bar『テルヴィング』
最近、運命が俺に味方しているのを感じる。
すっかり日の落ちたオーディナリー。
『スタイル・ワン』の中にあるbar『テルヴィング』のカウンターでアスフェンは酔っ払ったケラスターゼに質問責めにされていた。
「アスフェンさんは何でそんなに強いんですかぁ?」
「この力は……貰い物なんだ」
アスフェンがどこか遠くを見るような目をする。
「貰い物?」
ケラスターゼが首をかしげる。
「なーんだ、自分の力じゃないんだ」
「悪かったな」
「アスフェンさんの他にもパーティーメンバーはいたんでしょ?肉屋のブリエッタさんとか」
「ああ、他は別の街で何かやってるだろうな」
「魔術師と剣士でしたっけ」
「うん、癖の強い奴らだったよ……」
アスフェンは呆れたような口調でそう言って酒をあおる。
「アスフェンさん達が全盛期の時の冒険者ランクってどれぐらいだったんですか?」
「どうだったかな、なにも考えずにこの街を飛び出して三年ぐらいで魔王倒したからな」
アスフェンが腕を組んで考え込む。
「エリトリアさんは覚えてます?」
ケラスターゼがbarのマスターに尋ねる。
「そうね、アスフェンさん達が帰って来たとき、ギルドマスターが正装してたからね。AかSランク位はあったんじゃないかしら、昔のことだからね」
「俺もギルドマスターに『お前らのパーティーはランク制度から少し外れている』って言われた気がする」
「ふぇー、Sランクとかホントに存在するんだ」
「あなただってAランクに匹敵する実力があるじゃない。さっさとAランクに上がって私たちを喜ばせて欲しいわ」
「や、ちょ、褒められても嬉しくないですよぉ~、エヘヘ」
ケラスターゼがくねくね身体を動かして誤魔化す。
「ウォミェイ君もアダマス君も無事だったし良かったわ。あなた達は私たちの街が誇る冒険者だもの」
ケラスターゼが顔を真っ赤にして縮こまる。
「でも、あのデュラハンには手も足もでなかった……」
「当たり前だ、Aランクパーティーが束になってかかってやっと戦闘になるんだ。良く生きてたよ」
「あんな感覚初めてだった……何かゾワゾワしたものが背中を貫くような感覚……」
「『死の感覚』ってやつだな。忘れんなよ、その感覚。あ、エリトリア、ステーキ頼む」
アスフェンがステーキを頼む。
「あら、大丈夫なの?そんなに食べて」
エリトリアが心配する。
「いい、今日昼飯食べてないから」
アスフェンの腹がけたたましく鳴る。
「とびきりの焼いてあげるわ」
エリトリアがウインクして奥に引っ込んだ。
「はー、きれいな人だなぁ」
ケラスターゼがうっとりした顔でため息をつく。
「あんなきれいな緑色の髪の毛見たことあります?背も高くて、ボンキュッボンだし、羨まし~」
「アイツエルフだしな」
「へー……は?エルフ、いやいやおかしいでしょ、何でエルフがこんな場末の酒場に?」
「そりゃこの街のエルフだからだろ」
「答えになってない」
「人里に滅多に姿を現さないのはハイエルフだ。普通のエルフは人里に出て働いてる奴もいる。殆どが人間観察が目的らしいが」
アスフェンが『スタイル・ワン』に入ってきた家族に会釈しながら言う。
「そんなの学校で習わなかった……」
「学校?」
「知らないんですか?国立冒険者育成学校アンデラート。超大国オベリスクにある世界最大の冒険者育成学校ですよ」
「そんなもんがあるのか?」
アスフェンが驚く。
「最高水準の授業が受けられるんですよ、それに課外実習でランク昇格試験を平行して行えるんですよ。すごいでしょ」
ケラスターゼが胸を張って答える。
「他にすごいところは?」
アスフェンが続きを促す。
「あれ、そんな興味ない?なんで?」
ケラスターゼが首をかしげる。
エリトリアが熱々のステーキを持ってくる。
「お待たせ、アスフェン」
「お、旨そうだな」
アスフェンがニヤッと笑う。
「さっきの続きですけど、そこで優秀な成績を残した生徒は色々なAランクパーティーに引き抜かれたり、そこにある冒険者ギルドを利用できたりするんですよ……」
バクバクステーキを口に放り込むアスフェンを見ていると話す気が失せる。
何よりステーキが魅力的すぎる。
「アスフェン達はそんなとこに行かなくても強かったからね」
エリトリアが苦笑いする。
アスフェンがほっぺたをパンパンにした状態でケラスターゼのほうを向く。
「ふふき、はほ」
続きはよ、と言ったのだろうが、ケラスターゼは聞き取れなかった。
「エリトリアさん、私もステーキ」
「ふふ、かしこまりました」
エリトリアがまた奥に引っ込む。
また『スタイル・ワン』の扉が開かれる。
「ケラスターゼさんはいらっしゃいますか!」
大きな声が響き渡る。
「ケラスターゼは私だけど……ってあなたは!」
そこにはあの獣人奴隷が立っていた。
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