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猫の種類

――模擬戦から十時間後・学生寮三階・私とレンちゃんの部屋



「うへ~、めっちゃ説教受けた~」


 私は部屋に戻り、自分のベッドにばたりと倒れます。

 その様子を見ていたレンちゃんが呆れ声で話しかけてきます。


「あれだけのことをやって説教だけで済んだのなら安いものだろう」

「お説教だけじゃありませんよ。後日、学園から何かしらの仕事を与えるとか。プラス、行動報告書を毎日提出」


「報告書?」

「危険な魔法を使ったからしばらくは監視対象みたいです。要注意人物扱いですよ」


「なるほどね。だけど、仕方ない部分もあるかな。正直、あそこにいたみんなが死を覚悟したし、ミコンに殺されかけたんだから。あんまり愚痴っては駄目だよ」

「うっ! そうなんだけど……でも、お説教から二時間後ぐらいには同じお説教の繰り返しになってて、結構辛かったんです」


「だから愚痴は止めときなって。賢者様がいてくれたおかげで大事なかったけど……今回ばかりはしっかり反省することだね」

「は~い……賢者様がいなかったらこんな魔法使わなかったんだけどなぁ」

「こら!」

「った」



 レンちゃんから手刀で頭をぺちっと叩かれました。


「レンちゃん、痛い」

「痛くて当然。言い訳しない。とにかく、しっかり反省して、後でみんなに謝らないとね」

「そうですね。明日の始業前に謝罪行脚に出かけます」

「私も付き合おうか?」

「いえいえ、さすがにそれは悪いですし。これは私一人でやらなきゃいけないことですから」

「うん、そうだね。ところで……」

「なんですか?」


「お説教と仕事と報告書だっけ? 本当にそれだけで済んだの? 停学や退学なんてことは?」

「はい、その話は出たんですが、学園長とヴィエドマさんが他のお偉方から庇ってくださって」

「そうなんだ」

「それに何より、一番の被害者だった賢者様が滅茶苦茶庇ってくださったので何とか退学も停学も免れました」

「セラウィク様が?」


「ええ。『古代魔法を見たいと言ったのは私です。だから、ミコンさんを責めないであげてください』って」

「そうか。セラウィク様は心の広いお方だ」

「そうですね」

「元々、セラウィク様がそう言わずともあの魔法を使う気満々だったのにね」


「えっと……それは言いっこなしですよっ。なんにせよ、セラウィク様には凄まじい恩ができたのでいつか返さない」

「ふふ、そうだね。まぁ、大事(だいじ)が起こった割には大事(おおごと)にならなくてよかった。ミコン、食事はとってないんだろ?」

「ええ、十時間立ちっぱなしでお説教だったので」

「そう思って、サンドイッチを取っておいたんだ」


 レンちゃんは自分の机に載ってた紙袋を手渡してきます。

 それを受け取りながら私はお礼を述べました。



「ありがとう、レンちゃん。持つべき者は優しい友人ですね」

「ふふ、そんなに喜んでくれると嬉しいね。でも、すまない。監査官は止められなった」

「監査官?」


 私は尻尾ではてなマークを作ります。

 レンちゃんはそのはてなに応えて、指を私の机やクローゼットに振りました。


「ミコンがセラウィク様の前でご祖母の道具を使っただろ。アレが危険視されて、他にも道具を持っていないかと調べられたんだよ。さすがにそれを止めることはできなかった」

「ええ、そうなんですか!?」


 私は机を調べます…………机の文房具類にズレが。机の端に飾ってある子猫の人形も横を向いています。

 パパとママとおばあちゃんと一緒に撮った写真はぱたりと倒れたまま。

 机の中を開きます――ぐちゃぐちゃに荒らされた形跡が……。



「もう~、調べるのは仕方ないとしても後片付けくらいしてくださいよ。せめて家族写真くらいは」

 そう言って、写真を手に取ると、レンちゃんが首を少し伸ばして視線を写真に向けました。


「その写真の焼き付け綺麗だよね。錬金術による被写体転写だっけ?」

「ん? あ、そう言えば、錬金術の知識は私たちニャントワンキルの末裔以外では廃れてなくなってしまったんですよね?」


「うん。私自身、錬金術には興味なかったけど、その写真を見て魔法を使わない写真技術が無くなったのはもったいないかなって感じるよ。まぁ、その代わりに魔力を封じた魔石を使用する写真や映像を産み出せる電影(でんえい)が作られたんだろうけど」


「む~、私たちの住むぷにぷに村はあまり外と接触がありませんでしたからね。魔導体系もそうですが、色々遅れちゃっているみたいです」


「それはこれからいろいろ学んで行けばいいよ。それに全てが遅れてるわけじゃないだろ。今回披露した魔道具は凄まじかったし」

「にゃは、攻撃具関係は自信あるんですよ」


「攻撃具か……それを抜きにしても、あの魔法は凄まじかった」

「道具ありきですけどね。まぁ、私もあんなに凄いものだとは思ってもみなかったわけですが」



 私は自分の失敗を誤魔化すように、猫の手で軽く耳を洗います。

 ですが、レンちゃんはそんなチャーミングな私の動作に魅了されることなく、猫耳にも聞こえないくらいの小さな声で何かを呟いている様子。


「道具の力を借りたとしても使用した魔力は本物。底知れぬ才能だ。私とは……」

「あの、レンちゃん? どうしました?」

「え、いや、攻撃具のことを考えてたんだ。凄い攻撃具だね」

「はい! でも……壊しちゃった。おばあちゃんに殺される……」


 私は写真に視線を落とします。

 幼い私を中心に置いて、隣に恐怖の象徴であるおばあちゃん。それを挟み込むようにパパとママ。


 再び、レンちゃんが写真に視線を送り、とある質問を私に投げかけてきました。



「もしかしたら、失礼になるかもしれないけど……ご両親とご祖母様とは姿がかなり違うのはどうして?」

「え?」

「あ、いや、話しにくいことなら別にいいんだ。すまない」


 レンちゃんは写真から視線を外して、床と睨めっこしています。

 私は写真に写る家族を見ます。

 パパもママもおばあちゃんも、人の姿をしていません。

 三人とも、猫そのもの。

 二本足で立つ服を着た猫。


 パパは緑色の狩人服(かりゅうどふく)を着用して、毛並みは艶かな茶色と白色の縞々。ママは青色のエプロンを纏って、真っ白な毛並みでもっふもふ。

 おばあちゃんは黒い導士服に白いローブを纏い、灰色の毛でちょっぴりモフモフ。

 

 人の姿に猫耳を乗せて、お尻の上からキュートな尻尾が飛び出している私とは似ても似つかぬ姿。

 だからレンちゃんは『もしかして』を考えて視線を泳がせているみたいです。

 それに私が笑い声で答えました。



「にゃふふ、大丈夫ですよ。血がつながってないとかじゃありませんから」

「そ、そうなの?」

「私たち獣人族には大まかに三タイプ存在するんです」



1・猫や犬や兎など、そのものの姿

2・人間族の姿に尻尾やお耳が生えた姿

3・人間族の姿に近しいけど、全身を毛で覆われた姿



「といった感じです」

「たしかに、獣人族にはそういった方々いるけど。何か理由が?」


「そうですねぇ。元々は人に近しい姿だったと言われてます。進化の過程で、獣の特性を濃ゆくしていったとか。ですので、私は先祖返りにあたりますね」

「なるほどねぇ。獣人族には詳しくないから勉強になったよ。ありがとう、ミコン」

「いえいえ、この程度のこと」


 私は写真を机に戻して、しっかり家族がレモンイエローの瞳に映るように置きます。

 そして、改めて監査官のことをレンちゃんに尋ねました。

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