、彼にも彼の事情があるので、私は婚約者として……リアムの側に立つだけです」

「もう、オリビアはもっと言ってやった方が良いって。このままだと、オリビアも何か言われちゃうよ?」

「うん。でも、そうしないと大変なのはリアムだから」


 どうにもリアムにはレイラを倒さなければいけない理由があることを一輝は理解した。貴族としての誇りか、或いはさらに上を目指すためか。いずれにしても、結果ばかりを追い求めて進むべき道を見誤っているように感じた。

 ただ、事情を理解していない部外者が口を出すのは、あまりよろしくないだろう。一輝は、ここは沈黙を通すことにした。


「さて、メンバーも揃ったし、ダンジョンに進む陣形を決めておかないと」

「え、もうそんなの決まってるじゃん。レイラとカズキが前衛。私とオリビアが後衛でしょ?」

「そうだけど、カズキは初対面だから、あなたたちができることをしらないの。だから、どういう攻撃ができるかくらいは話しておく必要があるわ」

「なーるほどー。じゃあ、まずはあたしからだねー」


 腰から杖を引き抜いて、エミリーは杖先を回して円を空中に描く。杖先に赤と青の光が交互に灯った。


「得意なのは火魔法と水魔法。ま、火魔法は基本中の基本だし、水魔法は生活魔法で使い慣れてるから、当たり前と言えば当たり前。つまりは平均的な普通の魔法使いでーす」

「いやいや、あなたのすごいところはそこではないでしょ……」

「えへへ、レイラったらお世辞が上手なんだからー。今日は五層までしか行かないし、とっておきは後で見せるでいいでしょ?」

「そうね。あなたはそういう性格だものね」


 呆れた視線をエミリーに投げかけた後、レイラはオリビアに自分で言えるか問う。

 最初はもじもじしていたオリビアだったが、老魔法使いが持っているイメージの長い杖を切り詰めた――場合によってはメイスにも見える――杖を胸に当てながら、話し始めた。


「わ、私は、水魔法と土魔法が得意です。両親が神官なので、治癒魔法はよく使ってました」

「この子がいるかどうかで、ダンジョンでの戦闘の難易度が変わるわ。いてくれるだけで精神的に落ち着くのよ」


 エミリーもレイラの意見に大きく頷く。

 確かに数の限られたポーションを使うよりも、時間経過で回復する魔力で治療できるなら、これほど安心できることはない。四属性の初級汎用魔法を習得している一輝だったが、治癒魔法は何故か発動できる気がしなかった。中級魔法は頑張れば行けるという感触を経験しているだけに、自信を喪失するレベルで向いていない。

 それを踏まえるとエミリーは才能があるか、長年、たゆまぬ努力をしてきたのだろう。一輝は彼女の性格からして、後者だと思いながら頷いた。


「俺は一応、初級汎用魔法だけは習得している。ただ、得意なのはどちらかというとこっちの方だな」


 そう告げて、腰に差したままの木刀を示した。しかし、エミリーは微笑みながら体を左右に揺らして、一輝の両手にある指輪を示す。


「またまたー。両手の人差し指に指輪を付けてるってことは、二重詠唱(デュアルスペル)とかできるんでしょー?」

「あー、悪い。それは俺の使えるもう一つの魔法が関係してるんだけど……、二人は昨日の決闘騒ぎは見てた?」

「もちろん。オリビアが心配してたから、無理矢理引っ張って鍛錬場に行ったんだよ。火球が火柱を吹き飛ばした時は最高だったなー。オリビアには悪いけど、リアムを応援していた口の悪い連中たちの顔と言ったら、あれだけで夕飯が美味くて仕方なかったよ!」


 確かに応援している連中は、なかなか酷い言葉遣いの持ち主ばかりだった。魔法学園の生徒が全体的にそういう気質なのか、それとも一部の生徒だけが集まっていたのか。一輝にはわかるべくもない。


「私が言うのもなんだけど、リアムはああいう輩とは無関係よ。むしろ、自分から立ち向かわずに陰でいろいろやる人を見下している節すらあるかしら。エミリー、誤解を招く言い方は辞めておいた方がいいわよ」

「あぁ、そうか。そういう風に聞こえちゃうか。ごめーん」

「大丈夫です。エミリーがそういうつもりじゃないのは、昨日一緒にいてわかってますから」


 一輝は三人の会話を聞いて、何となく普段はどんな様子なのか想像がついた。

 エミリーが場を盛り上げ、オリビアが相槌を打ち、レイラが話を展開する。時折、行き過ぎた言動をするエミリーに、オリビアが戸惑い、レイラが止めに入る。それぞれが車でいうアクセル、メーター、ブレーキと言ったところか。



***



 四人が少しずつ打ち解けていく様子を物陰から見ている人物がいた。


「オリビア……レイラの奴と友人で出かけるのは良いとして、何であいつまでいやがるんだ?」


 久しぶりに婚約者であるレイラがダンジョンに潜ると聞いて、様子を密かに見に来たリアム。彼が見たのは、昨日、自分を打ち負かした一輝だった。

 レイラの召使いならば、ダンジョンでもついてくるということに思い至るべきであった、とリアムは下唇を噛み締める。そして、オリビアは引き止めるべきであったと。しかし、寮の前で励まして送り出した以上、四人のところに割って入るわけにもいかない。

 学園ダンジョンに水晶を触らずに入って行く姿を見たリアムは、額に青筋を浮かべながら近くの壁に手を叩きつけた。


「――いてぇ」

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