カンティーナ事変(1)
「なんだこのガキ」
「かわいい~!」
レグルスがチュンチュンを抱き締める。
「むわっ、何をする!この私に……」
「あなたチュンチュンって言うの?可愛い名前だね。何歳?好きな食べ物ある?」
レグルスがチュンチュンを質問責めにする。
「わ、ワァ……」
チュンチュンがビビリ散らかす。
「吹っ掛けた側がびびっちゃった」
アリスが笑い出す。
「ムッ、笑うでない!」
チュンチュンがじたばたする。
『このガキ、犬歯が発達している……吸血鬼か?そうならこいつは陽の下で活動できる帝王種の吸血鬼ということになる」
アスフェンがチュンチュンをまじまじと見る。
『こんな子供が?』
「オッサン、そんなに私のことが気になるのか?」
「そりゃ、帝王種なんて滅多に現れないからな」
『ブリエッタが根こそぎ殺していったからだけど』
チュンチュンが驚く。
「おおー、私が吸血鬼であると気づいたのか。やるじゃないか……」
「お嬢様!」
しわがれた声が響く。
「げっ、爺だ……」
チュンチュンが嫌そうに顔を背ける。
「勝手に外に出てはいけないと、何度も言っているでしょう」
燕尾服に身を包んだ老人がしっかりとした足取りでこちらに歩いてくる。
「だ、だって外の世界は楽しそうだもん!」
「外の世界は危険です。いつ殺されてもおかしくないのですから……あなた方は?」
老人の鋭い眼差しがアスフェン達を貫く。
「俺たちは……」
アスフェンが自己紹介しようとしたとき、チュンチュンが大きな声で捲し立てた。
「わー!この人達はお客様だよ!お父上の古い知り合いなんだって~!」
「え?なにを……」
アスフェンが困惑するが、チュンチュンが顔を近づけてささやく。
「お城見に来たんでしょ、こうでも言わないといれてもらえないよ」
「おや、ヒューヒュー様のご友人でしたか、失礼致しました」
老人が頭を下げる。
「わたくし、トスハラ・カーメイトと申します。以後お見知りおきを」
トスハラが入口の大扉を開く。
真っ赤な絨毯が敷かれており、壁には様々な絵画が架けられている。
長い廊下の突き当たりにまた扉がある。
「この先にはね、私の部屋があるんだよ」
チュンチュンが自慢げに言う。
「へー、気になるね」
レグルスがチュンチュンを抱き抱えて言う。
「おい、なんでだっこする必要があるんだ、おろしなさいー!」
チュンチュンがじたばたする。
「だってちっちゃくて可愛いんだもーん」
「あんたがデッカイだけだー!」
レグルスとチュンチュンのわちゃわちゃをよそに、トスハラがアスフェンを睨む。
「何の用だ、英雄」
「……!気づいてたのか」
「ふん、主の仇、忘れるわけがなかろうて」
「それもそうだな」
「何の用か聞いているんだ」
「観光だよ」
「何?」
「ただこの城を見に来た。お前達が住んでいるなんて知らなかった」
「口だけではなんとでも言える」
「お前達の命を狙ってたんなら、あのチュンチュンとか言うガキ、とっくに殺してる」
「……」
「俺もお前に質問がある」
トスハラが警戒する。
「質問だと?」
「ああ、魔王についてだ」
「なっ、魔王様について……?」
トスハラが片方の眉をクイッとあげる。
「魔族の連中と魔人の集団が魔王を復活させようとしているのは知ってるか?」
アスフェンの問いにトスハラはゆっくり頷く。
「存じている。魔王様が復活するのは我々からすると素晴らしいことだ。だがその計画にわたしとお嬢様は関与していない」
トスハラが言い切る。
「口だけならなんとでも言えるぜ?」
アスフェンが言う。
「……お嬢様を危険に晒すわけにはいきません。それが我が主との最後の申し付けだ」
「……そうか」
「ねえ」
ケラスターゼがアスフェンの肩を叩く。
「レグルスとチュンチュンが庭に行ったけど、いいの?」
「構わんよ」
トスハラが頷く。
「あの娘はレグルスと言うのか、邪気の全く無い心、目の前の男とは大違いだな」
「う、邪気があってこそ人間だろ」
アスフェンが詰まる。
ケラスターゼとアリスが笑う。
⭐⭐⭐
「ヨアン、パール、ペルン、ディーノ、準備は出来ているわね?」
「もちろんです」
「早く結界を」
「レグルスの奪取が完了次第、撤退するぞ」
「アスフェンとレグルス以外は始末だ」
各々が作戦を振り返ったりする。
「では」
クローバーが手を天に掲げる。
「結界をおろす。作戦を開始しろ」




