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【最終話】

前半は白兎視点、後半が椎良視点となっております。


「……さて、行くか」


 組んでいた脚を解いて立ち上がる。

 目的の場所まで気怠げに髪をかきあげながら、ゆっくりと歩みを進める。

 逢魔が時。

 指定の場所に着くと一人の女子生徒がいた。

 こちらに気付くと頬を染め上目遣いで媚びるように口を開く。


「鳴海くぅん。来てくれたんだぁ! 嬉しぃなぁ」


 ねちっこい声だ。


「来ないと思った?」

「うん。だって鳴海くんてぇ誰かに呼び出されてもぉほとんど来てくれないって聞いてたからぁ」

「へぇ」

「だからぁ来てくれて、すっごく嬉しい。ね、違ってたら恥ずかしいんだけどぉ……もしかして私だから来てくれたとかぁ?」


 女の言葉に思わず口角が上がる。


「そうだよって言ったら?」


 女は口を押さえて声にならない叫びを発する。


「……っ!! ほんとに? ねぇほんとに? ほんとにほんとにほんとぉ!?」

「本当だよ」

「あはっ! あはは! あははははははは!! なにそれ、最高なんだけどぉ! えっもしかしてぇ両思いってコトぉ!? あははっ! ヤバい! えっ鳴海くんも私のこと好きってことだよね!? キャハハハハハ!! じゃあ、今後は私以外の女子に構ったりしないでね? 私以外の子と必要以上に近付いたり話したりもしないで! 私たちもうカップルなんだからさぁ。あと……」

「そろそろ囀ずるのをやめてもらってもいいかな?」

「……え?」

「誰が君を好きだなんて言った? 反吐が出る」

「え? え? ……だって、今……っ」

「君に呼び出されたから来たよ。都合が良かったからね」


 女は混乱しているのか口を開けたまま、きょろきょろと視線をさまよわせる。


「三階の空き教室を荒らしたのは君だよね」

「…………へ?」

「バレないとか思ってた?」

「……は? ……なに? なんのこと?」


 女の目があからさまに泳ぎ始める。


「僕が有栖川さんに構うのが気に入らなくてやったんだよね?」

「……はぁ? ぃ、いみ、わかんなぃしぃ……」

「全部わかってるから素直に吐いた方がいいと思うけど」

「知らないっつってんじゃん!! ……鳴海くん、なんで私のこと責めるような言いかたするのぉ?」

「ふぅん。じゃあ、これは何?」


 忍ばせていた写真を地面に放り投げる。

 写真には女がお茶会部の部室を荒らしている様子が写っていた。


「……は?」

「証拠写真だよ」


 女は地べたに這いつくばり写真を拾い集める。


「いみわかんない……いみわかんない……いみわかんない……いみわかんない……」


 苛立っているのだろう。

 長い爪をガリガリと噛み拾い集めた写真をまとめてぐしゃぐしゃに握り潰すと目をぎょろぎょろさせ甲高い声で叫びはじめる。


「意味わかんないんだけどぉ!! なにこれ!? ワタシなにもしてないしッ!! 誰かがワタシのことハメたんだよ!! そう、そうだし!」


 女の口がにたりと歪む。


「あー……あれだよ、有栖川だっけ? あの子がやったんじゃない? 鳴海くんの気を引きたくて……ヒッ!」


 ――ゴッと辺りに音がする。


「は? え? なになになになになになになに!?」

「ああ。気にしなくていいよ。どうせ君には見えないから」


 僕の使い魔が女の周りを飛び跳ね地面や壁に空洞を作る。


「やだなに!? こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいぃぃ!! 助けて鳴海くん!!」

「なぜ?」

「は? は?」

「椎良嬢を侮辱した君をなぜ僕が助けないといけないの?」

「……は? へ? ぎゃああ!!」


 使い魔が女の爪先目掛けて地面を抉る。その衝撃で女がその場に尻餅をつく。

 下着が丸出しになっていてひどく醜い。

 しゃがみ込んだ女の前まで行き、上から覗き混む。涙目で怯えているのが不快で仕方ない。

 

「――今回は、この程度で赦してあげるよ。彼女の身には何もなかったからね」

「へ? は?」

「けれど、もし今後彼女や彼女の周辺に手を出すようなことがあれば次は容赦しないよ」

「…………あっ、は……はい」


 女の歯がガチガチと不快な音を立てる。

 その様子を一瞥して一つ瞬きをした後いつもの鳴海白兎の顔を作る。


 彼女を害するものは何者であろうと徹底的に排除しなければ。

 今生こそ健康で彼女らしく朗らかに生きていてほしい。

 そして、出来ることなら自分のことを常に側に置いといてくれることが望ましい。

 推しに夢中の彼女はいつ自分の気持ちに気付いてくれるのか……。


「気長に待つしかないかな」


 静かに呟いて彼女の元へと足を進める。




 ――――――――





「有栖川さん、お誘いありがとう! これ、よかったらどうぞ」

「これは、俺から!」

「まぁ! ご丁寧にありがとうございます」


 花連ちゃんからは愛らしい紅茶缶を。海くんからは有名洋菓子店のクッキー缶をいただきました。


 今日は待ちに待ったお茶会の日です。


 あの後、顧問の先生とお話して壁紙を一から張り替え、カーテンやテーブルクロスも新に新調して念入りに掃除もし直しました。


 さすがに少し時間がかかってしまいましたが、何とか納得のいく形に仕上がり改めて皆さまにお茶会への招待状を送らせていただきました。


「お二人とも来てくださって本当にありがとうございます。さぁ、お席へどうぞ」

「わぁ。ありがとう! お邪魔します」

「っす!」


 二人を席に案内して、お茶の用意を始めようとした時。


「――遅れてすみません。椎良嬢、本日はお招きありがとうございます」


 素晴らしく豪華な花束を携えた白兎さんがいらっしゃいました。


「よければ、これを。邪魔にならないといいけれど」

「まぁ。とっても素敵です! こんな立派な花束をいただいてもよろしいのですか?」

「もちろん。貴女のために用意したものですから」


 花束を受け取ると芳しい香りが鼻腔をくすぐり思わず笑みがこぼれる。


「ありがとうございます。白兎さんもお席にどうぞ」

「僕も手伝いますよ」

「いえ。わたくしに全てお任せくださいませ。本日は白兎さんもお客さまなのですから」

「……わかりました」


 白兎さんは仕方ないといった風にため息を吐くと案内した席に着かれる。

 

 わたくしは、いただいた花束を部室に置いてある私物の花瓶に生けてから、お茶の用意を始める。

 お気に入りの茶葉を蒸らしている間にケーキスタンドの用意をする。

 下段にサンドイッチとキッシュ。中段にはスコーン。上段には小さなケーキにマカロンにカップケーキ。他にもクッキーやマドレーヌやフィナンシェ。プディングや小さなパンなんかも用意しました。

 それらをテーブルの上に所狭しと並べていく。


「わぁ! すっごく可愛い」

「有栖川さん、凄いな!」

「ふふ。ありがとうございます。どうぞ、召し上がってくださいな」

「「いただきまーす!」」


 花連ちゃんと海くんの声が重なるのが愛らしくて微笑んでしまう。


「わ! このスコーンすっごく美味しい!」

「サンドイッチもめちゃうま!」

「もー! 海くん口の端にマスタード付いてるよ。こっち向いて」

「ん!」


 二人のやり取りを穏やかな気持ちで見ていると白兎さんの落ち着いた声が耳に入る。


「……相変わらず美味しいですね。貴女の淹れる紅茶は」

「ありがとうございます」

「――楽しいですか?」

「はい。もちろん!」


 夢のような光景だ。

 愛しい花連ちゃんが目の前にいて。わたくしの淹れたお茶を美味しそうに飲んでくれて。

 海くんが居てくれるおかげで花連ちゃんが更にはしゃいでくれているのがわかる。

 ……そして。


「白兎さん。いつも、ありがとうございます。わたくしの側に居てくれて……願いを叶えてくださって。白兎さんが居てくれて本当に良かった。ふつつか者ですが、これからも宜しくお願いいたします」


 一瞬、白兎さんの目が丸くなるが、すぐにいつもの彼の表情に戻る。


「こちらこそ、宜しくお願いします」

「ふふ」


 窓から心地好い風が入りカーテンを柔らかく揺らす。

 優しい茶葉の香りが漂う穏やかな空間。

 夢見た温かで楽しくて幸せな時間。永遠に続けばいいのにと願ってしまいそうになる。


 けれど、この時間は有限だ。

 だからこそ、愛おしい。

 次のお茶会はいつにしよう。また参加してくれるだろうか。

 考えそうになるが、やめておく。

 今はただ、この愛おしい時間を全力で堪能することにした。


最後までお付き合いくださってありがとうございました。

以上で完結となります。

初めての投稿で拙い面もあったかと思いますが、少しでも「良かった」「次作も楽しみにしてる」など思っていただけましたら、ブックマークや下の評価欄に☆5を付けていただけると、とても嬉しいです。

どうぞ宜しくお願いいたします。ありがとうございました!

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