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「これから」と「これまで」

先王、祖父上と祖母上から両親の話を聞いたあと、師匠が王城から帰ってきた。

そのままテラスに入ってきて椅子に座り、何も言わずにハンナがお茶を入れる。


この二人は、いわば正妻と妾の関係になるのに、今も一緒にいるのはどういった関係性なんだろう。


「ありがとうね、ハンナ」


お茶に口をつけたあと、師匠がどれ、と面々を見回した。


「アメリアはライラに任せてきた。それで、どこまで話した?」


「一通りは。あと話して無かったのは、マルテさんの実家は結局取り潰しになって、当主は責任を負ってこの件では唯一処断されました。家族はドルフ達と同じく国外追放で、血族も降格とか何かしらの処罰を受けて勢いは無くなりました」


「そうさねぇ。この王さんも責任感じて王位を息子に譲ったことだし。まぁ、そもそもはあたしが早く子供を産んどきゃ、ハンナがこんな男に引っかかる事も無かったんだ。ゴメンよハンナ、あたしがしっかりしなかったから」


と師匠がハンナ祖母上に抱き付く。

ハンナ祖母上もよしよし、って感じで師匠の頭を撫でる。


あれ、そこまで仲良しなの?


微笑ましく僕が二人を見ていると、ジト目の師匠がこっちを見た後、バツがわるそうに座りなおした。


「こほん、アメリアの手前ボウズも『王国の剣』を目指す事になってるが、お前がこれからしなきゃいけないことは、国に害を及ぼさないと証明する事と、生きてく糧を見つける事だ。今はどっちも持っちゃぁいないだろう?」


そういえば、僕が村でやってたことは伝えて無かったな。


「えぇ~っと、実はですね、ここ2、3年は森で狩りをしてました。王都に来る時の旅費もそれで稼いでたので」


「え、でもあんた剣は触った事ないって言ってなかったかい?」


「ですので、弓での狩りと短剣で獲物の解体はここ4年間、村の狩人の人に教えてもらってたので基礎は十分できていると思います。2年ほど前からは一人で狩りにも出てましたし。自分で言うのもなんですが、森で獲物がいればそこそこ生きて行けると思いますよ」


「あの目の良さはそのせいかい・・・。しかし、王都の周りだと狩りをするような場所は無い。それで、危険人物のボウズがすぐに王都から離れるのは、いらん誤解を招くだろう。弓の腕がどれ位かは見ておきたいが、狩り以外で考えにゃならん。で、手っ取り早い方法は兵士になることだ。国への忠誠と生活の糧を得る事ができる。まぁ、ボウズも16だったか?まぁあと2年位は離宮ここでみっちり鍛えてやるからな」


あれ、16ってことになってるのか。


「師匠。僕まだ12です」


「まだ12?そうか、ドルフの件はまだ13年前か・・・。じゃぁ、15から練兵場通いだな。昼にいたアメリアはお前の一つ下で、もう一人弟子のライラってのがお前の一つ上にいる。2年後にライラが練兵場に行くが、ついでだからお前も行くといい。1年なら早めに入る奴らもいる。アメリアは2年早くなるが、あ奴なら周りも文句もないだろう」


「あの毎日朝からワイワイやっとるウルフリンデとサンタングの娘子共か!そりゃぁいいぞ、あの子らが一緒ならディアス君を疑ってる武官共も黙らせられるじゃろう。ただ、ディアスちゃんの素性が解るとあたりが強くなるかもしれんが、なに、女子からきつく当たられるのも良いもんじゃぞ?」


先王陛下は美人に責められるのがお好き、と。さすがは師匠と結婚してるだけのことはある。


「あと2年でどれだけボウズを鍛えられるか、ちょっとワクワクしてきたの~。ちなみに逃がさんからな。もうボウズと同じ轍は踏まん」


恐らく最後の『ボウズ』は父上の事だろう。


「はは、修行で死なない程度にはお手柔らかに願います」


僕の今の立場だと、この提案に従うしかないのだろう。まぁ、悪いようにはならないようにしてくれているのかな?


しかし兵士になる方向で決まってしまったようだけど、僕としては他の道も探りたい。

今の所は平和なようだけど、兵士だと戦争に行くことになるだろうから。


僕としては折角異世界に転生したので、もう少しこの異世界を満喫した生活を送りたい。

王子の地位は無理でも、自由にこの世界を旅して回れるような、そんな隠居後の旅行好きみたいな生活がしてみたい。


その為ならいっその事、身内の好意に甘えるだけ甘えて生きていくことにしよう。


いつの間にか日も落ちてきた。


「今後の大体の方針は決まった。今日はもう風呂入って飯食って寝ろ。明日は朝から本格的に鍛えていくぞ」


今は師匠のやる気だけが不安だった。



◇◇◇◇



王都での生活が始まって2カ月が経ったある日。


今日は朝から師匠は城に呼ばれて出かけていったので、僕はアメリアと木剣を打ち合っていた。

打ち合いといってもアメリアには力で負けているので、僕は相手の剣をただひたすらに捌き、受け流していた。


「いつまでも!ひらひらと!いい加減当たってください!」


ここ一カ月程で、剣を捌く体の動きが解ってきたのは、散々師匠に打ち込まれた結果である。

アメリアも力が強いといっても、師匠と比べると可哀そうだ。


「ディアス君の!クセに!生意気です!」


段々とアメリアの掛け声がひどくなっていく。それに合わせて打ち込んだ後の動きが緩くなってくる。

そこで僕はポン、とアメリアの腕を木刀で軽く打つ。


「あぁ~、また返されちゃいました~。力じゃ負けてないのにぃ!もう!もっとこう、力には力で返してください!!」


無茶を言う。

と言ってもアメリアをこんな風にあしらえるようになったのは本当に最近だ。


「ディアス、受けが巧くなったわね。アメリアは力押しすぎ。もうちょっと相手に揺さぶりを掛けることを覚えなさい」


と僕たちの打ち合いを総評してくれているのが、師匠のもう一人の弟子のライラだった。

アメリアや師匠と違って頭は良さそうで、僕にも論理的に説明してくれる。僕がこの2カ月、師匠よりもライラに教わった事の方が多い。師匠は主にハードトレーニング担当、ライラは技術トレーニング担当と言ったところか。


あと、アメリアより僕の方が話が通じる分、教え甲斐があるそうだ。

師匠の技なんかも教わるというより、実際に見て受けて分析したい、というようにも感じる。


この朝の稽古も、師匠がいたら痣や打撲が毎日のように増えていたので、今日はとてもとてもいい日だ。


この後、ライラ考案の体捌きを確認する練習をしていた所で、師匠が城から帰ってきたようだ。


「ディアス!お前だけでいい、ちょっと来い」


「はい!」


あとこの2カ月で師匠への返事が大きく、早くなったのは実感している。

アメリアが残念な子になったのは師匠の指導が原因なのでは?


僕は駆け足で師匠のもとに行くと、そのまま馬車に乗せられた。


「これから城に行く。お前は呼び出しだ」


城で師匠の後についていくと、忘れもしない、あの取調室に向かっていく道順だった。


「僕は無実です!」

「急に何を言っとるか」


つい口に出てしまった。一度経験した人間からすると、取調室は近寄りたくは無い。


取調室に入ると、そこには懐かしい顔があった。

ニラガ村の村長とカルロだった。カルロはなぜか縛られている。


「おぉ王子、ご無事でしたか!!この悪鬼め!!王子も捕らえておるとは!わしらを殺すのじゃな。旦那様、申し訳ありません。旦那様の名を回復せぬまま、お傍に参ることをお許しください」


えぇ~っと。カルロはどういった状態?


「この石頭、ドルフと同じように王家に対するあれやこれやを吹き込まれてそのまま信じ込んじまったままなんだよ。ちょっとでも昔を振り変えれゃぁ解るものなんだがねぇ」


師匠は諦めたようにため息をつく。


「まぁなんにせよ、これでボウズの身の上は証明されたってことだ。このカルロは考えはおかしくなってて石頭ではあるが、妙な策は労さない、ウソは受けない男だ。ボウズがドルフの子供だってことが、これで確認できたってことだ」


なるほど、僕が狂言で王子の息子を偽っている可能性もあったから、その裏付けの為にニラガ村まで行ってこの二人を連れてきたのか。

やはりしっかりしているな、この国は。


それでも、僕は。


腕を縛られているラザロに近寄り、抱き付いた。


「もう一度、生きてラザロに会えるとは思ってなかったよ」

「王子・・・」


「村を出てから3か月、ラザロの寿命が尽きるか、僕の命運が尽きるかのどちらかと思っていたから。でもこうして会えて本当に嬉しいよ」


ぎゅっとラザロを抱きしめる。どうあっても、僕が生まれてから育ててくれたのは母上とラザロな事には違いないのだから。


「王都に出てきて、僕は今のこの国を知ることができた。ラザロと母様から教わった事とは違うことが多かったけど」


「王子!!騙されてはなりませんぞ!!こ奴らの言いうことは・・・」


僕は首を振る。


「ラザロ、昔の事に縛られるのはもうやめよう?僕はラザロには平穏な余生を過ごして欲しいと思ってる」


「王子っ、・・・、しかし、旦那様はこの者達にっ!!」

「僕は!!家族には、安らかな最後を迎えて欲しいんだ。ここでラザロが処刑される事なんて、僕は望まない!!」


僕の言葉が通じたのか、ラザロは泣き崩れた。


「感動のご対面の所悪いが、ボウズはともかくラザロは王都じゃぁ暮らせないよ。ドルフと一緒に追放処分の身だからね」


師匠の言う通り、ラザロの今でも考えが変わっていない状態を見れば、追放の刑が解かれることはないだろう。


「ラザロは村へお帰り。僕はもうしばらくこの王都で暮らすことにするよ」


僕は再びラザロを抱きしめた。今度こそ、これが最後の別れになるだろう。

しばらく抱き合ったあと、僕は師匠に促されて部屋を出ていく。


城門まで、しばらく黙って歩いていく。


紋が近ずいたところで、僕から口を開いた。


「師匠、こんな形でも、ラザロとまた会わせてくれてありがとうございます。村を出た時に、もう会えないと思ってましたから」


「・・・あの石頭がもう少し柔らかかったら、いや、これは責任転嫁だな。うん、まぁボウズはこれからは末を見据えて生きていきな。周りの事もちゃんと見て、周りの意見も聞いてな。あの石頭だけは真似るんじゃないよ」


僕の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら、門まで歩いていく。


門にたどり着いても、僕の涙は止まらなかった。


読んで頂いてありがとうございました。


今回で第1章の最後の話となります。

これからの未来への展望と、これまでの過去との決別がテーマです。


次章に関してはまだ予定が立ってませんので、決まりましたら活動報告やツイッターで報告させていただきます。


次章にご期待頂ける方はブックマークやいいね、評価、感想をお願いします。

豆腐メンタルの筆者が、続きを書く原動力になります。

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