「わたし、キレイ?口紅買ったの」
好評いただいたメリーさんと同時空の別のお話です。今回はコメディじゃないけど例によって怖くない
「……わたし、キレイ?」
夜とはいえバチクソに暑い時期に重そうなキャメルのコートを身にまとった女が人気のない道端で声をかけてきた。
下手な客引きかと思い胡乱な目で視線を向けるとコロナ対策でマスクをしてはいるが、目元はツリ目気味の二重でアタシ好みの顔があった。
「まぁ美人じゃないの?マスク取ってみなさいよ」
「えっ、これでも?」
マスクを取る女の口元は耳元まで大きく裂けたような傷がついていた。艶のある分厚い唇が台無しだ。
「整形のダウンタイムにしては酷いわね……医療ミス?いい整形紹介するわよ?」
「い、いや、あの違くてですね、驚いて欲しくて、」
「アンタそんなことのためにキレイな顔傷つけたっての!?アタシ怒るわよ!」
「もう怒ってるよ……」
「どうせ驚かせるなら美しく驚かせなさいよ!そうだ!アタシがアンタを誰もが驚いて振り向く美女にするわ!!!」
「えっ、えぇ〜」
「ほら!ついて来なさい」
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アタシの家まで連れていったあと、誰もが振り向く美女に仕上げた。
口元の傷はファンデーションでとりあえず隠したけど、ちゃんと治させるつもり。上からマスクつけるにしてもアタシが顔面プロデュースする以上は気は抜かない。
「こんなにキレイになるなんて驚いたわ!アタシの腕前とアンタの顔面の強さのおかげね」
「驚いてくれてありがとう」
「アンタもブレないわねぇ……まぁいいわ!アソビにいきましょ!」
「えっ!?こんな時間から?」
「アタシがなんのためにアンタを綺麗にしたと思ってるの?夜はまだまだこれからよぉ〜」
「ひっ、ひえぇ〜」
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夜のオアソビなんて知らない純粋な子を連れ回すのは最高だった。
最初はオトコでも引っ掛けようと思っていたけど、この子の知らないものへの少しの恐怖と大きな好奇心でキラキラした顔は見ていてとても楽しかった。
何故か店で売っていたべっこう飴を欲しがるから買ってやった。口のなかで転がす姿はガキっぽいのに不思議な色気があった。
「それ気に入った?」
「うん。好きなのべっこう飴」
「……あんま唇ペロペロすんじゃないわよ。口紅ハゲるから」
「塗ってくれないの?」
分厚い唇を惜しげも無く差し出してくるクソアマに腹が立って、この子には似合わないオレンジを直接塗りつけてやった。
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