一章 ~色味葉の庭~
3人の女の子が公園を探検します。ちょっとだけ。そしてカップ麺を食べます。
一章 ~色味葉の庭~
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身支度を整えてロビーに戻ると、ふたりが神妙な面持ちで、巨大な電子レンジのような機械を見つめている。
「えーこ、わたしたちの生命線はこれなのか」
「イライザ……言い回しを深刻にしても解決にはならないよ……」
「どしたー?」
「これが……朝ごはん」
「え?なになに?」
「朝ごはん。てか、このホテルごはんこれだけだってさ」
「どゆこと?この箱が?」
「いや、中身ではあるけどなー」
「ここに説明が書いてあるけど……実に心許ない」
みると【お食事はこちらのボタンを押して下さい、自動で調理済みのカップ麺が出てきます。食事はこれだけになります。沢山ありますので、お腹が空いた時はご遠慮なくどうぞ!】と書いてある。
「んじゃま、押してみりゃよかろ?ほれ、3つ所望じゃ」
ポチポチポチッとな
(ごんごんごん……コツンッ…ペリッ…ちょぼちょぼちょぼ…ブーン…ピロリッピロリッピピピロリ♪)
なんだかえらくギミックめいた音がして、カップ麺は出てきた。機械の表示には【あと123個】と出ている。そんなにカップ麺食べるかな?ま、いいけど。
「……そうか、2週間分なんだね」
「ん?何が?にしてもカップ麺で朝ごはんかー」
「炭水化物とスープだから、朝ごはん的ではあるよな」
「んじゃま、ズルズルとー!」
「いただきます!」
「わかめスゴいけど……イライザは大丈夫?」
エリザの胃腸を心配しているんだ。どこまでも口数が少ない分、頭を回るヤツなのだ。
「ん!大丈夫だよ!ありがとな!」
打てば響く関係だ。私らは良い友だちを持ったな……。外国の人は腸で海藻を分解する酵素を持っていないからお腹を壊す人が居るのだ。ん?でも?あれ?そんな事、気遣うのに大丈夫か今のタイミングで聞く事だっけ?
「わかめと謎卵と謎肉とゴマ油……美味しい」
「だね!組み合わせを考えた人は天才だ!」
「ひらめきというよりは最適解な気もするが、さておき」
腹がふくれりゃ戦が出来る
「んじゃ、外出てみるか」
「出ても……良いのだろうか」
「いんじゃないー?」
「だな。誰も阻む者などおるまいて」
「よっしゃ。おんもへGOだ」
「…方言?」
「幼児語?かな。ま、いーじゃん」
「うん。では行こうかね。出口は……、あれ?」
「この階段から上がると……ボクらは……出られるはず」
えらく長い階段だ、年寄りに対する思いやりを微塵も感じないな。
「ふむ、扉だ」
「とびらだねー」
「ここにハンドルが……あった」
コレ……を回すのか?1メートルくらいありそうだな、この取手。
「えらくデカい取手だな」
「水密戸……水深5mまで耐えられるって書いてあるね」
「水の中なん?わたしら」
「え?公園のレストハウスだよね?ここ」
そうなのだ、わたしらは名城公園に、レストハウスにグランピング施設があるってんで、泊りがけで遊びに来たんだよね。
「そう……水の中じゃないから、大丈夫」
「じゃ、回そう!って!重い固い重い!」
幸いにしてハンドルの柄がこれだけ無駄に長いのだから、3人でぶら下がるのに苦労は無かった。
「せーの!よっ!」
みんなで一気に体重をかける。
“カキン!”
「うわっ!折れた?!?」
ギ、ギッ、ギッ、ギッ、ギッ、キキキ、ギギー
「うんにゃ、回った!回り始めた!」
「……お、重い。勢いよく回るかもしれないから気をつけて」
プシュー!ぬるん!
幸いにして勢いよく回って怪我をする事は無く、ある程度から先はヌルヌルとゆっくり動き始めた。
「では、出てみますかね」
「……うん」
「んじゃ!オープン・ザ・キド!」
「木戸て」
ズワッ!と音がして扉が開く。
驚く程に新鮮な空気がレストハウスとわたしたちの肺に飛び込んでくる。とても清涼な大気だ。もはや甘みさえ感じるくらいに空気が美味しい。
「ジャングルだー」
「楽園……かもしれない」
「いや、名城公園……だよね?」
「お城……ある?」
「あるねー!遠くにちゃんと見えるよ!」
たしかに名古屋城のてっぺんが、広場の向こうに見え……
「広場?」
「……広場というにはちょっと」
「せまいなー」
ふむ、とはいえ折角泊りがけで遊びに来たのだ。
「とりあえず探検しよう!」
「だなー。百聞は一見にしかずだね。」
「説明してくれる人……いないけど」
「まぁ誰か居るんじゃない?」
「いまのところ……いない」
「とりあえずとりあえず出発しよーよ」
「んだねー、えいこ、手はどっち効き?」
「右……知らなかったっけ?」
「知ってた!よし!右へ向かう!」
草をかき分け、路へ出る。なんか、棒?オブジェがある。
「百合の詩……」
「まー、たしかに百合っぽい形してるよね」
「わー、なんかこれ汚れてないか?」
「雨の……跡」
「なんだろなー、掃除してほしいよな」
「一緒……百合が、3本」
「あー、ほんとだ、わたしらと一緒だ」
「ますますキレイにして欲しいねぇ」
「今……気づいた?」
「あー、うん。今気がついたよね」
「なんでだろ、わたしもだ。」
「……人をよぼう」
「あ。そだね、公園の人呼んでキレイにして貰おう。」
「それが良いね。んじゃ、次ドコ行く?全部緑だけど。」
「んでは引き続き右へ行こう!」
再び草をかき分け、おお!ようやくなんか開けたところに出たぞ!
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映子がいつもより長い間を置いて
「……一旦もどろう」
珍しいな
「どしたー?」
「開けた場所に出て思ったんだけど……迷子になる」
「公園で?」
「……手っ取り早く言うとコンパスも持たずに登山をする人はいない」
「あー、まぁ、確かにこうして広いところから見渡してみれば……」
「樹海と呼んで差し支えないよね」
「差し支えるだろ」
「ううん……差支えないほどに緑が密集している。これは地図無しだと危ない」
「こんだけ長いセリフをえいこが喋るという事は」
「よほどに確証あるんだろなー」
「うん……良くない方向に自信が持てる」
「となれば善は急げだ。あと膳も急ぎたい、なんかお腹空いた」
「高度な日本語使えるアピールやめれ。とにかくいずれにしても」
「んじゃ、こっちだよね。確か。かき分けて行くかー!」
「ダメ……来た道を戻ろう」
「あーそっかー、そのために戻るんだもんね」
「だな。遠回りと言っても距離は大した事無いんだし、戻ろう」
Elizaが先頭を歩きながら
「かき分けて進んでる時は気が付かなかったけどさー、全てが緑ってわけじゃないね。」
「あー。紅葉が始まっているのか」
「晩夏……」
「そうだな、この暑いんだか寒いだか良くわからんのは」
「食欲の秋がやってくるんだねぇ」
「お腹……空いてきたね」
「そういえば、なんだかんだでもうお昼じゃね?」
「カップ麺続き……痛風に悪そう」
「いやいやいや、痛風ってご年齢ではなかろ?」
「ま、実際飽きるよな。てか、なんか既に飽きた気がしない?」
「贅沢を言ってはいかんだろ」
「節約して得るもんあるかな」
確かにな
「他に……あれしか無ければ」
そんな絶望的な事は考えたくないなぁ、と考えているうちにレストハウスの前に戻った。
うーん……
「ものものしいな」
「爆弾が落ちても…なんとか大丈夫そう」
「コレで勝てるね!」
「何に勝つんだ」
「戦いに!」
「何と戦うんだ」
「自由と平和の為だよ!」
「今…ボクらは自由で平和」
そういえば……そうだ。なんでだろう?今とても平和な気持ちでいる。この二人と居るからだろうか。
「あ……扉」
「あいてるねー」
「いったいだれが」
「わたしだね。性格にはわたしたち」
「あ、そっか。あけっぱ」
「……なんでだろう」
「誰も居ないからじゃないかな」
「誰もおらんわな」
「なんで……知ってるんだろう」
なんでだ?そういえばさっき、係の人を探そうとか言って、でも誰も居ないと思って、最初から探そうともしていなかった。
「とりあえず食べ物探そうよ、っていうかカップ麺で良いよもう」
「そうだね……まずは食べて考えよう」
「んでは、お昼ごはんの儀を開催しよう」
例の巨大電子レンジ的なカップ麺にお湯入れて出してくれる機
「かんがえたらここ、ダイニング・キッチンだよね」
「そう……お湯、沸かせるはず」
「冷蔵庫もあるな。なんでだ」
「中身空っぽだよ」
「棚の中は……塩とセラミック包丁がある」
「どれも食料とは言い難いな」
「んじゃやっぱカップ麺だね」
「3つ……減るね」
それはそうだろう
「3人だからな。それポチ……なんだこの“楽しいモード”って」
「楽しいんじゃない?」
「多分だけど……悪い事は起こらないと思う」
「じゃ、楽しいモードでポチポチポチっと!」
“じゃかじゃーん♪”“ちゃっちゃちゃちゃ♪”
「音楽?が鳴るのか」
「楽しいといえば楽しいよね」
「機械的な音より……食欲を盛り上げる……気がする」
映子が確証持てない。って事は本当にそれだけで特に意味のある機能では無いのだろう。
“ちゃーらん♪”【あと120個】
「やっぱり……二週間分なんだね」
映子はその事を考えていたのか。
「確かにな」
「朝昼晩と食べれば二週間分だね」
それが意味するところはわからないが
「二週間が経つ前に、何処か別の場所へ行くか、食べ物を確保しないといけないな」
「いけないんだね」
「いけない…と思う」
「じゃ、昼御飯のあとは再び探検しつつ、食料があったら確保だな」
「その前に……捜し物」
「地図だねー」
「あるのか?」
「あるはず……」
まぁ、公園のレストハウスなんだから見取り図くらいはあるだろう。それにしてもレストハウスって、こんなに色んな設備揃っているもんかな。
「えーこ、いろは、見てみて!あった!」
「地図が見つかったか」
「じゃないんだけど!驚く!」
「トイレじゃん」
「じゃなくて、その隣」
「…シャワールームだね」
「なんで?あー、宿泊施設だから?」
「こっちには布団部屋があるね」
「ベッドルームと別に?何人泊まれるんだ」
「これは……家?」
「公園に住む趣味はないけど……グランピングって、こんなにアットホームだっけ?」
「いや、もうちょっと、そもそも外でテント張って寝るんじゃないかな?」
んー。ますます不思議。
「地図…あった」
「とにもかくにも状況わからんのだし、探検&食料&謎解きだな」
「んじゃ、また出発だね」
「いってきますだな」
「…・…家だから?」
「かもな」
一章 終
次回は公園を巡り、どうも出られないな。という事と食料をどうするかを悩み、解決していくお話の予定です。一章の加筆訂正と平行で進めるかもしれませんが、長い目で見てやって頂ければ幸いです。