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残された父子と、棄てられる短剣

3人と別れてから、マガトさんとの馬車旅は順調に進んだ。

旅の途中でも、獲物を見かけると狩っていったので、結果的には毎日ウサギは取れたので、食料にも困らなかった。

六日目に至っては幸運にもイノシシが獲れたので、当然二人では食べきれない、ということで血抜きをして肉は次の村で売ることにした。

足の速い内臓はその日の夕食にしたが、それでも多かったので、レバー、ハツをのこして残りは土に埋めておいた。

次の村までは持たないだろうし、そのまま放置すると、道の近くに狼や肉食獣を呼び寄せることにもなるので今後の街道の危険につながる。



僕たちは7日目の夕暮れにニベツ村にたどり着いた。予定通りと言っていいだろう。


ニベツ村は、近くに休火山があるようで、鉱物資源が豊富に産出するそうだ。マガトさんはここでも塩をメインに交易するようだ。

着いたその日は夜も遅かったので、ニベツ村の村長の所で休ませてもらった。

ハサンとメルファをブチ切れて追い出した村長かぁ、と思ったが温和な感じだった。ただ疲れているように見えた。


村に入る前、マガトさんとあの三人の事は黙っておくことになった。

隣村だが普段から交流があるわけでもないので、変にこちらから事を荒立てることもないだろう、ということで伝えるタイミングはマガトさんに任せることにした。


翌朝、起きて一昨日に仕留めたイノシシは、マガトさんに上がりの3割を渡す事で取引をお願いした。

この村では、硬貨は流通しているようだが、僕が持ってきた毛皮を売るのはマガトさんに止められた。

この村の中での硬貨の流通量が少ないので、狩人の一年分の猟の成果を買い取れるだけのお金が無いので、安く買いたたかれるだろう、とのことだった。

まだこの村では物々交換で物を手に入れることにした。


あの二人の事もあったので、この村の鍛冶屋が気になってよってみた。鍛冶屋の前に行くと、奥から子供の鳴き声と困ったような男の声が聞こえてきた。


「すみません、ちょっと商品を見せてもらいたいんですが・・・」


僕が挨拶して中に入ってみると、と立派な髭を蓄えた大男が幼い子供二人をあやしていた。

たしかに、父親と息子よりはお爺ちゃんと孫のほうがシックリくる。


「おぉ、お客ですかな?」


と小さい子供の方を、大きい子供に任せて店の方に出てきた。

背丈は僕より少し小さい位だが、体の厚みは3倍位ある、がっしりした体躯に丸太のような腕が付いている。

ただ、顔には疲れの色が見える。子供の世話が大変なのか、それとも奥さんと弟子が居なくなったことかショックなのか。


「すまんが今は個別の注文はちょっと受けてないんだ。店に並べてる分で頼んます


最初に僕をみて誰だ?ってならなかった所をみると、住人以外が訪れることもあるようだ。

この村は外との交流もあるようで、本当にうらやましい。両親はせめてこの村で留まってくれてたら・・・


大将の顔を見に来た、っていうのは言えないので、僕は並んでいる刃物を物色する。

丁度よさそうなナイフがあった。村から持ってきた物は小さくて料理や解体には便利なんだけど、狩りに使うには小さかったので、ちょうどもう少し大きいのが欲しかったんだ。


「手に取ってみてもいいですか?」


大将が頷いたので、手に取ると重さもちょうどいい位で握りも手になじむ。飾りっけはないが、刃もきれいに仕上がっている。


「大将、これ良いものですね。物々交換大丈夫ですか?ウサギの毛皮なんですけど」


「そいつは・・・まだ残ってたのか。そいつは売りものじゃないんだ、すまんな。そいつはなぁ、物は俺が打ったんだがうちのバカ弟子、いや今はもういないんだが、そいつが仕上げした。未熟者が手をつけたもんなんで。そいつは棄てるやつでさぁ」


弟子ってことは森で会ったハサンのことか。奥さんを寝取った弟子が絡んでるから無かったことにしたいんだろう。

しかし物自体はすごく良い物に見えるし、棄てるには勿体ないものだ。


「そんな、棄てるなんて勿体ないですよ。もの自体はすごく良いものじゃないですか。どうせ棄てるんならウサギの毛皮3枚、いや5枚でどうです?」


買い叩こうとは思ってないが、値札らしきものには銅貨300 とあるし、本来ならこの倍はするのだろう。


大将は腕を組んで唸っている。

どうせ棄てるくらいなら、旅人に売っても二度と手元には戻ってこないだろう。


「分かった、それでいい。でもちょっと研ぎ直しはさせてくれ。未熟もんが仕上げたもんを売ったとあっちゃぁ沽券に関わる」


よし、元の半額で手に入れられる。


「はい、そこはご存分にどうぞ。僕としては、良い物を手に入れられて有難いですから」


「明日には仕上げておくんで、また明日取りに来てくんな」


僕は分かった、といってウサギの毛皮5枚を大将に渡して店から出ていった。

大将の客への対応は普通だったと思う。まぁ、あの腕回りをみたら人ひとり縊り殺すのは簡単だろうし、ハサンが村から出ていったのも仕方ないだろう。


村の広場に戻ってマガトさんに合流した。マガトさんの取引は無事に終わったようで、僕がお願いしたイノシシの売却もうまくいったようみたいだ。

銅貨300で売れたようで、これで銅貨210枚を手に入れた。この世界で初めて手に入れたお金だ。


誰かは知らないが老人と王国の紋章なのだろう、が表と裏に刻まれていた。

短剣に刻まれていた紋章とはまた違ったものだった。


鍛冶屋の大将の様子はマガトさんと共有しておいた。


その夜も村長の家でその日の食事をいただき、そのまま就寝した。


翌朝、鍛冶屋に寄って短剣を受け取った。

昨日と変わらず大将は疲れているように見えたが、事情は知らないことになっているので、そのまま商品を受け取った。

研ぎ直したと言ってたが、確かに昨日見たときよりも刃の歪みが無くなっているように感じる。


店の奥から子供の泣き声が聞こえてきたが、僕はその泣き声を背に店を出ていった。


大将は頑張って子供の面倒を見ているようだし、メルファさんが言ってたみたいに子供を粗雑に扱うことは無いことを願いたい。



マガトさんが馬車で出発の準備をしている。

荷馬車の中に何かの鉱石が増えて、荷がかなり重くなっているようだ。馬も大変だろうに、もしかしたらこの馬が話せるなら僕に降りろっていってくるのかもしれない。


「それじゃぁ、いくかボウズ。クレイの町には俺の家があるんだ。着いたら家に来い!!」



とりあえずお金も手に入れたし、次はクレイの町に行って手持ちの毛皮を全部金に変えるだけで、荷物がすっきるするだろう。

あとは、それで手に入れれたお金でどこまで行けるのか、調べることにしよう。

僕は馬車の荷台で手に入れた短剣を眺めながら、


僕は今更になって気付いたけど、マガトさんからはずっとボウズと呼ばれていた。

そういえば名乗ってなかったっけ?


「そういえば、僕名乗ってませんでしたか?僕の名はディアスって言いますので、名前で呼んでくれたら」


「お前はまだまだ子供だろう、ボウズで十分だ。うちの子にも言ってることだが、俺を背丈か身分で越したら名前で呼んでやる」



実は王子だってことは、まだまだ黙っていた方がよさそうだ。

しかし、マガトさんの子供はマガトさんより大きくなるんだろうか・・・


ニベツ村は、僕が生まれたニラガ村より建物は少しだけまし、程度だったけど、クレイの町はどんな感じなんだろうか。

まだ見ぬクレイの町と、マガトさんの子供に期待して、残りの旅路をまたのんびり進みだした。


読んで頂いてありがとうございました。

この4~6話は旅の話になりましたが、いかがでしたでしょうか?

次の話の後半からタイトル回収が始まりますので、ご期待ください。


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