いざ旅立ちの時・・・は来なかった
カルロが呼んだ村の人たちがきて、母の弔いを手伝ってくれた。
この世界だと土葬が一般的のようで、墓場にたどり着くと、すでに掘ってある穴があった。
掘ってある穴に、母の遺体をゆっくりと収め、村の人が渡してくれた花を母に添えて母にお別れを言った。
母の埋葬が終ると元の家に戻ってきたのだが、家の中から見てたら結構ボロかったけど、外から見ると本当にボロかった。
家の中に入ると、カルロと、もう一人カルロに負けないくらいの年齢の老人も一緒に入ってきた。
「今後のことを話しますのに、村長もいた方が良いとおもいましてな、読んでおきました」
村長と言われた老人は、カルロと同じように僕の前で片膝をついてうやうやしく頭を下げた。
「王子。この度は王妃様が身罷られて、本当に残念です。もう少しこの村が豊であれば薬も手に入ったのでしょうが、貧しいこの村ではどうともできず、申し訳ありません」
貧しいのは家だけじゃないのか。しかしゲームみたいに最初は貧しい村からスタートなのか。
「村長、頭を上げてください。かあさまのことは残念でしたが、亡くなった時は安らかなお顔でした。きっとかあさまも村のみなさんに感謝していると思います」
そう答えると、村長は嬉しそうな顔になった。
「そう言っていただけるとこのレフ、今までお仕えできたこと、望外の喜びです」
そうでしょうとも、と言わんばかりにカルロが横でうなずいている。
「それでは、これから先の事をお話しいたしましょうか」
うむ、と頷いた。なんだか王子のロールプレイも板についてきたのかな。
「うむ、王子には偽りの王国を打倒する目標があります。この王子が王国最後の希望なのです!!」
カルロは熱くなったようで、どんどん語気が強くなっていく。
「それで村長、王子の護衛にこの村から何人出せますか?」
村長は渋い顔をする。
「この村は正直ギリギリでやっとります。子供もここ数年生まれ取りゃしません。そんな中では、若いもんは出せませんわい。だせるのは、広場むこうのフランと鍛冶屋の向かいに住んどるダンの奴くらいか」
「どっちもわしらとそんなに年が変わらんじゃないか。王子の王都までの旅の供すらできんぞ!!」
村長の答えに対して、カルロは怒りの余りこめかみの血管が切れそうだ。
現実世界でも、過疎っている村だと若者はいないもんだよなぁ。
村長が僕の方にすっと顔を近づけてきた。
「というわけで、この村としては王子に協力したくはあるんじゃが、いかんせん村はこんな状況じゃ。そこで、王子には一人で王都まで行けるよう、成長を待ってもらってから旅立ってもらうというころにしたいんじゃが。いかがかな?」
おいおい。一人で国相手に喧嘩しに行けっていうことか?
無理ゲー通り越して生き残りタイムトライアルですか?死ぬこと確定でどれだけ生き残れるかのタイムでも競うんですか?!!
「あの~、村長。成長を待ってって言われましたが、この村には何年か修行すれば王国最強になったり、なんてあったりします?」
我慢できずに聞いちゃった。王子のロールプレイも崩れている。
「いんや。そんなもんはありゃしません。あったら村はもっと栄えとります」
おっしゃる通りだった。
「ちなみに、王都まで行くのはどれ位かかるんですか?」
一番歩いたのは中学の遠足で登山に行ったときだけど、半日は歩きっぱなしで次の日は立ち上がれなかった。
それを考えると長くて歩いて4時間くらいだったらまだ何とかなるかな。
「この村から外にでる道は、ほぼ一本しかありません。年に一度交易馬車が村に来ますが、その馬車でも隣村まで大体1週間ほどかかるそうですじゃ。この村には牛はおるが馬はおらん。徒歩じゃとその倍はかかるじゃろうて。そこから王都までじゃと、正直わかりませぬ。そもそも、わしは都に行ったこともねぇし。王都までどれくらいかかるか、この村だとカルロ殿しかご存知ないかと思いまずぞ」
村長に、止めを刺された。
馬車で1週間って、いったいどれ位の距離?東京大阪間位?それを子供が歩いたらさらに倍はかかるだろうし、ていうかその間そもそもどうやって生きていくの?
村から出るだけでそんなにかかるの?どれだけ僻地なんだよ。
「うむ。確かこの村に来た時は、流れ流れてじゃったから三月はかかったかのう?」
隣村から先も長そうだ。
とうさまかあさま、なんでこんな遠いところまで来たの?
もう王国なんて救わなくても良いんじゃない?って気がしてきた。
「ですので、村から出るなら年一回、冬の時期に来る交易馬車に乗せてもらうしかありゃせんので、その商人に頼むことになりますじゃ。そうはいっても長い旅路になるでしょうから、今の王子のままではとても耐えれんでしょう。ですから、せめて旅に耐えれるくらい、そうじゃの~、王子はいま8つ。だいたい12になれば体もできるじゃろうて。あと4年じゃな」
それを聞いて僕よりカルロが絶望的な顔になった。
「そんな、、、それじゃぁわしが生きてる間に王子が旅立てるかすらわからんじゃないか!!」
絶望に打ちひしがれるカルロ。いやなんか隣の人が自分よりリアクションが大きいとなんか覚めるよね。
僕は大きくため息をついた。
「じゃぁ、旅立ちは4年後ということで。もうしばらくこの村に厄介になります」
頭を下げた僕に、村長も家に来た時と同じく深く頭を下げたのだった。
そういう訳で、偽りの王国を打倒しに旅立つのは4年後となりました。
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