8.運命を切り開く
午後の授業。美咲は必死で集中しようとしたが、周りの風景が時折歪んで見える。教科書の文字が踊り、黒板の図形が動き出しそうだ。
(落ち着いて、美咲。これは『異世界フィルター』じゃなくて、現実の世界なんだから)
そう自分に言い聞かせながら、美咲は深呼吸を繰り返した。
放課後、美咲は図書室に向かった。異界のことをもっと知りたい。自分の力のことも、もっと理解したい。
本棚をめくっていると、見慣れない本が目に入った。『境界線の彼方へ』というタイトル。手に取ると、本の表紙が淡く光った。
ページをめくると、そこには美咲が知らない文字で何かが書かれていた。でも、不思議なことに、その意味がわかる。
『選ばれし者よ、汝の真の姿を見出すとき、二つの世界の扉が開かれん』
美咲は目を見ひらく。これは、自分への預言なのだろうか。
そのとき、背後から声がした。
「美咲、何読んでるの?」
振り返ると、由香が立っていた。美咲は慌てて本を閉じる。
「あ、ううん。ちょっと気になる本があって」
「へー、珍しいね。美咲が小説読むなんて」
由香は首を傾げた。
「そういえば、あのアプリまだ使ってる? 『異世界フィルター』」
その言葉に、美咲は一瞬、言葉に詰まった。
「え、ええ。時々ね」
「そっか。私はもう飽きちゃった。ゲームってすぐ飽きるよね」
由香はそう言って笑った。美咲も曖昧に笑いを返す。
(由香には、私の世界は見えないんだ)
その事実に、少し寂しさを感じた。
家に帰る途中、美咲は空を見上げた。夕焼けに染まる空に、大きな鳥の影が見える。でも、よく見ると、それは鳥ではなく、翼竜だった。
(現実と異界が、どんどん重なっていく)
その光景に、美咲は恐怖と興奮を同時に感じていた。
家に着くと、両親が笑顔で迎えてくれた。いつもと変わらない光景。でも、美咲の目には、両親の周りにかすかな光のオーラが見えた。
「ただいま」
そう言いながら、美咲は両親をじっと見つめた。彼らは本当に、自分の変化に気づいていないのだろうか。
夜、美咲は窓際に座り、夜空を見上げていた。星々が、いつもより明るく輝いて見える。
スマホを手に取り、『異世界フィルター』のアイコンをタップする。すると、画面いっぱいに、銀河が広がった。その中心に、一つの言葉が浮かび上がる。
『準備はいいか?』
美咲は深呼吸をして、小さくつぶやいた。
「うん、準備はできてる」
その瞬間、部屋全体が光に包まれた。美咲の体が、ゆっくりと宙に浮かび上がる。
これから始まる、新たな冒険。未知の世界への旅。美咲の心は、期待と不安で満ちていた。
でも、一つだけ確かなことがあった。もう、後戻りはできない。自分の運命を、自分の手で切り開いていくしかないのだ。
美咲は目を閉じ、深く息を吸った。そして、光の中へと歩み出した。