この世界でも文化じゃなかった
食べ物を求めて男が襲い掛かってきたが、事前に気付いた僕たちは事前に準備ができて機先を制すことができた。
そのあと、赤子を抱いた女性が出てきて
「あんた~、食べ物手に入れられたの~?」
ときたもんだ。
「あら、あなた交易商のマガトさんじゃありません?お久しぶりです~」
こっちもマガトが顔見知りのようだし、僕はとりあえず狙いを男に構えたまま様子を見ることにした。
「おいおい、あんたニベツ村の鍛冶屋の大将の奥さんじゃないか。たしか去年は3人目を授かったっていってなかったか?」
「そぉなのよぉ~。それがぁ、3人目の子供が、実はこの、うちに弟子に来てたこの人とできた子だって解ると、追い出されちゃって~」
まじですか。師匠の奥さん寝取った訳ですかこの男は。男はなぜか照れている。
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「奥様とかくれて会ってたのが親方にバレちゃって。それで、奥様に聞いたら親方とはここ2年ほどご無沙汰らしいんですよ。それを親方も深く考えて無かったらしいんですけど、俺が奥様と隠れて会ってたのを見られちゃってから何か繋がったんでしょうね~、もうそれから大変でしたよ、いやほんとに」
「そうよね~、あの後すぐにあの人に村長の前に引っ張り出されて。で別れろって言われたけど私言ってやったの、別れないって」
女の人はなぜか誇らしげだ。
「だってねぇ、髭もじゃのよぼよぼ爺さんよりはさぁ、若い方が良いじゃない?」
何か、この女の人はどえらいことを言ってないかな?
この男女はまだまだ止まらない。
「あの時はびっくりしたよ。親方も村長も口をパクパクさせてたからね。でも、その後すごかったよね~、二人とも顔を真っ赤にして怒り出して。で、結局村の秩序を見出すなら村から出てけーって言われたんで、こっちも出てってやらぁ、って勢いで村からでてきちゃいまして」
「でもねぇ、あんまり考えずに村から出て来ちゃったんでぇ、食べ物に困っちゃって。その辺の草とかばっかり食べて道なりに歩いてきてたんだけど、なんか肉の焼けるいい匂いがしてくるじゃない?」
「そうそう、村から出て一週間ぶりの肉の匂いがしたんで、こりゃぁもう襲ってでも奪ってくるしかない、ってんでお二人の前にでてったってわけですよ」
「そうそう。もう一週間もまともなごはん食べてないんですよ~。ちゃんと食べないとこの子のお乳も出なくなっちゃうぅ。この子の為にも、お肉とか食べてたんでしょう?この子の為にもくださらない?」
と、僕とマガトは空になった鍋に目をやったのを、男と女の人も視線を追って食べ物があった残骸を見た。
2人が空の鍋に駆け寄って底に少し残ったスープを啜りに行った。
僕はマガトに目をやると、しかたない、とあきれたように首を振ったのをみて、僕も弓を下ろした。
当然まったく足りないようで、こっちを見てくる。
マガトはため息をついて荷馬車の方に行ってパンを出してきた。僕も水筒から鍋に水を張り直して火を起こした。しかたないけど、もう一食料理しますか。
「空腹な所にパンだけがっつかないでくださいね。干し肉ですけどスープ作りますから。あとそこのあなた、水汲みに行って来てください」
男は頷いてマガトさんに水場を聞いて水汲みに行った。僕は鍋が煮える前に、周りで食べれる野草がないか見て回った。
マガトさんは、女の人に赤子を抱かせてもらって頬が緩んでいる。赤子も喜んでいるようで、マガトさんは赤子の扱いに慣れているようだ。子供好きだったのかな?
採れた食べれる草を鍋に突っ込んで、干し肉を刻みながら鍋に落としていく。
男が水汲みから帰ってきてマガトさんが赤子とじゃれたあと、スープが煮えてきた。
2人がパンとスープに食いつきだす。
マガトさんがずっと赤子と遊んでいる。
ゴツイ男の人が赤子と戯れるのが、ちょっと不気味に感じてしまうのは偏見だろうか?
お、今度は馬車の荷台から布を出してきて赤子のおしめを慣れた手つきで変えている。もしかしてマガトさんにも子供がいるのかもしてない。
追加で作ったスープもの鍋が空になった頃、僕から切り出した。
「落ち着いた所で、事情をもう一度話してくれませんか?マガトさんは顔見知り見たいですが、僕はなにがなんだか分かってないので。あと、僕はこのから少し行った所にあるニラガ村からクレイにマガトさんの馬車に乗せてもらテルディアスと言います」
「えぇっと、こいつらは確か鍛冶屋の大将の所で見習いをやってたハサンだよな。であんたは大将の嫁のメルファだったか?」
スープを啜ってる二人に代わってマガトさんが補足してくれた。
器のスープを飲み干した、ハサンと呼ばれた男が話し出した。
「はい、俺はハサンって言います。大将の所で鍛冶屋になるために修行してたんですけど、奥さんとイイ感じになっちゃいまして。で、まぁ、色々ありましてこの子僕の子なんですよ~」
「そうなの、この子が家に修行に来出してからいいなぁって思ってたんだけど、ちょっとお話したら気が合っちゃって。もう髭もじゃのお爺さんにはウンザリしてきてたんで、他にも二人子供がいたけど、わたしもついつい行っちゃった。あ、あたしはメルファ、この子はガフって言います、ねーっ」
赤子の手をフリフリする。
「そんな武器も無くて、よくお前ら今まで生きてこれたな。この辺りは、冬はそこまで厳しくないが、野宿が簡単にできるほど温かいわけでもないだろう」
その赤子を抱いたまま、マガトが二人に聞いた。
「ここから少し離れたところに、野宿する荷物を置いてあります。狩りとかはしたこと無かったんで肉は取れなかったけどあ食べられる草位はわかりますからここまで何とか道なりに歩いて来ました。大体村から出て10日?位経ちましたけど、とにかく肉が食べれなかったのが辛かったっすね。ほんと、干し肉でもうまいっすよ」
「そうなの~。村に居た時は三日に一度はお肉食べれてたから、もうほんとお肉が恋しくて~」
2人とも肉が好きってのは伝わってきた。
「で、元いた村には戻れないんですか?」
2人は顔を見合わせて笑った。
「それは無いっすよ」
「それはありませんよ」
二人は声を揃えて言った。
「もう親方と村長に殺されかねない勢いだったんで。あとまぁ、奥さんの事も村中に伝わってるんで。うちの親にも迷惑かけてるだろうし、合わせる顔がないっすよ」
「私もねぁ、親は早くに亡くなって前の旦那が面倒見てくれてたんだけど、そのまま子供つくちゃったんで、ズルズルいってただけだから。でも、二人の子供に会えないのは心残りだけど、元の旦那もそこまで薄情な人じゃぁないと思うから、面倒見てくれるでしょう」
そうなると、選択肢が二つしか無い。このまま森で暮らすか、後は先に進むしかない。
少なくとも森での暮らしは赤子には厳しい。近頃はまだ温かいが、それでももう少しするとこの辺りでも雪が降る。そうなれば赤子は耐えられない。
マガトが二人に先に進む方の選択肢を提案した。
「ここまで来たならお前たち、このまま道なりに進んでニラガ村まで行くしかないぞ。いつまでもこの子に野宿させ続ける訳にも行くまい。元の村に戻れないなら、もうこの辺りの村だとニラガ村しかないぞ?赤子連れでもここからなら、道なりに歩けば二日程あれば着くだろう」
というと赤子がぐずりだした。
マガトの話に否定的、といったわけではなくどうやらお腹が空いたようだ。メルファが赤子を受け取り、僕たちに背を向けて赤子に乳をあげてだした。
ハサンは少し考えたようだが、他に選択肢が無いって話だし。
「わかりました。ニラガ村に行きます」
「そうか。俺達はこれからニベツ村に向かうから、少しだが食料を渡しておく。村に着くまではその子を死なせるなよ」
マガトさんが身を切って食料をだしたか。それは僕との旅だと食料が追加で手に入る見込みがあるから、かもしれない。
じゃぁ、少しは僕も助け船を出しておくか。
「じゃぁニラガ村に着いたら、村長にディアスが二人を受け入れるように頼んでいた、って言ってくれたら少しは話が早いかもしれません」
そう言うと、僕とマガトさんは荷物を馬車しまい、二人と赤子と別れてニベツ村に向かって進みだした。
少しは高貴な生まれとして市井の民草の為になにかできたかな、と思うと、ちょっと王子様度が上がったかな?
僕は村から出て、少しは王の振舞いというのも練習しておかないと。
異世界だから前の世界と常識が違うことがあるのかもしれないけど、不倫すると大変な事になるのはここでも同じみたいだ。
不倫はこの異世界でも文化じゃありませんでした。
ということで、僕たちは次の村への旅を続けるのでした。
読んで頂いてありがとうございました。
どうもタイトル回収前なのについ話が長くなって、おいらの悪い癖です。
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