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グルメ猫

 ネティアは強引に話題を変えます。

 

「ミコン、ダウイン地区の菓子店『ミニット』で新作が出たそうだけど?」

「ええ、ですが期待しない方がいいですよ」

「もしかして、果実系ですか?」

「はい。あのお店の果実系は酸味に対抗しようとしてやたら甘いですからね。客層が子どもに偏っているからそうなるんでしょうが」


「そうですか。さすがに三回続けて果実系だとは思いませんでしたわ。そうそう、レストラン『グラン』で、新たなパテのお披露目がありましたわよ」

「味は?」

「まぁまぁ、といったところでしょうか」

「ここ最近の新作は外れが多いですね」

「ええ、そうですわね…………それでは、失礼させていただきますわ」



 空気が十分に冷め切ったと判断したところで、ネティアは立ち去ろうとしました。

 もう、これ以上、先ほどの話題を蒸し返しても仕方がありませんが、今回は事情が違います。

 ラナちゃんの心が掛かっています。

 だから、ネティアの背中へ言葉を送ります。


「ネティア、あなたの指摘は正しいかもしれない。でも、指摘する相手の心を考えないのは間違っています。そこはわかってほしいです」



 ネティアは足を止めて、こちらを振り向かず無言に身を包みます。

 すると代わりに、鬱陶しい三人の取り巻きが声を上げてきました。


「ふん、あんたなんかにネティア様を指図される謂れはないっての」

「そうよそうよ、何様のつもり?」

「田舎者同士、方言に塗れて死ねば~?」


「おやめなさい」


「ですが、ネティア様! ミコンの態度は許せません。庶民の分際で私たち貴族に対していつもいつも生意気な態度を!」

「いいから、おやめなさい」

「ネティア様……はい、ネティア様が仰るなら」


 不満げな様子の彼女たちにネティアは小さく頭を左右に振って、私へと向き直ります。

「ミコン、私からも一言言わせていただきますわ」

「なんですか?」

「いくら何でも、猫パンチはないでしょう。魔導生なら魔法を使いなさい」

「ぐっ、それは……うるさいですよ」

「ふふ~ん、それではごきげんよう」



 最後に私から一本取ってネティアは教室から出て行きました。

 取り巻き三人娘は不満げな表情で私とラナちゃんを睨みつけ、こそこそと何かを話しながら出て行きました。


 一本取られた私は軽く歯ぎしりをします。

「にゃぎぎ、言いっこなしでしょう、最後のは」

「あ、あの……」

「どうしました、ラナちゃん?」

「ありなん」


「いえいえ、私が勝手にしたことですから。それどころかラナちゃんのこと置き去りにして喧嘩までしようとしてしまいましたし、むしろこちらがごめんなさいですよ」

「そんだそんだ、やまれても困るん。わんず、嬉しかった。だから、ありなん」

「ふふ、そうですか。でしたら、お礼の気持ちは受け取っておきます。ラナちゃん」



 私が言葉を返すと、ラナちゃんは頬を赤く染めています。可愛いです。

 そこからちょっとだけ首を(かし)げて、私に質問をしてきました。

「あの……」

「なんですか?」

「どうして、ネティアさんとミコンはたべもんの話を?」


「ああ、それですか。私もネティアも学園の調理部とスイーツ同好会と料理研究会に所属してるからなんですよ」

「三つも?」

「はい。まぁ、正式な部は調理部だけで残り二つは同好会なんですが」

「だけど、どして?」


「私の美食(グルメ)猫としての鋭い味覚を見抜いた三組織に勧誘されましてね。それと認めたくはありませんが、ネティアも私並みに味覚が鋭いんですよ。その縁で三つを掛け持ちすることになって、その延長上で料理の話題に関しては休戦協定を結んでいるんです。それで、時々町の料理店の情報交換をしているんですよ」


「はぁ~、しんねかった」

「さらに付け加えておくと、本気で殺し合いそうになったら料理の話題を出して収めるようにしています」

「こ、ころし……」

「ネティアは加減を知りませんから、感情的になったら容赦がないんですよ」


 と、答えると、ラナちゃんは無言で目を逸らしています。

(ミコンも容赦をしんねと思う)


「あれ、どうされましたか?」

「なんもなんも」



 ラナちゃんが大きく首を左右に振りました。

 その勢いで髪を纏めていたリボンがほどけてしまいます。

 私は完全にほどける前に、優しく髪を押さえました。


「おっと、リボンがほどけかけてますよ」

「あ、ありなん」

「ふふ、いえいえ。それにしても、綺麗なリボンですね」


 リボンはシルクのようで、手触りが柔らかく、上品な光沢があります。

 ラナちゃんは頬を赤く染めて、リボンのことを教えてくれます。


「こんれ、かかがくれたん。入学の祝いに」

「かか?」

「あ……ママのこと」


「そうなんですか。それは大切なものですね」

「うん」

「そういえば、私のママとパパは何もくれなかったなぁ。餞別に貰ったのは現金だった」

「そ、それはそれで、いいのんや」

「ま、実用性は高いですけど。リボンの方が嬉しいですよ……ん?」



 私は教室の出入り口に顔を向けます。

 それを不思議そうにラナちゃんが尋ねてきました。

「どした?」

「……いえ、なんでもありません」


 なんでもなくはありませんでした。

 私が顔を向けると引っ込みましたが、出入り口付近で取り巻き三人娘が粘っこくニヤつく笑顔を見せていましたから。

 でも、ラナちゃんを不安にさせたくないので黙っておくことにしました。

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