教育的指導
俺は体育館に来ていた。武術の授業を受けるためだ。さっきまでの選択授業はクラス関係なく授業を受けるが、武術はクラスで受けることになる。
「やあ、諸君!先日はお疲れ様だな。本日から武術の授業が始まる。ビシバシいくから覚悟してくれ!それじゃあ今日は簡単な体術からだ」
俺たちはアルマス先生の授業を受ける。まだ初日なので体術も受け身しかしなかった。まあ、基礎は大事なので何度やっても構わないが。
「ふう、君たちはなかなか筋がいいな。俺も教えがいがあるぞ」
頭を働かせた後なので体を動かすのは気持ちがいい。
そんなことを考えていると大きな声が聞こえた。
「おいおい!こんなことしかやらねえのかよ!こんなの楽勝で出来るぞ、おい!」
「そうだそうだ!!」
「ランドール様を馬鹿にしてるのかッ!!」
そんな声を上げたのは公爵家長男のランドールだ。こいつは本当に自分の思う通りにいかないと納得いかないらしい。取り巻きの奴らも同じく声を上げている。
「なんだ?授業にケチをつけるのか?」
「ケチじゃない、正論だよ、おい!これが名門校の授業なのか!?こんなのもうとっくに出来るっつーの!」
「そうか、なら実践的なことをしよう。そこにある武器を取れ。何でもいい」
「ふうん、いいぜ。ただ教師が生徒にそんなことして問題にならないかってことだよな?」
「これは教育的指導だ。体罰なんて関係ない」
「分かってるのか?俺様は公爵家長男だぞ?」
「くっ……」
「あんたにも当然生活ってもんがあるよな〜」
ランドールはそう言いながらアルマス先生に近寄って何かを耳打ちした。
「辞めさせてもいいんだぞ?」
「ぐ……」
ランドールのことだ。おそらく卑怯な内容だろう。アルマス先生はその場に立ち尽くしてしまう。
俺は我慢ならずにランドールの前に立った。
「なんだ?俺様に楯突くのか?」
「俺が相手になってやるよ。戦いたいんだろ?お前」
「お前ごときで相手になるのか?俺様は昔から英才教育を受けてるんだぞ?」
「御託はいい。やるのか?やらないのか?」
「……ッ!?てめぇ……ッッ!!いいぜ、やってやろうじゃねえか!」
俺とランドールは数ある武器の中から剣を取った。やはり剣が一番扱いやすい。
「す、すまない……。こんなこと生徒にさせるべきことではないんだが……」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
俺が今回やらなければいけないことは勝つことではない。ランドールに基礎の大切さを分からせることだ。まあ、ついでに腐った根性を叩き直してもいいかもしれない。
「ほら、いくぞ?」
俺は剣を構える。対するランドールは剣を振り回している。戦う気があるのか?こいつは。
「おら、死ねやぁぁぁ!!!」
ランドールは叫ぶと同時に斬りかかってきた。だが、それはとても単純な一撃。こんなに避けやすい攻撃はない。
俺は最低限の動きで横に避けて、ランドールの足を引っ掛けてこけさせる。
「な!?」
ランドールは受け身を取ることができずに派手にこける。その様子はとてつもなくダサかった。
「お前、弱いな」
「くそがぁぁぁぁ!!!!」
俺の一言にさらに勢いづいたランドールがまた直線的な攻撃を仕掛けてくる。俺はまたその攻撃を最低限の動きで避けようとする。すると、ランドールの口がニヤリと動いた。
「はっはっはっ!!馬鹿がぁぁぁぁ!!!」
ランドールはいきなり攻撃をやめて、別の攻撃を繰り出してきた。さすがにそこまで馬鹿ではなかったらしい。俺はそれをヒラリと躱す。
「な、何ッッ!?」
俺はランドールの攻撃を予測していた。何故なら奴は最初の攻撃と比べて二回目の方が重心が乗っていなかったからだ。それで俺はランドールの動きが変わるのでは?と予測を立てたのだ。
そして俺はランドールの剣を弾き飛ばして、首元に剣を突きつける。
「これで懲りたか?」
「ぐっ……くそがッッ!!」
ランドールはどこかに走り去っていってしまった。やり過ぎたとは思わない。先にやり過ぎたのはランドールの方だからだ。
こうして最初の武術の授業は嫌な空気のまま終わりを迎えた。まさかこの行いのせいであんなことになるなんて、俺は一切考えていなかった。




