決闘の前触れ
「まずは第2位階魔法雷撃からです。魔法構築式は《クリエイト・ボルト》、電気を作るということです。では発動させてみましょう」
周りのクラスメイトたちがどんどん魔法を発動させていく。俺も一応試してみるが、やはり発動しない。なんとか発動させた感を出して誤魔化す。
「では次に第3位階魔法雷撃の矢の説明をしましょう。魔法構築式は《クリエイト・ボルト・ショット》。雷撃の魔法構築式に少し足された形となっています。このように同じ系統の魔法は似た魔法構築式になる傾向があることを覚えておいてください」
魔法には系統がある。炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の8種類だ。そしてその系統ごとに決まった魔法構築式の文句がある。雷系統なら《ボルト》が入っている。そう考えると魔法構築式も覚えやすい。
「では実際に試してもらいましょう。ナーガスさん、やってもらえますか?」
や、やばい……。どうしよう。……かくなる上は
「す、すいません、ちょっと、」
「先生、私がやってもいいですか?」
フランが手を挙げてそう言った。なぜ助け舟を出してくれたのかは分からないけど有難い。今は頼るとしよう。
「雷撃の矢!」
フランは難なく雷撃の矢を発動した。うん、さすがだな。
「ありがとうございます。では皆さんも参考にして試してみてください」
ふう……何とか助かったな。フランには後でしっかりお礼を言っておこう。
そのまま何事もなく魔法の授業は終わった。よかったよかった。
◇◇◇
翌日、教室にあいつが来ていた。公爵家長男のランドールだ。ランドールは武術の授業で俺に負けてから学院には来ていなかったが、今日は久しぶりに来たらしい。なんだか感じが変わっている気がするが……。
ランドールは教室に入った俺を見て、こちらにやって来た。嫌な予感がするな……。
「おい、ナーガス=エアリア。俺と戦え」
はい、嫌な予感的中っと。まーた、面倒なことになったな。ほんと勘弁してほしい。
「今から授業だぞ?」
「は?関係ねえよ。さっさと外に出ろ」
「嫌に決まってるだろ。それに学校の規則で校内での無闇な戦闘は禁止されている。俺は違反者になりたくないしな」
「そんなことは俺には関係ない。分かったらさっさと出ろ。さもないと……」
ランドールが何かを言いかけた時、イツキ先生が入ってきた。
「皆さんおはよう……何か揉めてるのですか?」
イツキ先生は柔らかい物言いで話す。俺はランドールがイツキ先生のそういった面につけ込んで、大声で捲し立てたりするのかと思っていた。
「ちっ」
意外や意外、ランドールはそのまま引き下がったのだ。さすがのこいつも女性には弱いということなのか?
ひとまずは切り抜けたがランドールはなかなかしつこそうなので放課後も気をつけないと。
そう思っていた矢先、事件は起こる。
「おい、お前孤児院暮らしだったらしいな。可哀想な奴だ。同情してやるぜ」
「お前……いい加減にしろよ……!」
ランドールはなぜか俺が孤児院暮らしだということを知っていた。大方、公爵家の人脈を使ったのだろう。
「おいおい、本当のことを言って何が悪いんだ?ど貧乏さん」
「調子に乗るなよ……!!」
「言葉遣いが荒いぞ?これだから親がいない奴は……」
「ふざけんなッッ!!!」
俺はランドールの胸ぐらを掴む。それだけ俺はランドールのことが許せなかった。俺は幼い頃孤児院で兄と暮らしていたが、辛かったことなんて一度もない。孤児院を経営していた先生は優しかったし、一緒に暮らしていた奴らもいい人ばかりだった。その人たちを侮辱することは絶対に許さない。
「おー、怖い怖い。殴られるー」
「おい、ランドール」
「なんだ?」
「お前の決闘の申し出、喜んで受けてやるよ」
「あはははは!!いいね、そうこなくっちゃ!」
「ぶっ潰してやるよ……!」
「どうぞ、ご自由に」
俺はランドールの決闘の申し出を受けた。否、受けてしまったのだ。それが罠とも知らずに。




