搭乗前のチェック
なぜあてもなく空港をぶらぶらするために早くから家を出てきたのだろう――このせっかちめ――君のお父さんなんて広々として人のあまりいないとんでもなく広い場所でぐっすり寝てるんだぞ――
空港に着くまで不機嫌を周囲に漏らしまくっていたことなどなかったことのように元気な我が同行者に、内心不満だらけな待機時間を過ごしていた。
だが、飛行機の時間が迫ってくると事態は一変する。
飛行機に乗る前に、ちゃんと空港にいますよという登錄をしに行く「チェックイン」(と我が同行者は言っていた)と、危険物や規則違反の荷物がないかを確認する荷物チェックの時間がやってくると、空港中に潜伏していた乗客たちが一斉に動き出した!
何時間も前から空港に着いていたにも関わらず、まずキャリーケースを預ける受け付けには四十分ほど並んだ。長蛇の列だ。私が並んだ後ろにも、どんどん人がくっついていく。
一人一人に荷物の確認や飛行機に乗る理由などを聞いているので、並ぶ人間にチェック完了が追いつかないのだ。
長く待ち、キャリーケース一つだけが荷物室にいくので、持っていた荷物は体感で半分になった。その後、三人で座席へ持っていく荷物とともに次の受け付けへと向かう。
「この次はペットボトルの中身を飲み切るか、捨てるかしないと入れないぞ」
「液体の持ち込みが厳しいから?」
「そうそう。だから早くそれを飲め」
目の前にはしっかりとゴミ箱が設置されていた。なるほど。
キャリーケースを預けた次の受け付けが、チェックインというものだったのだと思う。が、あっけなく終わったので本当にそうだったのか自信はない。
確か、手荷物のチェックをしたんだったか。時計やスマホなどの金属の入った小物も含めて、自分の物をケースに置いて、ベルトコンベアにケースごと乗せて荷物チェック。
自分もゲートの中を入り、エラー音が鳴ることはないのであっさりと通過。
座席へ持ち込める、サイズと重さが決まっている手荷物。そして我々はさらに少しだけ持っているものがある。身の回りの物を、小回りのきく小さなバッグ一つ分に収めるくらいなら許容されているのだとか。
なので我々の持つ荷物は、大きなカバンが三つと、ボディバッグが三つだった。もっとも、その中になかなかの量が詰められているのだが……。
ボディバッグ以外をお互いに持ったり持ってもらったりした先で、
「在留カードをお持ちの方はこちらですよ」
そう職員さんに声をかけられて立ち去る父子。生粋の日本生まれ日本育ち日本人なので両手を上げる。
同行者父子と別れた先には、誰もいなかった。ただ白くて縦に伸びている、改札のような物が並んでいる。ふむ、パスポートをこうしてこうしろとな? そしてここに置くだけ?
ただ静かに扉が開いた。突き進む。
進んだ先に職員さんが座る場所。その左右は出口だ。……職員さん、こっちを見もしないのだが。出ていい? 出ていいんだよね?
出た。
左右に伸びる一本の廊下に出た。どちらを向いてもお店の気配。右にはブランドショップ。左にはブランドショップ。どっちもキラキラしてる。廊下には誰もいない。まだこれが終わってませんよと追ってくる人も現れない。
………………………………えっ終わり?
終わりだった。
飛行機の時間まであと一時間。外国人である同行者父子は時間がかかっていたようだが、私が廊下の右へと行進しているうちに追いついてきた。
「チェックインはしたから、もうこれで飛行機に置いていかれることはないぞ!」
我が同行者が言うにはそうらしい。やっとやるべきことは終わったのだ。
やっとこのときがやってきた……ご飯だ!!!!
お腹がすいたのだ!
あれほど「空港でご飯を食べて飛行機では寝る」と言っていたくせに食事しようという意志が見られないとは何事だ!
私は長い長い廊下を大移動した。すごく移動した。食事処を探した。……なんてことだ、夜だからか、かなり閉まっている。
おみやげショップはやっているところがあるが、ブランド店は閉まっているところもある。
もっと早くに急かせばよかった。もうとにかく何かを食べないと空腹で死にそうだ!
そしてたどり着いた小さなフードコートは、三店が三店とも麺料理だった。てんぷらの写真が出てるらーめん、びーがんとか書いてありそうならーめん、よくわからないけどチャーシューご飯もあるらーめん。もういい。お腹すいた。時間もない。食べるぞー!
――そうして、空腹が私を追い詰めたのだ。食べすぎた。お腹がすきすぎた者の末路だ。
ああ、あの時……空港を散歩しているだけの時、ごえもんっていう美味しそうなパスタのお店に行きたかったんだよなぁ……時間もあったし、あの時、素直になっていれば……。
今でもなんであの時あそこで食事することにならなかったのかわからない。時間もあったじゃないか。おいしそうって何度も言ったじゃないか。なんだか腹が立ってきた。でももう遅い。
私はその後、後悔とともに飛行機に乗り込み、気持ち悪さを寝かしつけながら旅立ったのだった――目的地、の前に訪れる経由地である、第2大陸へ。
さらば日本よ
できれば無事に帰りたい……