4.異世界の神は女の子じゃないと思った?
『羅山真冬よ、よく来てくれたのじゃ』
「!?」
普通に話しかけてきたかのような、少女の声。
不意なことに、驚く私。
あたりを見渡したけど、相手の姿はない。
これは…神様キターーーーーー!!
…そうね。念のため、確認しておきましょう。
「失礼を承知でお聞きします。貴女は何者なのでしょうか?」
『もっともな質問じゃな。妾はK。そなたたちの世界では神と呼ばれる存在じゃ』
「やはり、そうでしたか」
『ん? なんじゃ、全然驚かんのじゃな』
「はい。神様を相手に隠し事はできないと思いますから、全部言ってしまいます。よろしいでしょうか?」
『うむ。申すがよい』
「私はもう死んでいて、魂だけでここにいる。ここは、普通に死んだ魂が来るところではない。そして、神様は私を転生させるために来られた。どこか間違ってるでしょうか?」
『せ、正解なのじゃ。どこも間違っておらん。そなた、聡いのう』
「いいえ、それほどでもありません。日本では、不慮の事故で死んだ人が転生する物語がたくさん書かれていました。それを参考にしただけです」
『むう。日本、恐るべしじゃの』
「はい。それで、一つお聞きしたいのですが」
『なんじゃ?』
「なぜ、私なのでしょうか? 私の死は、自らの不用意な行動が招いたもの。その行動の原因も、私の日ごろの行いに起因するもの。誰がどう見ても自業自得です。神様が直接転生に関わるのは大仰すぎると思うのですが」
『それはこちらの都合じゃ。単刀直入に言ってしまうと、妾はそなたが死ぬのをずっと待っておった』
「それは、どういう意味でしょうか?」
『言葉通りじゃ。妾の目的のためには、そなたの魂が要る。それで、そなたが生を終えるのを待っていたのじゃ。このような形でそなたを迎えられたのは、予想外じゃったがの』
「そうですか。それでは転生をお願いします」
私は目を閉じようとした、のだが。
『あいや、しばし待つのじゃ。その前に、そなたに頼みがある』
「頼み…ですか?」
『うむ。実はじゃな、そなたの転生先について相談に乗ってほしいのじゃ』
「…普通は逆じゃないですか?」
『うむ。普通は逆じゃな。だが、そなたと言葉を交わし、確信した。妾が決めていた転生先より、そなたと相談して決めた転生先のほうが絶対に良いとな』
「そういうことでしたら、喜んで」
『では、そちらに出向く故、少し待っておれ』
その言葉が終わると、私の前に円い穴が開いた。
人が立ったまま通れる大きさ。中は真っ暗で何も見えない。
これ…横とか後ろから見たら、どうなってるのかしら?
などと考えてたら、人の形の光が見え、だんだん大きくなってくる。
「!?」
中から現れたのは、全身が金色に淡く光る少女。
身なりは女神なトーガ。
髪はブロンド。ピ○チ姫っぽいカット。
オッドアイ。右が緑で左が青。
見た目は十歳ってとこね。
「人前に出るのは百年ぶりぐらいじゃな。妾がK。管理者を務めておる。真冬よ、宜しく頼むのじゃ」
光る少女が自己紹介。ほほう、神様はのじゃロリBBAでしたか…。
「ん? そなた今、何か失礼なことを考えなんだか?」
私、全力で否定。自己最速で首を振る。
BBAに悪意はありませんっ! 長い時を生きた女性って意味で使いましたっ!
「まあよい。で、早速なのじゃが、先ずはそなたが転生する世界について話そう…」
神様の話を要約すると、こうよ。
私が転生する世界はヴェダーシャッド。
神々が住む天上界、人族が住む地上界、魔族や竜族などが住む魔界に分かれている。
環境は地球と同様。常識も大半が通用する。生態系は異なる。
人も魔物も魔法が使える。
「…それでじゃな、そなたは島国の城下町に勇者の子供として転生してもらおうと、そう考えていたのじゃ」
…アリ○ハンの勇者オル○ガの子供? 伝説になりそうなワードと展開が浮かんだ。
「それだと、地上界に魔王が現れて危機に瀕している人族を助けろと、そんな話でしょうか?」
「いや、そのように簡単な話ではない。そなたには、地上界を統一してほしいのじゃ」
「!?」
予想をはるかに超えた無茶振り。人類史上、世界統一を成し遂げた個人や組織はない。そんなこと、可能なの?
「そなたが驚くのはもっともじゃ。だが、遅くとも二十年後までに成し遂げて欲しいのじゃ…」
神様は、地上界の情勢を話してくれた。
現在、地上界は三つの勢力に分かれている。
永栄王国と朋連宗国の二大国。その抵抗勢力として小国連合。
王国と宗国は周辺の国や地域を次々と併呑し、勢力を拡大中。二国が直接対峙するのは時間の問題。対する小国連合はジリ貧状態。
私が転生する予定だったのは飛鷹公国。
天然の要塞的な立地と勇者王の武力により、両大国も手が出せない強国。尚、勇者王抜きだと並の国。
「…というわけでじゃ、そなたは勇者王イロンデルの子として転生し、その武力で地上界を統一してもらおうと、そう考えておったのじゃ」
「なるほど。それは分かりました。ひとつお聞きしますが、なぜ期限があるのですか?」
「うう…。それは…じゃな…早ければ二十年後に、地上の民が総力を挙げねばならぬことが起きるからなのじゃ! すまぬ。これ以上は言えん!」
「それで二十年…」
「そうじゃ。武力でも知力でも財力でも、どんな方法でも構わん。地上を一つにしてほしい。魔界の民の力も借りられれば、なお良い」
すがるような顔の神様。神様がそんな顔してどうするんですか?って言いたかったけど、それは自重。
それじゃ、どうしたらいいか、真剣に考えましょう。
神様にあれこれ聞きながら考える。
ふむふむ。地上界の住民は大多数が人間。あとはエルフとドワーフと獣人と魚人で、地球だと肌の色が違う人種的な存在なのか。
他には中級までの魔族と竜族が極々少数住んでて、一部は人族と共存中と。魔物は…数に入れなくていいのね。
…うーん。これ、無理ゲーよね。
制約が無ければ、できなくはない。
例えば、一撃で大陸を消し飛ばせるぐらい超強力な魔法を習得して、威力を見せつけて脅せば、世界は私にひれ伏すわ。
でも、ここで時間の制約に引っかかる。
私が神様の予想通りに成長した場合、二十歳でそんな超魔法を使える可能性は低いとのこと。
仮に使えても、一発撃ったら確実にぶっ倒れるらしい。どこぞの爆裂魔法少女と同じパターンね。そんなんじゃ、動けないところを取り押さえられてハイそれまでヨ。
そして、私が神様の予想を超えていても、今度は明示されてない制約に引っかかる。
この方法だと、自分の力を見せつけるために、相当な数の住民を世界から消しちゃうことになる。下手したら、世界の半分とかね。
世界の総力が必要なのに、大幅に戦力を削いでどうするのって話よ。
同じ理由で、地道な戦争も却下。確実性も時間も損害も読めないから。
そう考えると、そもそも今の状況自体がまずいんだ…。
新しい宗教を作って民衆を導くのは無理ね。癒しも蘇生も水上歩行も物質生成も魔法でできるから、神の奇跡と呼べない。
カリスマアイドルになって世界中をファンにしちゃうのも無理。種族も老若男女も問わずってのは、国家レベルで協力してもらっても不可能だわ。
二十年以内に人族を一つにする。それだけでも大変なのに、魔界からも力を借りられる関係を築く…か。方法は問わないと言われても…。
………。
……。
…。
あっ、そうだ!
私は突然閃いた。
魔王になって、地上を征服しちゃえばいいんじゃない?
その前に魔界を統一しておけば、人族が多少減っても大丈夫なんじゃないかしら?
私はダメ元で神様に話してみた…。
…。
おおっ、予想以上の好感触。
神様の顔がみるみるうちに明るくなる。
「…というのはどうでしょう?」
「す、すごいのじゃ。真冬よ、そなたは天才なのじゃ」
「お褒め頂いて恐悦至極に存じます」
「うむ。苦しゅうない。よし、それで行くのじゃ。時に真冬よ、そなた、妾に願いたいことなど無いか?」
これは、もしかして転生時に希望を叶えてくれるってやつかしら? だったら、お言葉に甘えて…。
私はさっき考えていた希望を洗いざらい話した。
「おお、流石なのじゃ。控えめなのに、ポイントは押さえておる」
「それでは?」
「そなたには感謝してもしきれぬからの。願いは全て叶えるのじゃ。もちろん転生特典も付けるぞ。さらに、妾の分霊もサポートに付けよう」
「ありがとうございます」
「では、魔界について教えるのじゃ。それから具体的なところを詰めようではないか」
ということで、魔界はこんなところよ。
海と大陸は、それぞれ一つ。大洋サパランサと魔大陸ドワナゴン。
魔族・竜族・堕天使がそれぞれが国を作り、そこで生活している。異種族間の交流は、ほとんどない。
魔族の国は魔王国リーパ、竜族の国はジャーラ竜王国、堕天使の国はエリゴグリ帝国。今の時点では、国境が接している場所はない。
相談の途中で、私はタメ口を許された。
Kと名乗った神様、見た目だけじゃなく思考や行動も少女だったの。知識や能力は文句なしで神様なんだけどね。
で、私はすっかり気に入られちゃって、
「そなたが妾と同じ存在であったなら、姉様と呼びたいところじゃ」
からの
「そうじゃ、妾を妹と思うて話してはくれぬか」
となったわけ。
願ってもない話だから、即OKしたわ。
相談の結果、私はリーパの魔王家に、神様の分霊と双子の姉弟で生まれることにした。
姉妹じゃないのは転生特典のため、兄妹じゃないのは神様の要望だったからよ。
私の人格と記憶は、転生した私が大人になるまで封印する。
別人格で大人になることで、私が目覚めたときにパワーアップできるからよ。
今のやり取りを含めて命日の記憶は切り取り、神様の分霊に預けておくことにした。
これは、不測の事態に備えたの。ほら、頭を打ったり雷に打たれたりして前世の記憶を取り戻す話って、割とあるでしょ? それが原因で計画が狂うのを防ぐためよ。
「じゃあ、不幸にしてキャラが変わっても、真の魔王に覚醒したからで済んじゃうのね?」
「うむ。それは妾が保証するのじゃ。だから、その…」
「大丈夫よ。墓場まで持っていくから。むしろ、貴女のほうこそ気を付けてね」
「ううっ、返す言葉が無いのじゃ…」
ふっふっふ。
リーパの民たち、楽しみに待ってなさい!
そして精一杯あがいてちょうだい。竜王と総統!
魔大陸ドワナゴンは、私のものよ!
私は目を閉じ、神様に全てを委ねた。
瞼越しに強い光を感じた後、意識がだんだん遠くなり…。
ということで、私はマーラくんが成人するまでの間、封印されたわけ。
<真冬さん、真冬さんと僕のでーたのまーじとでふらぐが終わったから、一緒に見てほしいんだけど>
マーラくんが呼びに来た。情報の処理が終わったようね。
それとオタクな私、次からは彼が知らなかったワードはちゃんと理解できるまで説明するように。
「ええ、分かったわ。それじゃ、早速見ましょう」
本編四話目をお届けしました。
これでようやくタイトル部分が終了です。