静かな怒り
『いいか、ナーガス。人間、何があっても怒っちゃいけない。怒るという行為は誰も幸せにしない。相手は傷つくし、自分の価値を下げることになる。良いことなんてないんだ。だけど、怒らなければいけない時が二つある。一つは家族が傷つけられた時、そしてもう一つは友達が傷つけられた時だ。この二つは何があっても、誰でもあっても怒らないといけない、分かったか?』
『うん!』
俺は昔、兄にそう教えられた。だから自分が何をされても俺が怒ることはなかった。だが今は違う。現実にフランとリラは傷つけられている。このクズどものせいで。
だから俺はなりふり構わないことにした。空間魔法の支配を発動し、体育館内を俺の空間魔法で支配する。支配した空間内でなら、俺は生物以外はなんでも操ることができる。すると、
「な、なんだ!!お、お前、魔力がそんなに……!?」
ランドールが変なことを言い出した。だが、そんなはずはない。なぜなら俺の魔力は失われたのだから。
そう思っていたが、確認すると俺の魔力は完全に戻っていた。理由は分からないが、今は有難い。こいつを心置きなく叩きのめせる。
「もういいよ、お前。……死ねよ」
俺が右手を前に出し、スッと下ろすと、突然ランドールの右腕が宙に飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
なぜランドールの腕が切れたのか。これは何も難しい問いではない。ただ俺は空間と空間を切っただけだ。そして偶然にも切った空間にランドールの腕があったというだけのことだ。
「て、てめぇぇぇ!!!調子に乗るんじゃねえぞ!!こいつらがどうなっても……って、あれ?」
ランドールはとても驚いている。なぜならついさっきまで近くにいたフランとリラが俺のそばにいるからだ。
これも簡単なことで、俺の近くの空間と二人の近くの空間を繋げて、二人を繋げた空間を通してこっちに連れてきただけだ。
俺はリラの拘束を外し、フランを回復魔法で回復させる。
「ナーガス、ごめん。私たちのせいで……」
「大丈夫だ。二人が気にすることは何もない。だから安心してここで待っていてくれ」
俺はランドールの方を向き直す。ランドールは苦悶の表情を浮かべながらも、こちらを睨んでいた。
「クソゴミがぁぁぁぁ!!!ぜってえに殺してやらぁ!!!」
「できるもんならやってみろ」
「行け!お前ら!」
「え、で、でも……」
「でももクソもねえ!俺の言うことが聞かねえのか!?」
「ひ、ひいっ!!わ、分かりました!」
なるほど、取り巻きも好きでつるんでる訳じゃなかったんだな。あんな接し方じゃ、人はついてこないというのに。
「火炎球!」
「風の刃!」
「雷撃の矢!」
三人の取り巻きが第3位階魔法を放ってくる。対する俺は奴らの放った魔法の先の空間と奴らの真後ろの空間を繋げる。そこに魔法が到達すると、魔法は繋げた空間に入り、奴らに直撃した。
「がっ!!」
「ぐっ!!」
「うはっ!!」
取り巻きたちは気絶したようだ。なんともみっともないな。
「あとはお前だけだぞ」
「ゴミがぁぁ!!闇の破玉!!」
とてつもない力のこもった漆黒の玉が現れる。ランドールは前と同じ戦略のようだ。前の俺にとっては対策が難しかったが、魔法を使えるようになった以上、どうってことない。
「極光線」
眩しいほどの輝きを放つ光線が漆黒の玉をどんどん消滅させていく。相手の魔法を消滅させたいなら、それ以上の位階の魔法で攻撃すればいいだけのことだ。
「な、な……」
ランドールは驚きすぎて声も出ないようだ。俺は静かに魔法を展開する。
「轟雷の槍」
第5位階魔法であるこの魔法は、大きな雷の槍を作り出す魔法だ。これでとどめを刺してやる。
「ふひっ、ふひゃひゃひゃひゃ!!!!よくもぉ、よくもやってくれたなぁ!!こっちも本気を出してやるよぉ!」
そう言うと、ランドールの姿がどんどんと変わっていった。まるで魔物のように。この瞬間、今までの違和感が線で繋がった。
 




