自己紹介と身体能力測定
寮の食堂で朝食をとった後、俺たちは学校に向かった。ハンスとは同じクラスだが、ローランはCクラスなので途中で別れた。
「じゃ、また後でな」
「放課後会おうぜ」
「うん、またね!」
俺とハンスはAクラスに向かった。
教室に入るとフランとリラがいた。俺たちは挨拶をして席につく。
「ねえねえ、ナーガス。今日何するか知ってる?」
「いや知らないな。持ち物に体操着があったから体を動かすんだろうけど……ハンスは知ってるか?」
「うーーん、分からんなー。リラさんは?」
「知らない」
リラも首を横に振って答える。まあ、そもそもフランが知らないならリラも知らないと思うけどな。ハンスはなんでリラに聞いたんだ?
「まあ、そのうち先生も来るだろうし待ってようよ」
俺はハンスに疑問を抱きつつも、フランにそう答えた。というか先生に聞くのが一番だろう。
「そうだね。ちょっと待ってるよ」
そうして少しすると、イツキ先生が教室に入ってきた。
「皆さんおはようございます。席についてください」
立っていた生徒もゾロゾロと席に座り、先生の話を聞く。
「本日の予定は自己紹介と身体能力測定になります。まずは自己紹介をパパッと済ませちゃいましょう」
イツキ先生は手を叩きながら笑顔でそう言った。自己紹介の順番は成績順ということで俺が最初だった。その場に立ち上がって自己紹介をする。
「えー、ナーガス=エアリアといいます。よろしくお願いします」
俺はペコっと一礼をして座った。同時にクラス内から拍手が聞こえた。
「次、フランさん」
「は、はい!フラン=ノーツです!よろしくお願いします!」
そして次々と自己紹介をしていく。俺は自己紹介の時間となった時、心の中で密かにガッツポーズをした。なぜならようやく彼女の名を知ることができるからだ。そう、フランに宣戦布告した彼女の名を。
ようやく彼女の番が回ってきた。彼女はスッと立ち上がる。
「リーリア=ホークザスです。よ、よろしくお願いします」
リーリア……か。うん、なんか心のモヤモヤが晴れた気がする。
俺がリーリアの名で感動していると、いつの間にか自己紹介が終わっていた。教壇でイツキ先生が話している。
「これで全員終わりましたね。では身体能力測定に参りましょう。皆さんは着替えて外に出てください」
俺たちは言われた通り、体操着に着替えて外に出た。身体能力測定では5種目において、生徒の実力を測るらしい。
「まずは50m走です。こちらも成績順に走りますので呼ばれたら来てください。ではナーガスくん」
「はーい」
俺は意外と運動神経には自信がある。魔術師といえど動かなければいけない。だから昔から体力作りは積極的に行ってきた。その付随効果で足が速くなったり、跳躍能力が高くなったりした。
「いちについて、よーい、どん!」
完璧なタイミングで走り出す。そして少しの無駄もない走りを繰り広げ、なかなかの好タイムでゴールしたと確信した。
「ふー、何秒ですか?」
俺は記録係の先生にタイムを聞く。だが、記録係の先生はストップウォッチを見たまま動かない。
「えーと、何秒でしたか?」
「あ、ああ、ごめん。えと、4秒48だね……」
うむ、4秒48か。少し遅くなったな。やはり一ヶ月眠っていたせいかな。これから少しづつ戻していかないと。
ふと記録係の先生の方を見ると、俺のタイムを見ながらまだ何かブツブツ言っている。「測り間違いか……?いや、でもそんなはずは……」など言っている。やはり遅すぎたのだろうか。
俺がみんなの元に戻るといの一番にハンスが俺のところに来た。
「おい、ナーガス!お前、なんだあの走りは!やばすぎだろッッ!!」
うーん、やはり遅すぎたか……。このままでは馬鹿にされてしまうかもしれない。次の種目で挽回しないと。
「そうだな。俺自身、反省してるよ。大丈夫、次の種目はもっといい記録を出すさ」
「はぁぁーー。お前な、なんか勘違いしてるだろ?」
「ん?何がだ?」
「ちょっと他の人の走りを見ててみ?」
そう言われたので、俺はちょうど今走るところだったランドールに注目する。ランドールはイツキ先生の声とほぼ同時にスタートする。が、その結果は俺よりも2秒ほど遅い結果になった。調子が悪いのだろうか。
「うん、ランドールは少し遅いな……。体調が悪いのか?」
「ちげーよ!!お前が早すぎるんだよッッ!!」
「え?」
俺は驚きを隠せずにもう一度聞き返す。あんな程度が早いなんて思えなかったからだ。
「だーかーらー、お前が早すぎるんだよ!あんなに速く走るやつ、この世で見たことも聞いたこともねーよ!!」
あー、そういうことか。俺って普通じゃないんだな。ということは……この先の種目も自重が必要かもしれない。




