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暗闇の中に小さな光があったなら

乗船時の失言をどう取り返すかか考えてていたら、良い案が浮かぶことは無かった。

考えた案はこんな感じだ。



第1案:港に着いたら、隙をみてはぐれたふりをして巻く。

 → 兵士に町中を探されることになりかねない。大騒ぎになればなるほど今後はまずいことになりそうだ。


第2案:すでに亡くなってそうな人を訪ねていって、空振りを装う。

 →王都に名前すら知っている人がいない。そもそも、そんな人を知っていたら元からその人を訪ねている。


第3案:ふるさとの村に何かあった気がする、と急に村の方に帰る。

 →いくら何でも不自然すぎるので、不審者として連行されないか?。あと、そんな都合が良い噂話が流れるのか?


第4案:あきらめて王城に行って王家の短剣を見せ、クソ親父の子供と自白する。

 →生きのこる可能性はあるんだろうか?なんだかこのルートに吸われていきそうな不安が・・・



あの兵士の人達にも、ちょっと僕の様子がおかしくなったことに気付いたようで、あまり話しかけられることは無かったが、それはそれでまずいのかな。船で様子がおかしいこどもがいたから保護しました、なんてことにならないようにしないと。

ほぼ夜も眠れず考えたが、特に何かいい方策がいつの間にか眠ってしまい、結局そのまま船は王都に着いてしまった。


船から桟橋に降りて、王都の港湾区にたどり着いた。思えばひと月かかるかと見込んでいた旅程だけど、20日程でたどり着いたのは運が良かったのだろう。


でも、当初思っていた有力貴族へ取り入るというのは、父親の評判が悪すぎると、その貴族の点数稼ぎに首を国に差し出されかねない。

それならまだ、助命する判断ができる王様に直接行く方が、妙な忖度が働かなくて生き残る確率は上がるんじゃないか。

もしかしたら睡眠不足で考えが鈍ったたがめの楽観論かもしれないけど、もうこれに賭けるしかないような気がしてきた。


「ディアス君、俺達はひとまず異動の挨拶で城に顔を出さにゃぁならん。一先ず君もついてきてくれないか?その後で君の人探しにいこう」


僕はわかりました、とついていくことにした。

港からでも見える、ひときわ大きくて立派な建物が町の中央に見えた。

この王都はかなりの大きさで、村と比べるとさらに別世界に来たようだ。

広さも相当で、町を囲む城壁が遠く見える。

この異世界に来てからこの城壁が一番大きな建物だとろう、王城より城壁の方が高さだけはありそうだ。

兵士が常駐するようなこの世界だと、戦争もあるんだろう。城より城壁の方が高いということは、外敵から身を守る必要があったからだろう。

旅をしてきた道中からは戦争の気配は感じられなかったので、王都から陸路で行く先に戦争地域があるのかもしれない。


「そういえば、皆さんは戦地から戻られたんですか?田舎から出てきて世情に詳しくないもので」


そう聞くと、部下で年長の方の人に、頭を鷲掴みにされた。


「おうボウズ、ちょっとは元気になったか、船の上じゃあえらい静かだったから心配してたんだ。俺達は国境に近い町から移ってきただけだ。この国は今の所どことも戦争はしてないから安心しな」


がっはっは、と豪快に笑いながら、僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。

こんな感じで誰かに撫でられたことはあったかな・・・


い、いけない、今から行く場所は気を抜いたら生死にかかわる。


兵隊さん達が王城に行っている間は、僕はどこかで時間をつぶすと言って町の様子をしらべよう。

いきなり無防備に城に突撃なんて無謀すぎる。


3人と一緒に城の前にまで来たら、そのまま談笑した3人に囲まれたまま、城の門の中に入ることになった。


もしかして、僕連行されてる?


城の門に入ると、脇に立っていた衛兵が話しかけてくる。どうやら隊長と顔見知りのようだ。


「お疲れ様です、ギュンターさん。国境辺りはどうでしたか?」


「今の所平穏そのものだな。今の王に代わってからは国境も安定してるし。まぁ、俺を煙たがる誰かが国境で頭を冷やせって意味で飛ばしたんだろうな。多分ドレンの野郎の仕業じゃねぇかと俺は思ってる」


隊長は悪い笑顔で衛兵の人と談笑を始めた。


「まさかぁ、ウルフリンデ閣下の副官様でしょう?」


「おう、俺がその『将軍閣下』様に馴れ馴れしいから、身分を弁えろって辺りじゃねぇかな。あいつは俺にとっちゃぁいつまでたっても『隣の家のガフ』のままだからな。公の場所じゃ頭だって下げてるし、それで十分じゃねぇか」


どうやら隊長さんは偉いさんとご近所さんで、その付き人みたいな人に煙たがられてる、と愚痴っているようだ。

どんな世界にも、人間関係のイザコザが無くなることは無いんだろう。


「私がどうかしましたか、ギュンター大隊長?」


後ろから声を掛けられて、衛兵の人がギョッとして背筋が一気に伸びる。


「お前さんが俺をわざわざ部隊から離して国境に飛ばした、って話してたんだよ」


そう言いながら、隊長はにやけ顔のままゆっくり振り返った。

後ろから声を掛けてきた人は、隊長達のような軽鎧ではなく、ゆったりとしたローブを着ていて、スキンヘッドで顔はかなり険しい。というか顔が怖い。


隊長とその人はしばらくにらみ合っていたが、怖い顔の人の口元が緩んで目を伏せる。


「今回のことは閣下の一存です。私なら短期間とはいえ部隊から指揮官を離したりはせずに部隊ごと移してしばらく王都に帰ってこれなくしますよ。あなたがいると城の空気が緩む」


今のこの場の空気は冷えて固まっている。

しかし、大隊長って結構偉くないかい?偉い人は、このお怖い顔の人みたいに威圧感があると思ってたけど。


「は、たしかにそうですなルーデン参謀殿。貴官の命令だと俺に一人で国を取ってこい、位は言うでしょうし」


うっ、今の僕の状況を見透かしているんだろうか。


「いえいえ、私は王国の損失になるような命令はしませんよ。あなたはこの国には必要な方ですから。それに、そんな命令をすれば、私が閣下に断罪されます」


しない、とは言わないんだこの人。顔と性格が一致してそうだ。


ところで・・・と怖い顔の人が僕の方を見た。


「その子供は?あなたが結婚した話は聞いておりませんが」


目が怖い。なぜか勝手に背筋が伸びて冷や汗が出てくる。


「あぁ、この子とはアソウで知り合ったんだ。両親が亡くなって、王都に身寄りがいるらしいからガフ、将軍閣下に着任挨拶をした後に、身内探しを手伝おうと思ってな」


怖い顔の人が、再び僕を値踏みするような目で見てくる。


「そうですか」


とりあえず保留になったのか、怖い参謀さんは衛兵の所に歩いて行って、腰の剣と懐から短剣を出した。


「はい、預からせていただきます」


衛兵の人は緊張でガチガチだ。

ん?武器を預けるの?


「あぁ、そうだったな。城内は決められた者以外の武器の携帯は禁止されている。なんで、君も預かって貰いなさい」


隊長は僕の弓と、短剣を取り上げて衛兵に渡した。

衛兵の人が近寄ってきて


「ボウズ、すまんが規則なんで他に持ってないか調べさせてもらう」


と僕の体を服の上から軽く叩きだした。その後、カバンの中を診られたら、布にくるまれた棒状の者が出てくる。


まずい、まずいよ。今それが出ると。


「中を見せてもらうよ」


と衛兵の人が僕に言いながら布の袋から紋章が描かれたナイフを取り出した。

衛兵の人には、ただの豪華なナイフだと思われたようだ。


ふぅ、気付かれてないな。取り合えずこの場は何と・・・


「おい」


僕の肩を掴まれた。

怖い顔の人が、さらに鬼の形相で僕の右肩を掴んでいる。

隊長も、見ことも無い真剣な顔で僕の左肩を掴んでいる。


「これはどこで手に入れた?君は何者だ?」


参謀が僕に問いかける。参謀も隊長も、このナイフの紋章を知っているようだ。


もう覚悟を決めるしかないか。


「これは・・・」


ごくっ、と唾を飲み込む。

この言葉の後に、僕の命運は大きく変わる。


「これは、亡き父様の形見です」




ということで、僕は王城の中で怖い人に睨まれたので、つい追放された王子の子供だと自白してしまいました。

ナイフの紋章を見られた時点でこの状況になるのは想定通りだ。

悪い方の想定だけど。


僕の命が懸かったコインは投げられたのだった。


読んで頂いてありがとうございました。

結構なシリアス回になりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?

すみません、次回も終始シリアスになる予定です。

もう少ししたら明るい話にできると思います。


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