十体の将軍
空間魔法を解いた俺はランドールの元へと向かった。近づいて俺は驚く。なんと第9位階魔法をくらったランドールだが、原型を留めており、しかも人間に戻りかけていたのだ。
「ランドール!!」
俺が呼びかけると、瞼がピクピクッと動いた。息もまだ微かにあるようだ。俺は再度空間魔法を発動し、回復魔法を使う。ランドールの傷はみるみるうちに塞がり、規則的な呼吸を取り戻していた。
何故俺がランドールを治癒したのか。それは今回の事件の背景を知るためだ。元々殺す予定だったが、人間へと戻ったのなら生かして情報を得る方が良い。フランとリラの件を水に流すつもりはないが、ひとまずは情報だ。
「おい!起きろッ!!」
俺の声に気付いたのか、ランドールはゆっくりと目を覚ました。まだ意識は朧げだが、俺は無理やりにでもハッキリさせる。
「おい!しっかりしろ!」
「ああ?なんだよ……って、あれ?俺は一体……」
ランドールは魔物化したショックからか、記憶が曖昧になってるようだ。俺はランドールに今起きたことを説明する。
「は?俺が魔物化?なに馬鹿なことを言ってるんだ?」
「本当だ、馬鹿!覚えてねーのか!」
「……悪いが、まじで何も覚えていない。ここ最近の記憶だけすっぽり抜け落ちてるみたいだ」
記憶がない……か。そんなことができる魔法は聞いたことがない。だが、もしかしたら独自魔法の中にあるのかもしれない。俺が知らないだけで。
「いや、待てよ。一つ、ただ一つだけ頭に浮かぶことがある」
ランドールが急にそう呟いた。何か覚えているのなら聞いておきたい。
「な、なんだ?」
「言葉だ。『魔王様の意思とともに』っていう言葉。それが頭から離れない」
「な!?」
『魔王様の意思とともに』この言葉は魔王の側近である十帝魔将軍が戒めとして掲げる言葉だ。だが、奴らは魔王を斃すと同時に消滅したはずだ。まさか生きているのか……?
「ど、どうしたんだよ?」
俺の驚く様子を見てランドールが尋ねる。彼のような一般人が知らないのも無理はない。
「いや、なんでもない。俺の思い過ごしだ」
そう嘘をついて誤魔化す。今は奴らが絡んでいるかもしれないと知れただけで充分だ。
次に俺はリラの元に向かった。リラは顔を俯けている。もしかしたら俺は怯えられているのかもしれない。急にあんな魔法を繰り出したのだから。
「り、リラ?」
俺は恐る恐る声をかけてみる。彼女はゆっくりと顔をあげる。恐怖に支配されていると思われたその顔は、そんなことは一切なく、目をキラキラと輝かせていた。俺はあまりの様子の違いに驚く。
「すごい、すごいよ!ナーガス!あんな強力な魔法は初めて見た!なんで今まで隠してたの?」
リラが見たこともないテンションで話しかけてくる。俺は驚きのあまり、口をぽかんと開けたままリラを見つめている。
「どうしたの?どこか怪我でもした?」
俺はハッと我に帰り、すぐさまリラに返事をする。
「いや、すまない。大丈夫だ。さっきのは俺の独自魔法の空間魔法という魔法だ。能力は見てもらった通りの能力だ。ちなみに魔力がないから俺は魔法は使えない」
「ナーガス、矛盾してるよ。魔力がないのに魔法も独自魔法も使ってたじゃん」
「独自魔法は何故か分からないけど魔力無しで使える。あと、さっきの魔法は空間魔法の範囲内でなら使えるらしい。魔力が戻ったと言うべきか」
「魔力が戻ったっていうことは元々魔力はあったの?」
「あー、うーん、そこらへんの話はフランが目覚めてからにしよう。とりあえず二人とも保健室だ」
「う、うん、わかった」
俺はフランを抱えて、リラと一緒に保健室へと向かった。




