魔法分析学と生命力学
身体能力測定があった翌日、俺はAクラスの教室ではなく多目的教室に来ていた。今日から本格的に授業が始まり、俺はイザベラさんの専門外である魔法分析学を選択して学びにきた。
「ふぁぁぁ〜〜〜、眠い」
「おい、初日からそんなんで大丈夫か?まだ始まってすらないぞ?」
リラも魔法分析学を選択していたようなので俺たちは隣に座っていた。だが、初日というのに彼女はとても眠そうだ。
「全然だいじょばない。終わったら起こして」
「だからまだ始まってないっつーの。ほら、起きろ」
「うーーん、むにゃむにゃ」
そんなリラの寝顔を見て先が思いやられつつも、先生が入ってきたので俺は姿勢を正して前を向く。
「はい、みんなおはよーー。魔法分析学を担当するライズ=ファーメルンだよー。よろしくねーー」
これはまた個性の強そうな先生が来たな……。ライズ先生は男性にしては身長が小さめで顔も童顔だ。だから学校という場で先生として会わなければ、年下と見間違えてしまうだろう。
「はい、じゃあ教科書開けてー」
それから魔法分析学の授業が始まった。魔法分析学はざっくり言うと、魔法構築式を歴史的、言語的、自然摂理的に分析して理解しようとという学問だ。独自魔法にも魔法構築式はあるが、普通の魔法と違いがあるのかを調べるために、この学問を学ぶことにした。
◇◇◇
初回の授業ということもあり、基礎的なことの説明だけして授業は終わった。ここまでなら俺も知識で頭に入っている。これからに期待ってところだな。
次に俺は生命力学の授業を受けにいった。生命力学とは人間の持つ生命力というものに着眼した教科だ。この力は未だ解明されてないことが多く、もしかしたら関係があるかもということで学びにきた。
教室内を見渡すと、空いている席が誰かの隣しかなかったので、そのうちの一つに座ることにした。
「ここ座っていいか?」
「あ、え、えっと……どうぞ」
隣に座っていたのは長い前髪で顔があまり見えない女子だった。ひとまず了承を得ることができたので俺は席に座る。
先生が来るまでは暇なので、俺は何の気無しにチラッと隣を見た。すると彼女がノート一面に魔法構築式を書いているのが見えた。
「うぉ、すごい……」
魔法構築式とはその実、何度も書き写すというのは骨が折れる作業であり、とても面倒なものだ。だからノート一面に書き写すというのは根気がいる。その努力は敬服に値する。
俺の声に気付き、彼女はノートを手で隠した。別に隠さなくてもいいのに……。
「み、見ました……?」
「あ、ああ」
「き、気持ち悪いですよね。こんないっぱい書いてるのなんて。何にもならないのに……」
「そんなことはない。そもそも魔法構築式は書いて書き直してを繰り返さないと生まれない。だから何度も書くことは悪いことじゃないさ。それにしっかり努力できていることがすごいと思う。並みの人間にノート一面に書き写すなんて所業は出来ないよ」
俺がそう言った時、彼女の目がキラキラと光ったように見えた。前髪で見えないんだけど、なんとなくそんな気がした。
「あ、ありがとうございます。そんなふうに言ってもらったのは初めてで……えっと、その、名前を教えてもらってもよろしいですか?」
なんだ、そんなことか。それならお安い御用だ。
「俺はナーガス=エアリア。よろしくな」
「は、はい。えっと、私はルーナ=ネイルフォンです。よろしくお願いします」
俺はルーナと握手をかわした。




