どうやら王子に転生したらしいけど・・・
弱々しい息遣いが聞こえる。
ここは簡素な板張りの部屋で僕は、質素なベッドに横たわった女性の手をに握っていた。
体はやせ細り髪にツヤもないが、見た目より実際の年齢はもっと若いのだろう。
「ディアス・・・あなたはこの国の真実の王である・・・ドルフィネス・ホーンベルク様の子なのです・・この国は真実の王の元に・・・取り戻さなければなりません・・・」
薄い布団の下で、呼吸することすらもつらそうななか、息も絶え絶えで語りかけてくる。
医学なんて分からない僕の目にも、もう長くないように見えた。
「私のかわいいディアス・・・王都にいきなさい・・・・・・偽りの王に支配されたこの国を・・・本来の持ち主に取り戻すのです・・・」
もう、恐らくは目も見えていないのだろう。何かを探すように手を動かす。
「かあさま、僕ならここにいるよ」
握る手に込める力を強くする。しかし、握り返す力は次第に弱くなっていく。
涙が頬を流れる。
「このベッドの・・・下に・・・・お父様の短剣が・・・あります・・・これが・・・・あなたが真実の・・・王であることを・・・・証明するものです・・・」
段々と、声が途切れる感覚が短くなっていく。
「ディアス・・・偽りの王に支配さ・・・人々を救いなさい・・・あな・・・そ・・資格が・・・・」
「かあさま!!!」
頬を流れる涙が止まらない。握った手から、握り返される力を全く感じなくなってしまった。
この日、母が亡くなった。
僕の他に、年老いた男も母のことを見守るように見ていた。
年老いた男は、そっと母の顔に手をやり、優しくその瞼を下ろしてくれた。
「マルテ様、どうか安らかにお眠りなさってください。あちらでドルフ様と仲良く過ごされませ」
そして、その年老いた男は杖を持ち、右足を引きずりながら僕に向き合って頭を下げた。
「そして、ディアス様。マルテ様のご遺言にありました通り、都に戻って国を取り戻しなさいませ。しかし、あなたの御父上が幼少の頃より執事としてお仕えしてきたこのカルロも、いかんせん年を取りすぎ申した。しかも・・・」
杖で自分の右足を軽く叩く。
「この足では若の戦働きのお役には立てそうもありません。もう5年、いや10年若ければ・・・」
見るからに、ふつうの生活もままならないように見える老人は、悔しそうに涙を浮かべていた。
しかし、母をこのままにしてはおけない。
「まずは、かあさまを弔いましょう。先の話はそのあとで」
老人は思い立ったように
「そうでしたな。直ちに村のものに伝えてまいりましょう。その前に、マルテ様、失礼します」
と亡くなった母のベットの下に手を入れると、布の袋に包まれた棒状の物が出てきた。
その布の結びを解いて、中の物を僕に恭しく差し出した。
「ドルフィネス様の残された、王家の短剣です。こちらはディアス様の物になります。ただし、これは王家とその側近達しか知らぬもので、出自を知らぬ物にはただの金目の金目の物としか映りませぬ。真の王の証を立てるときのみ、人目に出すようお気を付けを」
短剣を受け取って、一度中身を取り出した。
豪華な装飾がさている。この鞘の飾りを見ただけでも、高価そうな貴金属や宝石が使われているみたいだ。
詳しくないので、どれくらい高価なのかが分からないが。
そして、鞘から刀身を抜いてみる。
飾りの短剣と思ったけど、刃物としても十分な切れ味がありそうだ。
恐らくこの柄の所にある紋章が、王家の紋章なんだろうか。
刃を確認すると、すぐに鞘にしまい、もとの袋に戻した。
「わかった、これはしばらくどこかにでもしまっておくよ」
そういうと、年老いた男は再びうやうやしく頭をさげた。
「では、マルテ様を弔う支度をいたしましょう。村のものを呼んでまいります」
そう言って、この老人は杖を使って立ち上がり、足を引き摺りながら扉から出ていった。
そして、この部屋には亡くなった母と僕だけになった。
そこで、思いのたけをぶちまける。
「なんじゃこりゃ~!僕は、確か高校の入学式に行く途中だったはずなのに!!」
実際に両手を頭につけた。
人って、本当に頭を抱えるんだな。
「っていうか、何?真の王様とか、奪われた国とか、国を取り返すとか!!!僕が行くはずだった高校はどこ?これがこうこう・・・な訳ないよね~」
頭を抱えたまま振り回す。本当に訳がわからなかった。
しかし、よくいきなり母親っぽい人が亡くなりそうなところに出くわして、何事もなかったようにそのまま息子を演じれた自分が怖い。涙まで流せてたし、役者の才能とかあるんだろうか。
しかし、一旦ここまでの流れを整理しよう。
確か、
父親の名前は『ドルフィネス・ホーンベルク』、真実の王様。すでに亡くなっているようだ。
母親の名前は『マルテ』、真実の王妃?そして今そこで亡くなった。
さっきまでいた老人は『カルロ』。父の執事と言ってた。そして、他に人は見当たらないので、両親に仕えているのは、きっともうこの人だけなんだろう。
そして、僕の名前は『ディアス』、体の育成具合からして年は恐らく小学生低学年位だろう。そして、『奪われた王座を取り戻す王子』?
高貴な生まれなのはうれしいけど、国を奪い返しに行くの?本当に?元中学生、いや高校生?入学式にいってないけど高校生って言っていいんだろうか?そんなまだまだ子供っすよ、えぇ。それで実際の体はもっと小さい小学生ですよ。それでお付きが足を壊した老人一人で、国を相手に喧嘩ですか。なにその無理ゲー。
取り合えず、今起こったことをまとめると。
異世界転生したら、没落王子で母の死に目でした。
そして、いったい僕こと吉田朔太 は入学式に間に合うのか?
きっとそんな日は来ない。
読んで頂いてありがとうございました。
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最初のこの話は暗めですが、明るい感じの正統派ファンタジーを目指してます。
だいたいのあらすじはタイトル通りです。
隔日アップを目標にしていこうと思ってますので、お付き合いいただけたら幸いです。