蔑みの眼差し
少し休んだ後、俺は保健室を出て寮に戻った。その道中、すれ違う人から何度もジロジロと見られた。やはりさっきの決闘を見ていたのだろうか。あれだけの騒ぎを起こしたのだから仕方ないのかもしれない。
寮の部屋に入ると、ハンスとローランが既に部屋にいた。二人は俺が部屋に入っても無言のままで何も言わない。これもおそらく先ほどの決闘のせいだろう。ランドールは心配ないが、俺はもしかしたら何か罰則を受ける可能性もなくはない。ただイツキ先生が何とかしてくれるだろうけど、彼らはそれを知らない。関わらない方が賢明だ。
俺はそれを察して二人には何も言わずに先に寝床についた。
◇◇◇
翌日、日課の早朝トレーニングを終えてから支度をして学校に向かった。普段なら一緒に行くハンスもローランも部屋にはいなかった。分かってはいたが少し寂しい。
俺は一人で教室に向かう。やはりその間も周りからジロジロと白い目で見られる。まあ、これにもそろそろ慣れてきた。
教室に着き、扉を開けて中に入る。その瞬間、クラスメイトが一斉にこちらを見てきた。俺は少しビクッとする。だが、みんなはすぐに目を逸らした。学校中に広まってしまえばこうなってしまうのだな。
俺はそう実感して席に座る。すると近くにいた女子数名が話しかけてきた。
「聞いたわよ。あんた、魔法が使えないんだってね?なんでこの学校にいんの?さっさとやめれば?あははははは!!」
「魔法が使えないのに筆記試験一位ってどんだけ無駄な努力してるのよ。だっさ!!」
「てか、入試の一位ってのも何か裏の手使ったんじゃないの?いわゆる裏口入学ってやつ?」
「あー、それあるわー!」
彼女たちは俺のことについて言いたい放題言ってくる。正直呆れすぎて怒る気にもならない。
「言いたいことはそれだけか?」
まあ、これ以上ここにいられても邪魔なので、形だけでも怒っておくことにした。彼女たちは少しビビったのか、俺の所から離れていった。
だが、これで分かった。イツキ先生が何故あんなに釘を刺してきたのか。こういう事態を想定してのことだったんだな。
「よお、ザコ!いや魔法が使えないんならザコですらないな。悪い悪い。なはははははは!!」
「やめてやれよー、可哀想だろ?そんな現実を見せてやるなって。ま、こいつが底辺以下のゴミってことは本当だけどな。あははははは!!!」
俺は噂というものが嫌いだ。噂なんて99パーセントが嘘だ。そんなものを信じる方の気がわからない。第一、噂なんて確証がなさすぎる。とても馬鹿馬鹿しい。
まったくここは馬鹿しかいないのか?
「ちょっと何してるの!!」
そんな声が扉の方から聞こえた。その方向を見ると、フランがいた。彼女は珍しくものすごい剣幕でこちらに歩いてくる。
「な、なんだよ。本当のことを言ったまでだろ?」
「そうやって人のことを落として何が楽しいの!?そんなことしてる暇があったら自分のことをどうにかしなよ!」
「う、うるせえよ!俺らの勝手だろ!」
「そーだそーだ!」
「あんたらは努力しなさすぎ。もっとナーガスを見習ったらどうなの?」
フランと一緒にいたリラも俺を庇ってくれている。それがどれだけ嬉しくて、有難いことか……。
「ぐぐぐ……」
「おいおい、お二人さーん。そんな奴を庇っていいのかい?特に魔王討伐者さんは、ね」
ランドールが会話に割って入ってきた。本当にこいつは嫌味しか言わない。
「別に、私は自分で見たものしか信じないから。それに私はナーガスの実力を知ってるしね」
ん?フランさん?何を言ってるんですか?
「は?そいつの実力は昨日の通りだろ。頭のおかしいこと言ってんじゃねえよ」
「ふふーん、そんなことないんだよな〜」
「ちょっ、フランさーん。何言ってるんですかー」
「……あ」
あ、じゃないよ。そこはちゃんと黙っててくれよ。頼むから。
「ま、いいや。勝手に言っとけ」
ランドールは自分の席へと戻っていった。危ない危ない。あやうく空間魔法の存在が露見してしまうところだった。
「フーラーンー?」
「は、はい……」
「はぁ、まあ俺のために怒ってくれたことは嬉しかった。ありがとな」
そう言うとフランはパーッと笑顔になった。
「だけど、独自魔法のことは別だ。バラすなって言ったよな?」
「はい、すみません……」
「まあ、結果的には良かったが……」
「ねえ、何の話してるの?」
リラがいることを忘れてフランと話し込んでしまった。まずい、俺も人のこと言えない。
「まあ、時期が来たら話すから」
「むー、二人だけで秘密の話してるー」
「ごめんごめん」
なんかリラの反応が見たことない感じで少し面白かった。もう少ししたらリラには空間魔法のことを伝えてもいいかもしれない。信頼できる友達として。




