筆記試験
翌日、俺たちは筆記試験を受けに、王立グランバレー学院にやってきていた。この学院は王国の中でも一、二を争うほどの有名校だ。それだけあって敷地も広く、校舎も大きい。
「うわぁ〜、大きいね〜」
「まあ、前国王の命令で建てた学院らしいからな。貴族の子供もたくさん通うらしいし、逆に俺たちの方が珍しいのかも」
「へぇ〜、よく知ってるね!」
「まあ、事前情報は抜け目なくがモットーだからな」
まあ、イザベラさんから聞いた情報だけど。
「そういうとこ、昔から変わらないね」
「子供の頃にそう教えられたからな」
「誰から?」
「俺の兄だ」
「お兄さんがいるんだね」
「ああ、そうだ。……ほら、行くぞ」
「え、う、うん」
俺は少し強引に話を切って中に入った。あまり触れてほしくない話が出そうになったからだ。
筆記試験はそれぞれの教室に入って行うらしい。幸いなことに俺たちは同じ教室だったので一緒に向かった。
「ここだな」
扉を開けて中に入ると、そこにはもう受験生がたくさんいた。そいつらの視線が一斉にこちらに向く。まあ、主にフランを見ているのだろうけど。
まあ、この国に来てから嫌というほど見られてきたので多少は慣れた。よって俺たちは意に介さず、指定された席に着く。
しばらくすると試験官らしき女性が入ってきた。その人は周りをぐるっと見渡し、俺の方を見ると何故かため息をついた。
「それじゃあ試験を始める。用紙を配られたら各自始めてくれ」
こうして試験は始まった。俺は配られた用紙を見て、声には出さないがとても驚く。内容が簡単すぎるのだ。事前にイザベラさんから楽勝と言われていたが、さすがにこれは……。
俺は手を止めることなくスラスラと解いていく。これは完全に基礎の基礎だ。独自魔法まで使うことの出来る俺に解けないわけがない。
結局、120分の試験時間を与えられていたが、30分足らずで終わってしまった。暇すぎて用紙の空白のスペースに思いついた魔法構築式を書いたりしていた。魔法構築式というのは魔法を構築するために必要な情報を簡易的にまとめたものだ。これを書かないと魔法は発動しない。
そんなことをしていたら意外と早く時間は過ぎた。時間ギリギリまで魔法構築式を書いていたので消す暇がなかったが
まあそれで落ちたりはしないだろう。……多分。
「よし、試験は終わりだ。後ろから用紙を回収してくれ」
なんというか予想通りであり、期待外れだったな。まあ、この年齢のレベルがこのくらいというわけか。
「お疲れ様〜、意外と早かったね〜」
「ああ、まあ簡単だったな」
「うん、一瞬で終わっちゃったよ」
やはりフランも早く終わったらしい。イザベラさんに教えてもらっていたんだから当然か。
「なあ、今回の試験、例年より難しくなかったか?」
「ああ、過去問より数倍はやばかったぞ。やはりこの学院も本腰を入れてきたみたいだな」
試験を終えて歩いていると、そんな声が聞こえてきた。まさかあれで難しかったのか?思わず声が漏れそうになる。
「あれ、難しかったみたいだな」
俺は小声でフランに話しかける。周りに調子に乗っていると思われたくないからだ。
「そ、そうみたいだね。まあ、仕方ないよ。周りの人が普通なんだし」
フランも俺の意図を読んでくれたのか小声で話す。まあ、俺たちが異常というのはよく分かっている。
「ちょっと、あんた。待ちなさい」
誰かが俺たちを呼び止める。正確にはフランかな?
「な、なんですか?」
ひとまず俺が答える。
「あんたじゃないわよ。私が用があるのはフラン=ノーツ、あなたよ」
「あ、私ですか……」
フランに話しかけた女の子はおそらく受験生だろう。銀髪のポニーテールがよく目立つ。今までどこかの学院に通っていたのか、制服を着ている。
「フラン=ノーツ!私と勝負しなさいッッ!!」
その女の子はフランに指をさしてそう言った。初対面の人にここまで出来る性格は生憎待ち合わせてないので、正直怖い。
「えっと、具体的に何で勝負するんですか?」
「そりゃあもちろん、受験結果でよ!」
あぁー、そういう感じか。これは魔王討伐者に挑みたいというアレだろう。まあ、気持ちは分からんでもないが、相手が悪いな。
「別にいいですよ。じゃあ決着がつくのは来週ですね」
「ええ、そうね!せいぜい首を洗って待ってなさい!」
うーん、なんか首を洗うの使い方が違ってる気もするけどまあいっか。
その女の子は名前も名乗らずに帰っていってしまった。結局来週には会うからいいのかな?
ちなみに宣戦布告をされたフランは少々困りつつも笑っていた。フランが楽しそうならそれでいいか。
試験結果発表までは1週間あるので俺たちはイザベラさんの家に帰ることにした。来週が楽しみだな。