事件発生
それからというもの、俺は学校中から蔑まれ、軽蔑され、馬鹿にされた。その度に俺の心はどんどん傷つく……こともなく、割と普段通り過ごしていた。
俺はメンタルが強いとか特にそんなことはないと思うが、悪口を言われたところで気にしない。そんなもの勝手に言わせておけばいいのだ。気にする必要なんてない。
ということでランドールとの決闘から一週間が経った。あれから魔法の授業では周りから色々言われながらもイツキ先生の計らいにより、俺は見学をしている。もちろんボーッと見ているわけではない。ちゃんと魔法構築式を書いたり、新しい独自魔法を考えたりしている。
だが、それでも授業に参加していないのは同じなので成績は下がる一方だ。このままでは約二ヶ月後のクラス替えで下のクラスに下がってしまう。
フランとの情報共有や授業の質が下がってしまうのはいただけない。できることなら回避したいが、下がったら下がったでどうにかするだけだ。
あの事件が起きるまではそう考えていた。
◇◇◇
それはいつも通りの朝のこと。教室でフランと話をしていた。
「ねえ、ナーガスは悔しくないの?」
「何が?」
「何が?じゃないよ!あれからずっと馬鹿にされてさ、私は悔しいよ!本当は……」
「フラン、分かったから」
「……ごめん。でもね、私は本当に悔しいんだよ?ナーガスが好き放題言われて。私は自分の悪口を言われるよりもナーガスの悪口を言われる方が嫌だよ」
「それは俺も一緒さ。自分より友達のことを言われた方が辛い。気持ちは一緒。だから心配しないでくれ」
「う、うん……」
その時のフランの歯切れの悪い返事を、俺は特に気にも留めなかった。この時気付いていれば……。
その日の放課後、俺はイツキ先生にランドールの違和感について話に行った。その帰りのこと。
「おーおー、こんな所にいたのか、ゴミ!」
いつも悪口を言ってくるランドールの取り巻きの一人が俺に向かってそう言ってきた。いつものことなので俺は無視する。
「って、おい!ゴミの分際で無視すんじゃねえよ!!……お前のお友達がどうなってもいいのか?」
「なんだと?」
お友達……フランか?こいつら、とうとう俺の周りにまで手を出しやがったのか?
「詳しい話が聞きたいなら体育館に来いよ。お前のお友達もそこにいるぜ?」
俺は警戒したが、こいつの言ってることを真正面からは否定ができないのでついていくことにした。
「ランドールさーん!連れてきましたよ!」
体育館に着くと、そこにはランドールがいた。やはりこいつが首謀者か。
「おーおー、ゴミカス!よく来たな!ほら、見てみろよ。お前のせいでお友達がこんなになっちまったぜ?」
奴が誰かの頭を掴んで、俺の見える所に突き出す。それは血塗れでぐったりしたフランだった。
「ふひひ!ふひゃひゃひゃ!!こいつぁ本当に馬鹿でな?お前への罵倒をやめろって言ってきたから、俺がちょこっとお前の悪口を言ったら、さらに怒ってな?俺が決闘を誘ったらまんまと乗ってきたもんだからボコボコにしてやったってことよ!」
全身の毛が逆立ち、身体中の細胞が震える。こいつは悪だ。どんなことをしても治りようがない、正真正銘のクズだ。
「魔王討伐者も大したことねーなー!!ふひゃひゃひゃ!!……あ、そうだ。こいつもノコノコついてきたもんだから、ついでに捕まえてやったよぉ!」
ランドールがそう言うと、取り巻きが口と両手足を縛られたリラを連れてきた。リラは泣きながら何かを言おうと、口をモゴモゴしている。その姿を見て、俺は決心した。
こいつは、こいつだけは、許さない……。絶対に殺してやる……!
俺は空間魔法を発動した。




