半端なナンパ
二章開幕でーす
「デュラハン討伐、魔人討伐を讃え、金貨八万枚を授与する!」
ヨアンを倒して一週間、アスフェン達はカルテット王国にいた。
そして今、宮殿で先のデュラハン討伐と合わせて表彰を受けているところだ。
表彰式にはアスフェン達は勿論、ギルドマスターやイザベラ、ブリエッタも参列している。
無論、国王夫妻もである。
「ホホ、今日はゆっくりしていかれると良い、英雄殿」
国王アヴェンド・マービーがアスフェン達に話しかける。
「お気遣い痛み入ります、陛下」
アスフェンが跪く。
ケラスターゼ達も跪く。
「いやいや、そんなのはやめてくれ、あのときみたいにガツガツきておくれよ、式典の時だけちゃんとしてくれれば良いからさ」
「ふふ、相変わらずね、ヴェスちゃんは」
国王婦人のメアリー・マービーが笑う。
「そうでしょうか?」
「ええ」
レグルスが目を輝かせながら極彩色の天井を見上げる。
「ヌホー、綺麗だなあ」
「柱に宝石が埋め込まれてるぞ」
アリスとレグルスが駆け寄る。
「「スゲー!」」
ブリエッタとイザベラが近付いてくる。
「すまねぇな、アスフェン。一緒に行けなくてよ」
「子供達があなたに会いたがってるわよ」
「気にすんな、てか、子供?」
「ええ、フュートレック国立冒険者学園の子供達よ」
「あー、ここにもそんな学校あったな」
アスフェンが頷く。
「わかった、アイツに挨拶したらブリエッタと一緒に行くよ」
アスフェンがブリエッタと歩きだす。
「師匠ッ!私たちも行きますよ!」
アリス達があとを行く。
⭐⭐⭐
かくして、アスフェン達はカルテットの街並みが一望できる丘に到着した。
丘のてっぺんに石碑が建立されている。
アスフェンが石碑を前にして、手を合わせる。
「あの、ブリエッタさん。あの石碑は……」
ケラスターゼがブリエッタに尋ねる。
「ああ、あれは俺達と同じパーティーだったノリオ・アヤメヤの墓なんだ」
「え、お亡くなりに……?」
「魔王の幹部集団と魔王の右腕を相手に単騎で戦闘し、右腕以外を全部屠った。惜しくも右腕には届かなかったらしいがな」
「たった一人で……」
『魔王を復活させようとしている集団があるらしい、お前ならどうする?ノリオ』
アスフェンが石碑に手をおく。
『お前なら『全部ぶっ潰そうぜ』って言うんだろうな』
石碑がじんわり暖かくなったような気がした。
『俺も同意見だ』
アスフェンがブリエッタ達のところへ戻る。
「じゃあ学園とやらに案内してくれよ」
「おう、じゃあ行くぜ」
今度はブリエッタが戦闘になって歩きだす。
⭐⭐⭐
「俺はスーパーナンパマンのイケメソ・モッテマクーリ、今日も学園トップクラスの美女を両脇に侍らせて廊下を闊歩する。
しかしこれはこの俺の優雅な学園生活のほんの一部でしかない。
他にも一緒にご飯を食べたり身体を洗わせたり、寮のキングサイズのベッドで……ングヌハー!鼻の穴でっかくなっちまうよー!鼻の下ロングソードやないかーい!」
容姿端麗な金髪男が気が狂ったかのように喋りながら歩く。
勿論、彼の妄想を垂れ流しているのではなく、彼の両脇には確かに美女がいる。
彼に落とせない女はいない。
学園の同年代か、歳上はすべて喰らっている。
年下は?と思う読者もいるだろう。
彼曰く年下、特に歳が八歳以上離れている女の子を喰らうのは御法度らしいのだ。
そんなモテる彼に強力なライバルが現れたのだ。
『ついさっきすれ違った男、なかなか良い女を侍らせていた、羨ましい』
イケメソが爪を噛む。
『うーらーやーまーしい~!』
イケメソが頭をブンブン振る。
『今すぐナンパバトルだ!カルテット王国一番のモテ男の座を死守せねば!』
イケメソが踵を返す。
美女もあとに続く。
『いた、あの男だ、名誉講師のブリエッタさんと話している。ブリエッタさんの話を遮りたくはないが俺が俺であるためなんだ、仕方がない!』
アスフェン達が物凄い勢いで近付いてくるイケメソに気が付いた。
「おい、なんだあれ」
「イケメソ・モッテマクーリだ。イケメンだろ?顔よし、腕よし、性格は……ちとご愛嬌」
ブリエッタが苦笑いする。
「こわこわこわこわ!」
レグルスがイケメソの剣幕に圧され、ケラスターゼの後ろに隠れる。
「きみ、その女の子達をどうやってナンパした!」
イケメソが叫ぶ。
「……は?ナンパ?」
アスフェンが困惑する。
「そうだ!君が侍らしている美女はどうやって落としたんだ!」
「こいつ言い方気持ちワルッ!あのなぁ、俺はなにもしてない!勝手についてきただけだ」
アスフェンが反論するが、イケメソは聞く耳を持たない。
「やかましいっ!」
「聞いたくせにやかましいって……」
「この俺様が貴様にナンパ勝負を挑ませてやろう!対象はカルテット王国中の女性だ。
おっと、二十歳以下は御法度だからな」
「俺になんのメリットもないからやらない」
「ほほう、交渉上手だな」
『なんの交渉だよ……』
アスフェンが泡を噴く。
「君が勝ったならば俺様が今侍らしている『眷属』を全てやろう!」
いつの間にか集まっていた野次馬がざわつく。
「あいつのアイデンティティーを!?」
「私が新しい『眷属』の座に座るチャンス……!」
アスフェンがマジの顔になる。
「『眷属』?お前魔族か、そうなら問答無用で殺す」
「違うわ、あほか!だいたい魔族が『眷属』なんて言葉を使うなんて初めて知ったぞ」
今度はイケメソが困惑する。
『なんだこの人、落ち着いて見てみれば、立ち姿から強者の覇気が溢れだしている』
「『眷属』は俺が好き好んで使っているだけだ。二重の意味で。とにかく、今日の夜、ここに戻ってこい。ナンパした者を連れてな」
イケメソが去っていく。
「全く、ホントにめんどくせー」
アスフェンが嘆く。
「私たちがナンパされたという体にすれば……」
「一度見た女の誤魔化しは効かないぜ、アイツには」
ブリエッタが苦笑いする。
「……良いこと思い付いた」
ケラスターゼが意地の悪い笑顔を見せる。
⭐⭐⭐
ナンパ大戦、開幕