見初めし矢
レビュー、感想頂けるとありがたの極みです!
ヨアンはアリスとイザベラの猛攻を華麗に弾きつつ、レグルスの動向に注意していた。
『あの獣人、まだ時計を弄くっているのか……何があるんだ?アスフェンがそちらに気を取られているのはありがたいが』
ヨアンが飛び上がる。
「メテオ・フォール」
火球がアリスとイザベラに降り注ぐ。
火球を弾こうとしたアリスにイザベラが忠告する。
「避けろアリス!」
「え!」
アリスが飛び退く。
さっきまでアリスがいたところの床が火球でドロドロに溶ける。
「う、嘘だろ……」
アリスが驚愕する。
「つまらん奴らめ」
ヨアンがアリスとの間合いを詰める。
「あっぶねぇ……!」
アリスが冷や汗をかく。
イザベラが剣を振りかぶる。
「もらったぁ!」
しかし、ヨアンは顔色一つ変えない。
「何を」
ヨアンの脚が剣に巻き付く。
少なくともアリスとイザベラにはそう見えた。
ヨアンの脚技がイザベラに炸裂する。
鎧が砕ける。
「ゴフッ!」
あまりの威力にイザベラが吐血する。
『体術の心得もあるのか……?』
蹴りあげられたイザベラが天井に叩き付けられる。
「ア、アリス……!」
イザベラが地面に落ちる。
アリスはヨアンの攻撃をギリギリで受けながらアスフェンを呼ぶ。
「し、師匠!流石に死んでしまいます!助けて~!」
「もうちょっと待ってくれ、もうすぐ『矢』が出てくるから」
アスフェンが呑気に答える。
ヨアンの動きが止まる。
『矢?今奴は矢と言った。あの獣人は矢を取り出すプロセスを経ているところだったのね……これは』
ヨアンがアリスをぶっ飛ばした。
「うあっ!」
アリスが柱にぶつかる。
『あのバカ、ペラペラ喋りがって』
イザベラが剣を杖がわりにして立ち上がる。
ヨアンが振り返る。
「探し物が見つかったかもしれない。あの獣人を連れてきてくれてありがとう」
「はあっ、私が……連れてきた訳じゃあない。ゲホッ……彼女自身の意志で来たんだ」
「その言い換え、意味ないだろ」
ヨアンが剣を構える。
「そろそろお別れの時間にしよう」
イザベラも剣を構える。
『アスフェンがやる気になるにはレグルスが矢を取り出すしかない、だが矢を取り出せばこの魔人が奪取に乗り出すだろう、アスフェンがその事に気付けるか?』
アリスが血を吐きながら立ち上がる。
『アリスは満身創痍だ。私の部下たちもいつの間にか全滅だ。この魔人を止める方法がない……!』
「まだ別れるわけにはいかないな、糞魔人……!」
アリスがヨアンの後ろに立つ。
「はあ」
ヨアンが呆れたように溜め息をつく。
「満身創痍の状態で万全の私とまだやりあうのか?勝てるわけが無いのに」
ヨアンがレグルスを見てほくそえむ。
「あの獣人が我々を更なる高みに押し上げてくれる……!」
ガコン!
何かが作動する音が響く。
広間の中央から台座が浮き上がる。
「お、あれがフュートレックが昔言ってた矢だな?」
アスフェンが見上げる。
「ふふふ、矢は頂くわ!」
ヨアンが飛び上がって台座に手を伸ばす。
「奴を矢に触れさせるな~!」
イザベラが叫ぶ。
「もう遅いわよ」
ヨアンが台座に置かれている紫色の矢に手を伸ばす。
ヨアンが陰る。
誰かが天井の穴から飛び込んできた。
月明かりに照らされたその姿は包帯が巻かれている。
「お前は……」
ヨアンが驚く。
「あんたはここで沈んでもらう。その矢に触れることは出来ないよ」
ケラスターゼが剣を振り下ろす。
「ぐっ!」
ヨアンが地面に叩き落とされる。
その余波で矢が吹っ飛ぶ。
「あ、矢が」
イザベラとアリスが矢を確保しようと動く。
イザベラが手を伸ばす。
矢は意志をもったかのようにイザベラの手をすり抜けた。
「矢は人を選ぶ……!」
アリスの手もすり抜ける。
矢は煙の中に入って行く。
「矢が魔人の所へ行ったァ!」
イザベラが絶望する。
『何手遅れた?あの魔人に更なる力が……ケラスターゼは間に合うか……ん?』
ヨアンが立ち上がってキョロキョロしだした。
「くそっ!矢はどこだ!」
『魔人は矢を持っていない!一体誰が、というか矢に選ばれた人間がいるのか?』
「矢が無くたって戦えるだろ?」
ケラスターゼがヨアンに迫る。
「くっ、邪魔をするな!」
ヨアンが苛立ちながら攻撃を受け止める。
『一体誰が矢を……!』
ヨアンが辺りを見渡す。
「なっ!」
ヨアンが驚愕に目を見開く。
イザベラも呆然とする。
「お前、凄いじゃないか」
アスフェンが珍しく感心する。
「え、あの、どうすれば良いんですか!?」
レグルスが極度の焦りを見せる。
その手には紫色の矢がしっかりと握られている。
「矢は……レグルスを選んだ!」
アリスが笑いながら言う。
ヨアンが怒りに震える。
「貴様ら、全員殺してやる……!」