第3話 陛下と王妃
「父上、母上。おはようございます」
「ああ」
「おはよう、クロノ」
朝食の席で先に待っていた国王リカルドと王妃エルザ。リカルドの向かいの席にクロノが座る。ふとクロノの右の空席を見たリカルドは、呆れの表情を見せる。
「ライは、また来ないようだな」
「そのようですね。これで何日目でしょうか」
「全く、以前は二人揃って来ていたというのに……」
クロノとその弟であるライは、将来王位継承に関わってくるため周囲から比較される事が多かった。クロノは秀才、ライは凡才という評価だった。幼少期は兄弟の仲は決して悪くなかったのだが、ある日を境に関係は変わってしまった。原因に心当たりがあった国王はふむ、と呟く。
「やはり二人に王位継承についての話はまだ早かったか」
「私はそう思いませんわ。日頃の努力を怠っているライには、いつまでも現実を直視せずにいられても困りますから」
「……うむ」
眉をしかめる国王に、王妃はピシャリと扇子を鳴らす。クロノとライはどちらも王妃の実の子なのだが、扱いの違いがハッキリとしている。王妃はライの事をあまり良く思っていない。
クロノは努力を続けられる性格だったが、ライはそうじゃなかった。その場しのぎの努力だけではクロノに届くはずもなく、そのまま不貞腐れてしまったのだ。そしてそんなライの態度を見た王妃は、匙を投げてしまったのである。
「うーむ。いずれにせよ、宣言の通り王位はクロノに継いでもらう事になりそうだな」
「クロノ、ライの事はもう気にせず前だけを見ていなさい」
「……はい、母上」
国王と王妃は、まさしく王家の人間と言える性格だった。血の通った家族が相手だとしても私情を挟む事がほとんどない。まだ未成年であるクロノとライは立派だと尊敬はしているものの、肉親としてはどこか寂しさを感じてしまう。
クロノもそれは仕方のないことだと割り切るよう努めてきた。寂しさを完全に拭えているとは言えないが、王族に生まれた以上は覚悟が必要だとハンスにも教えられた。クロノはそれが正しいのだと信じている。
「ハンス、ライの部屋に食事を持って行ってくれないか」
「畏まりました」
「クロノ、あまり弟を甘やかしてはならんぞ」
「ええ、ライ自身が解決しなければならない問題なのですから」
二人もライを完全に見放したわけではない、かといって慰めに行く事も無い。王家の人間として強くなるため、あえて自力で解決させようとしているのだ。クロノもそれを理解しているため、何も言わずにいる。
(王家の人間は前を向き続けなければならない。例え身内であっても、安易に弱みを見せてはならない。信頼と甘えは別物なんだ)
クロノは無意識に、拳を強く握りしめた。