敗北の一戦
今までランドールが発動した魔法。そのどれもが第4位階や第5位階など、この前入学した生徒とは思えないほど強い魔法なのだ。
実は前から使えましたという可能性もなくはない。だがランドールの性格上、周りより強いと分かれば、それを全面に押し出してくるはず。だが奴はそれを今までしてこなかった。ということはつい最近、正確には俺に負けてから使えるようになったという考えで間違いないと思う。
「おいおい、もう終わりか?10分ほどしか戦ってないぞ?」
「誰が終わりだなんて決めたんだ?まだ俺は戦えるぞ」
「じゃあ魔法を使ってこいよ。入試成績1位さん?」
「なんだ、俺に魔法を使わせたいのか?そんな単純な誘いには乗るわけないだろ」
俺はなんとか誤魔化す。だが、それは無駄だった。
「とか言いつつ、魔法が使えないんじゃないのか?」
「……!?そんな訳ないだろ……」
「じゃあ使えばいいじゃないか。この状況をひっくり返せるかもしれないんだぞ?」
「……」
「黙るってことは肯定と捉えていいんだな?」
周りがザワザワし始める。まずい……バレたか?空間魔法を発動するか?いや、ダメだ。空間魔法を使えば勝てるが、それはランドールを殺すことに繋がってしまう。空間魔法は敵の無力化には向いていない。
俺が魔王討伐時に使っていた剣さえあればなんとかなると思うが、今の手持ちにそれはない。……諦めるしかないか。
まあ、もう少しだけ粘ることにした。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
最後の気力を振り絞ってランドールに剣を振り下ろす。
「はぁ、無様だな。雷絶」
超スピードの雷が俺の腹を貫く。俺はそのまま気を失った。
「うひひ、うひゃひゃひゃひゃ!!!!やった、やってやった!!!」
◇◇◇
次に目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。その時俺はランドールに負けたことを悟る。
「目覚めましたか?」
声が聞こえたのでベッド脇を見ると、そこにはイツキ先生がいた。どうやらずっと見ていてくれたらしい。
「は、はい。すいません」
「いえ、謝るのはこちらです。私はあなたたちの戦いをずっと見ていましたが、止めることができませんでした。教師という立場として生徒を正しい方向へ導かなければいけないのに……本当にすみません」
イツキ先生は深々と頭を下げた。俺はそれを見て驚いてしまった。
「ちょっ、頭を上げてください!そこまで気にしなくて大丈夫ですよ!止めることができない理由も大方は把握してますし、しょうがないことですよ」
先生たちはランドールにきつく言われていたのだろう。奴は一応公爵家長男という、この国で3番くらいに地位が高い家の出身だ。万が一にも逆らえば、最悪この国で暮らせなくなるだろう。それを鑑みれば俺が文句を言うことはできない。俺だって先生の立場だったら黙って見てるかもしれない。
「ありがとうございます。それを踏まえた上で一つ聞きたいのですが、ナーガスくんは本当に魔法を使えないのですか?」
「ああ、そのことですか。それなら本当ですよ。俺には魔力がないので魔法を使うことができません」
「そうだったのですか……」
「いやー、この学院の入試が筆記試験のみで助かりましたよ。もし実技があれば確実に落ちてました」
俺は笑いながら話す。イツキ先生はそんな俺の様子を見て一言言った。
「今までよく頑張りましたね」
「え?それはどういう……」
「あなたの入試の成績はとても素晴らしいものでした。あれを見ただけでとんでもないくらい努力をしたことが分かります。きっと魔法が使えないからといって諦めずに人一倍努力したんでしょうね」
イツキ先生はとても優しく微笑む。その笑みに俺は心がふっと軽くなったと感じた。この人はとてもいい先生だ。
「ですが生徒たちに魔法が使えないことを知られた以上、辛いことがあるかもしれませんが頑張ってください。私が助けになります」
「頼もしいです!ありがとうございます」
この時の俺はイツキ先生の言葉を軽く見ていた。それを後でじっくりと感じることになる。




