魔物の進入
俺は日課の早朝特訓を終えて、寮の部屋に戻ろうとしていた。その時、遠くの方に人の気配を察知した。人数までは分からないが、確かに誰かがいる。ただその気配は俺には気付いていないようだ。
少し気になった俺は気配の方向に向かった。もしかしたら何かあるかもしれないからな。
こっそり近づくと話し声が聞こえた。どうやら二人組のようだ。そいつらは黒いローブを羽織り、顔をフードで見えにくくしている。
「おい、ここら辺でどうだ?」
「うん、いいだろう。学院から少し離れているから見つけにくいだろうし」
「じゃあここに設置しとくぞ。他はもう準備できてるんだよな?」
「ああ、連絡はきている。今日決行だそうだ。ふふふ、楽しみだな……。さーて、何人死ぬかな?」
おいおい、なんて物騒な話なんだ。こいつらはこの学院に何かを仕掛けようとしているみたいだが……いや、今こいつらを捕らえても意味はなさそうだな。まずはこいつらが仕掛けたものの対処を優先しよう。
俺は二人組が立ち去るのを見過ごした後、奴らが仕掛けたものの確認を行った。
「これは……」
そこには腕輪のようなリングが置いてあった。おそらく魔道具のようだが……何かは分からない。解析をしようにも俺には技術がないから、ひとまずは空間魔法でリングを隔離しておいた。本当にこの魔法は便利だ。
「よし、ひとまず帰るか」
俺は寮の部屋に戻った。
◇◇◇
その日の午後、俺たちは体育館にいた。何やら一年生集会が行われるらしい。先生たちが話していることを特に集中せずに聞いていた。
「ねえ、ナーガス。何か変な感じしない?」
俺の後ろにいたフランが話しかけてきた。特に変な感じもしないのでそう伝える。
「いや、特に何も?」
「そ、そう?ならいいんだけど……」
その時だった。魔力のない俺でも何かを感じた。空間が淀むような、そんな感じだ。
「フラン!」
「う、うん!これはまずいかも!」
周りも少しざわざわしている。さすがに何かを感じたらしい。
すると、体育館の入り口から犬型の魔物がたくさん入ってきた。
「ガァァァァァ!!!」
「ワォォォォォォンン!!!」
それに気付いた生徒たちが一気に大パニックになった。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
俺はその流れに乗じて空間魔法を使い、剣を部屋から取り出す。
先生たちが生徒を安全な出口に誘導している中、俺とフランは示し合わせて犬型の魔物に立ち向かった。
「はぁぁぁぁ!!!」
「雷撃の矢!!」
俺は剣で、フランは魔法で魔物を斃していく。そこにアルマス先生たちも加わった。
「大丈夫か!」
「アルマス先生!こっちは大丈夫です!」
「君も早く逃げろ!」
「いや僕も戦います!そうじゃないと間に合わないでしょう!」
他の先生は生徒の誘導をしている人もいるため、魔物の対処にあまり人員を割けていない。それに犬型の魔物程度なら俺たちは造作もなく斃せる。
フランがいる方を見ると、イツキ先生が加勢に行っていた。まあ、フランなら一人でも大丈夫だろうけど。
こうして徐々に魔物の数を減らしていき、ようやく全てを斃し終えた。どうやら生徒には被害もなかったらしい。
「ようやく終わりましたね」
「ああ、そうだな。……っ!イテテッ!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、平気だ。少し噛まれた程度だから……!?ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
アルマス先生が急に苦しみ始めた。それとほぼ同時に周りからも苦痛の声が聞こえた。さっきの魔物に噛まれた先生が苦しんでいるらしい。
俺は心当たりを確かめるため、先生が噛まれた箇所を見た。するとそこには見覚えのある紋様が浮かび上がっていた。
「やはり呪いか……」
どうやら先生たちは魔物に呪われたらしい。魔物に噛まれることで呪われるようだ。俺はフランに話して解呪を依頼する。
俺は見守ることしかできなかったが、フランは素早く正確に解呪を行い、無事に終えた。
「はぁ〜、疲れたよ〜」
「お疲れ様。よく頑張ってくれたな」
「えへへ。何事もなくてよかったよ」
俺はフランと笑顔で会話しつつ、朝のことを思い出していた。おそらく今のが、今朝の奴らが仕掛けたリングの効果だろう。一体奴らは何のためにこんなことを……?
◇◇◇
ナーガスたちが魔物退治をしている頃、その様子を水晶で眺める者がいた。彼は黒いローブを羽織っている。
「ふふふ、面白いな……」
彼は水晶に映る映像を見て、第一の計画の失敗と第二の計画の成功を悟った。彼にとっては、この展開が一番望んでいたものだった。
「さあ、これから楽しくなるぞ!!」
彼は高らかな笑いを上げながら、次の計画の準備をするのだった。




