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5.揺れ動く境界線

 放課後の図書室。夕日が差し込む窓際で、美咲は一人、古ぼけた本を開いていた。表紙には『異界との邂逅(かいこう)』と書かれている。


「異界の血が目覚める……か」


 一週間前、屋上でシルフィアから告げられた言葉が、まだ耳に残っていた。それ以来、美咲は図書室に通い詰め、異世界に関する本を探し続けていた。


 ページをめくると、不思議な文様が目に飛び込んでくる。それは、美咲が持つ杖の先端に刻まれた模様と酷似していた。


「まさか……」


 驚きに目を見開いた瞬間、文様が淡く発光し始めた。美咲は慌てて周りを見回す。しかし、他の生徒たちは何も気づいていない様子だ。


 その時、背後から声がした。


「やあ、美咲。熱心に勉強しているね」


 振り返ると、そこにはアルフが立っていた。銀髪が夕日に照らされ、幻想的な輝きを放っている。


「アルフ! どうしてここに?」


 美咲の声は思いのほか大きかったようで、他の生徒たちから注目される。それに気づいた美咲は、慌てて机に向かう。


「君が呼んだんだよ」


 アルフは微笑みながら、本の文様を指さした。彼の声は他の生徒に聞こえていないし、前回と同じく姿も見えてないようだった。


「その印は、異界と現実をつなぐ門の鍵。君の中の力が、それを活性化させたんだ」


 美咲は困惑した表情で、アルフを見つめ、できるだけ小さな声でささやいた。


「私の中の力って……本当に私にそんな力があるの?」


 アルフは優しく頷いた。


「あるよ。でも、それを使いこなすには訓練が必要だ。今夜、君を異界に案内しよう。そこで、君の力の本質を知ることができるはずだ」


 美咲は躊躇した。異界に行くということは、この現実世界を離れるということ。両親や由香のことを考えると、不安が胸をよぎる。


「大丈夫。時間の流れが違うから、朝には戻ってこられるよ」


 アルフの言葉に、美咲は小さく頷いた。


「わかった。行ってみる」


 その瞬間、図書室の風景が歪み始めた。本棚が溶けるように形を変え、床から草木が生え伸びる。美咲は驚きの声を上げそうになるのを必死で押し殺した。


 やがて周囲の変容が落ち着くと、そこは幻想的な森の中だった。頭上では、巨大な発光生物が空を漂っている。足元には、キノコのような形をした小さな家々が並んでいた。


「ここが……異界?」


 美咲は息を呑んだ。想像を遥かに超える光景に、言葉を失う。


「そう、ここが僕たちの世界。君の祖先の故郷でもあるんだ」


 アルフの言葉に、美咲は目を見開いた。


「私の……祖先?」


「そう。遠い昔、君の家系の者が、現実世界に渡ったんだ。その血が、今の君に流れている」


 美咲は自分の手のひらを見つめた。確かに、かすかに光を放っているように見える。


 その時、突然地面が揺れ始めた。木々が軋み、空を漂う生物たちが慌ただしく逃げ出す。


「また始まったか……」


 アルフの表情が曇る。


「何が?」


「現実世界と異界のバランスが崩れると、こういう現象が起きるんだ。君の力が必要だ、美咲」


 アルフに促され、美咲は杖を掲げる。しかし、何をすればいいのかわからない。


「集中して。君の中にある力を感じて」


 アルフの声に導かれ、美咲は目を閉じた。すると、体の奥底から温かい何かが湧き上がってくるのを感じる。それは、朝の味噌汁から感じた不思議な感覚と同じだった。


 杖の先端が輝き始め、美咲の周りに光の球体が形成される。その光が広がるにつれ、地面の揺れが徐々に収まっていった。


「すごい……」


 目を開けた美咲は、自分の周りに広がる光の輪を見て驚いた。


「よくやったね、美咲」


 アルフが嬉しそうに言う。しかし、その表情にはどこか影があった。


「でも、これで終わりじゃない。君の力が強くなればなるほど、現実世界にいるのが難しくなる。そして、いずれは選択を迫られることになるだろう」


「選択?」


「そう。現実世界に留まるか、それとも完全に異界の者となるか」


 美咲は息を呑んだ。自分の未来が、突如として不確かなものに思えた。


 その時、遠くから叫び声が聞こえた。

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