別れ、旅立ち、そして出会い?
この一年で、僕はイノシシ10頭とウサギ100羽を狩ることができた。肉は腐るので少しだけ干し肉にして持っていくが、この毛皮をクレイの町に持っていって硬貨に替えて旅の資金にする。あと日持ちしそうな薬草なんかも採取して持っていく準備も万端だ。
カルロはもう泣きっぱなしだが、おじさんは交易で数日村に滞在するので、旅立ちまでは後数日ある。
たしかに、もう高齢のカルロと顔をあわせるのは最後になるかもしれない。
カルロにきちんと別れの挨拶をしようと、その夜食事の後にカルロに話をした。
「カルロ。父様母様が亡くなってからも、僕と一緒に居てくれてありがとう。君がいてくれなかったら、僕は今まで生きてこれなかっただろう。僕は親代わりだと思っている、本当に感謝しているよ」
「若・・・わしには過分なお言葉です。本当に大きくなられて・・・・しかし、王子を一人で送り出すことになって、本当に申し訳ございませぬ。今の有様のわしがお供しても足を引っ張るだけでしょうから。しかし、村長がもう少し協力してくれれば・・・」
やばい、村長への愚痴が始まった。僕が旅立ったあとに、村長と揉めないだろうか。
僕はカルロの手を握った。
「僕が王都に向かった後は、村のみんなと仲良くするんだよ。そうじゃないと、カルロは一人になっちゃうよ?」
その夜、カルロと僕は枯れるまで涙を流した。
夜が明けた後、僕たちは村の広場の交易馬車までたどり着いた。
村長や師匠も見送りに来てくれているようだ。
「村長、いままでありがとう。これからもカルロをよろしく」
「はい、王子も本懐を遂げられますようこの辺境の村から願っております」
「師匠、僕は師匠の弟子でよかったです。これからは師匠に恥じないように狩りの腕を磨き続けます」
師匠は頷いて握手をした。
そういえば、師匠の声をいままで聞いたことが無いが、なぜか意思疎通が出来たし。ほんとうに無口だけと表情豊な人だ。
僕は振り返り
「おじさん、これからよろしくお願いします」
「おうよボウズ。じゃぁ村長、また来年よせてもらうよ」
交易馬車はゆっくりと歩きだしていった。
村から出発してしばらくたってから、おじさんが話しかけてきた。
「そういえば、村長から王子って呼ばれてたけど、ありゃなんだ?」
そうか、おじさんには王都に行きたいってだけ話してたから、細かい事情までは話してなかった。
でも、本当の王子だっていうと厄介ごとに巻き込まれそうなので、ここは都会に憧れる若者ってことにしておいた方が良いだろう。
「あだ名ですよ。あの村で唯一の子供だったんで皆さん優しくしてくれました。おじさんもあの村で他の子供を見てないでしょう?」
「ふぅん、そうか。そういえばずっと俺の事はおじさん呼びだな。名乗ってなかったか?おれぁマガトってんだ。これからは名前でよべよ?」
僕は分かったと頷いた。
そこから、何か所かの水場で馬を休ませながら、のんびりとした旅を続けていた。
そして、日が暮れる前にマガトが夜営する場所を決めると、僕は日が落ちきる前にその周囲に簡単な罠を仕掛けていった。
そのあとは村から持ってきたパンと、辺りの野草に干し肉を加えて作ったスープで夕食を済ませ、マガトと交代で火の番をしながら夜を明かした。
日が昇り、仕掛けた罠を回るとウサギが一羽掛かっていたので、その場で血抜きと皮をはいで、火にかけて焼く。内臓はこれまたその辺の野草も加えてスープにしている。骨も出汁が出るのでスープに一緒にいれる。そして、肉が焼けるまでの間に皮をなめしておく。
その姿をみていたマガトは僕をほめてくれた。
「うまく取れたもんだな、解体の手際も良いし。師匠が良いんだろうな」
と言いながらスープを啜ってうまい、と声を上げた。
やっぱり干し肉よりも新鮮な肉とでは、味が全く違う。しかも、村は森の中なので塩は貴重品だった。マガトの交易馬車も、塩の役割が大きい。
焼いている肉も、自生しているハーブを中に入れて焼いていたので、塩気がなくても美味しく食べる工夫だ。
肉が焼けてきたので、半分に割いてマガトに渡すと、これもまた美味しかったようだ。
「ぼうす、おまえさんの飯はうめぇなぁ。俺が作るよりよっぽどうまい。毎年俺の馬車に乗らんか?金は出せんが」
「好評で良かったです。でも今朝はたまたま罠にウサギがかかってたからですよ。獲物が無かったらまた干し肉と野草ですよ」
旅をしているときは、食べれるタイミングがあれば食べる。朝に獲物がかかってなかったら、そのまま馬車を出してただろう。
焼けた肉も食べ終わり、火を消して出発の準備をしていると、草の中を何かがゆっくりと動いてきているようだった。
僕はマガトと目線を合わせ、他愛無い会話を続けながら僕は弓を構えた。マガトは普段は槍と手斧を使うようで、音を出さないように槍を構えた。
草の中から男が飛び出してきた。
「おめぇら、食いモンよこせ・・・」
男は手に木の棒きれを持っていたが、飛び出してきた所に槍と弓をを構えられているのをみて立ち止まった。
マガトがすごんで答える。
「食い物をなんだって?こんな辺鄙な森で何やろうってんだ、あぁ?」
男は後ずさった。
「動かないで!!動くより矢が当たる方が早いよ。試してみる?」
僕は男を逃がさないように声で静止した。くぅ、こんなセリフを言ってみたかった。
男は諦めたのか、棒切れを手放した。
「いやなに、そんな怖い目で見んなよ。ちょっと食い物を分けてくれないかって頼んでみただけだよ、本当に。」
その割には掛けた言葉は物騒だ。でも木の棒しか持ってないし、体もマガトと比べるとかなり貧相だ。職業盗賊には見えないが、そもそもこの辺鄙な山道で盗賊をしても、年に一度、マガトとしかで会わない。
「おまえ、たしあどっかで・・・そうだ、お前この先のニベツ村でたしか鍛冶屋にいた奴じゃないか?」
マガトはその男を見たことがあるようだ。
「へ、へぇ。あ、あんたはそういや年に一回村にくる商人じゃないか。あんただったのか。普通に飯くれって頼めばよかった・・・」
その男の後ろの草が揺れる。
さらに人かが歩いて近づいてくるようだ。
僕とマガトに緊張が走る。仲間がいたのか。二人以上だとこっちが不利だしどうしよう。この男は人質になるのかな?
「あんた~、食べ物手に入れられたの~?」
女性の声で、やけに気軽な話し方だ。
姿を現したのは、赤子を抱いた女性だった。
感動の別れを終えて村を出た後、次の日に変な男に襲い掛かられたけど、その後女の人が赤子を抱いて出てきました。
これ一体どういう状況?
読んで頂いてありがとうございました。
今月中は毎日更新に挑戦しようかと思います。
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