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両親の真実

取り合えず、僕はどちらの膝の上には座らず、向いの椅子に座った。


「そうよね、もうだっこって年じゃないものね。もう少し若い時に来てくれたら良かったのに~」

「はぁ~、初めての男の子の孫じゃったからだっこしたかったの~」


二人ともがっかりした様子だが、さすがに背丈は大人に近くなっているし、単純に恥ずかしい。


くねくねしながらも、ハンナ祖母上が僕にお茶を入れてくれる。


謁見の間(あんな場所)じゃとゆっくり話しできんかたからの~。サラには様子を見ては連れて来るように言っておったじゃ」


僕は入れてもらったお茶を受け取り、「ありがとうございます」と口をつけた。

柑橘系の良い香りが鼻を抜けていく、美味しいお茶だ。


「はい。僕もお聞きしたいことがありました」


「なんじゃなんじゃ?何でも答えるぞい」


「両親が王都にいた頃の事を聞きたいです。どのように過ごしていたのか、そしてどうして国を奪おうとしたのか」


先王とハンナ祖母上は浮かれていた所から、一気に気落ちし、目線を落とした。

先王がゆっくりと口を開いた。


「生まれた時は、本当に可愛い子じゃった」


え、そこから?


「わしが正妃にベスを迎えてしばらく経ってから、王城にハンナが侍女として勤めはじめてな。ベスも美しかったが子に恵まれなんだ。回りからの後継を望む重圧が半端なくてのう。ついその時儂の側仕えをしていたハンナとも、まぁ愛し合ってもうたんじゃ」


二人が照れながら目線をそらしている。

なんだこの空間は。


「それでまぁ、しばらくしてハンナが子を宿したと分かった時の、ベスが凄くてのぉ。儂をぼこぼこにした後に、ハンナを第2妃にするように言ってきたが、ハンナがそれを拒んだんじゃ」


「はい。私は生まれも軍人の家で、王家の方々に並ぶなんて恐れ多くて。ベス様にもよくして頂いておりましたし、ベス様に続く席になんて、私には務まりませんから。でもそれが、あの子を辛い目に向かわせたのかもしれません・・・」


「そういう経緯はあったが、このままベスに子が生まれねば、城ではドルフが跡取りという空気ができておった。しかし、しばらくしてベスが子を宿し、カインが生まれた後は、跡取りにカインを望む声が多くなっていったのじゃ。それが、元々ドルフを跡取りに担ごうとしておった家臣達からは面白うなかったのじゃろう。跡目を奪ったカイン、果てはこの国の王家そのものを過剰に恨むよう、ドルフに吹き込んだ者がおってな・・・」


先王は椅子に深く腰を掛けて長いため息をついた。

ハンナ祖母上も、目に涙が溜まっている。


「そこから、次第にドルフが城の内外で悪さをするようになった。当時はまだ嫌がらせ程度じゃったが、家臣や国民の心は離れていったのじゃ。どうやら王家の評判を落とす事で、儂たちに恨みを晴らすつもりじゃったんじゃろうが、それはドルフが跡取りにふさわしゅうない、と家臣の声が挙がるようになった。それには当時の儂も、考えざるをえなんだ。その結果、ドルフの18の元服式で儂は、正式に跡取りはカインじゃと公表したのじゃ。恐らくは、これがドルフを後戻りできなくしたのかもしれん・・・」


涙がこらえられず、ハンナ祖母上は静に泣き出してしまった。


「その後のドルフは酷いもんじゃった。今でも城下で口々に上る、ドルフへの悪評。あれらはほとんどが真実じゃ。そのころには儂らの諫めも()()から聞かん。家臣の中からは処断の進言もあった程じゃ。そんなドルフに、家臣の中から縁談が上がった。それがお主の母、マルテじゃ」


母は、既に悪評が上がっているドルフと結婚したのか?


「今思えば、その頃から企てがあったのじゃろう。じゃが、儂らはドルフも妻を迎えて子でも生まれれば思い直してくれるかもしれぬ、という思いもあった。しかし、そうはいかなんだ。いかんなんだ…」


涙を拭きながら、ハンナ祖母上が話しだした。


「マルテさんは、私になぜドルフの後継をもっと王に強く言わないのかと、私を責め立てました。それは直接王を前にしても同じでした。そしてそれは、恐れ多くもカイン様にも及んだのです。お付きの侍女がカイン様を害しようとしたことがありあました。幸い、ベス様がそれを食い止められましたが、その侍女はマルテの実家、マドマーロフ家からの推薦で侍女に雇い入れた子でした・・・」


母様が、いわば義理の弟になる今の王を暗殺しようとしたのか。


「そこからさほど日もただずして、あの時がやってきたのじゃ。マドマーロフ家が王都で兵を集めている、との知らせが入って、そこにベスが乗り込んだんじゃ。数名の兵士と、マドマーロフが雇った傭兵が数十いたようじゃが、ベスからすれば物の数ではなかった。ベスがマドマーロフ当主をわしの前に引っ張り出してきて、全てを吐かせたんじゃ。それは、儂とカインを排してドルフをこの国の王に据えようとする計画で、その工作を裏で画策しておったのはマルテじゃった」


父様の反乱を裏で仕組んでたのは母様・・・?

でも母様は父様の評判が悪くなってから結婚したわけで?


「あとで調べて分かったことじゃが、マルテは本当に自分は王になる人に嫁ぐ、と家人に言われて育ったそうじゃ。恐らく、それを信じ続けったのじゃろう。いや、信じ続けてしまったのじゃ。それで嫁いだのが王になる事は無い王子じゃったのが、マルテの運命を変えたのじゃろう。そんなことが無ければ、純真に笑う、笑顔が優しい子じゃった・・・」


母様は僕にしたように、子供の頃から言い続けてたんだろう、それが真実であろうとも無かろうとも。

それは、言っている本人にも現実と切り離される結果になってしまった。


この悲劇は、だれもその虚像を壊す人がいなかったことだろう。


そして、母上は本当の王に嫁いだと思ったまま、母上の人生を終えたのだ。


僕も、転生した記憶が無ければ、もしかしたら今の王を引き摺り落とす方策を考えたのかもしれない。

そして、その思いが無いかを試されたのが、あの師匠から受けた取り調べなんだろう。


僕も知らない間に涙を流していた。


「話しずらい事に答えていただいて、ありがとうございました」


「・・・いや、こちらは謝らねばならん。どこかの時点で、あの子を止める時はあったはずなんじゃ。もっと儂がしっかりして居れば、あの子達をあんな目に合わせることも無かったんじゃ・・・・」


「・・・そうですね。私も身に余る立場でしたけど、第2王妃になることを拒んでなかったら。あの子の教育は王家任せで口を出さなかったけど、あの子に王子では無い道を示せていたら・・・・」


「儂らも後悔しておる。だから、その分をディアスちゃんに返していこうと思っておる。じゃから儂らのこれからは、ディアスちゃんが幸せになる為に使おうと思うておる」


ハンナ祖母上も頷いている。

しんみりした空気の中、先王は急に真剣な顔になった。


「じゃが、一つだけ今の内から言っておく事がある」


何だろう、王に逆らう気があるなら今の内にやめておけ、とかかな?

そんな気があっても、多分師匠が生きている限りは何があっても無理だろう。

それに、アメリアのお父さんも同じ位の化け物だと考えると、両方をなんとかしないと国は揺るがない。それが『王国の剣』の称号の重さなんだろう。


「なんでしょうか」


「嫁は一人にしておけ。二人嫁にすると死ぬまで苦労するぞ」


実感のこもった至言だと思った。


読んで頂いてありがとうございました。


今回はディアスの両親がなぜ反乱を起こしたのか、の過去を語るお話でした。

次の話で第1章の〆になります。


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