異常な入学者
受験が終わってからの一週間はシノロコ村で空間魔法を使って魔物狩りをしていた。これから先使う機会があるかもしれないので慣れさせておく必要があると思ったからだ。
そして一週間後、俺たちは再び王都にやって来た。今日は試験の合否の発表だ。まあ、受かっていると思うけど。
「今日はドキドキだねッ!」
フランは目を輝かせながらそう言う。俺たちはこういう経験はしたことないからその気持ちも分かる気がしないでもない。
「ああ、そうだな」
「ほら、早く行こッッ!」
フランは俺の手を引いて走っていく。もう俺は前みたいについていけないことはない。体力も万全だ。
そして俺たちはグランバレー学院に着いた。さすがに学院は人でごった返していた。人混みをかき分けて中に進んでいく。
試験の結果は紙に書かれて特製の板に貼り付けて公開される。俺たちは自分の名前を探して、名前の横に書かれた試験結果を確認する。
「あ、あった。……やった!私満点で受かってたよ!」
どうやらフランは満点の200点で合格していたらしい。まあ、当然だな。
「俺はっと……あ、あった。……ん?」
俺は自分の名前を見つけて結果を確認する。合否のところには合格と書いてあったが、点数がおかしい。点数欄に何故か斜線が引いてあるのだ。多分合格と書いてあるので大丈夫だとは思うけど、一体どういうことなのだろう?
俺は確認するため、合格者受付に行った。
「すいません、ちょっと確認したいことがあるんですけど……」
「はい、なんでしょうか?」
「自分の試験結果の点数欄がおかしかったんですけど、なにかの間違いですかね?」
「もしかしてナーガス=エアリアさんですか?」
「あ、はい、そうです」
「申し訳ありませんが、学院長室までご足労いただけますか?」
「え?は、はい。分かりました……」
俺はフランに一言伝えて学院長室に向かった。校舎の中をあれこれ迷いながらようやく辿り着いたそこは重々しい雰囲気が漂っていた。
「失礼します」
扉を三回ノックして中に入る。そこにはイザベラさんと同じくらいの歳であろう女性が椅子に座って、こちらを見ていた。その人は机に両肘をつき、両手に顎を乗せて睨んできた。
「君がナーガスか?」
「はい、そうです」
学院長は小さなため息をついた後、再び口を開けた。
「私は学院長のエレナ=クロイツだ。まずは入学おめでとう。君の試験結果は素晴らしかった。満点だ」
やはり俺も満点だったのか。じゃあ何故点数欄に斜線が?
「君の試験結果は良かった。だが、空欄に魔法構築式を書いたことが今、問題になっている」
「え?ダメなんですか?」
ついやってはいけないと言われてないので書いてしまったが、あれはダメだったのか?なら入学取り消しも考えられるか……。
「いや別に悪いことじゃない。こちらも禁止していないからな。だが君の魔法構築式は内容に問題があるんだ」
内容?別にパッと思いついたのを書いただけなんだけどな。
「君が書いたのは第4位階魔法『煌炎弾』の魔法構築式だろ?あんなのが受験生に書ける訳がないんだ。普通はな」
魔法はその強さによって第1位階から第10位階までに分けられる。当然、魔法の強さが上がるほど、魔法構築式も複雑になる。
そういえば『煌炎弾』の魔法構築式だった気がするが、最近は魔法構築式を書く機会なんてなかったので忘れていた。まあ、魔王討伐に駆り出された魔術師たちは普通に書けるからな。
「やはりあのイザベラの紹介というわけか。君の書いた魔法構築式のせいで校内の教師陣は大騒ぎをしているぞ」
「すみません、つい暇だったもので」
「まったくこれからは自重してくれよ。君やフランみたいな人間は受験生にはいないんだから。あくまで普通の人間でいてくれ」
「はい、分かりました」
うむ、やはり自重した方がいいのか。まあ、不審がられても嫌だからな。ここは言う通りにしておこう。
こうして俺は学院長室を後にした。少し急ぎ気味でフランのもとに戻ると、何か揉め事が起きているみたいだった。