M3.魔王、知りたがる
僕は、マフユさんに、知ってることやおぼえていることを全部教えてあげた。
マフユさんは質問の仕方がすごく上手だった。おかげで、僕も頭の中が整理できた。
マフユさんも、僕にいろんなことを教えてくれた。
自分のこととか、漫画のこととか、小説のこととか、ゲームのこととか、食べ物のこととか、とにかくいろいろ。
でも、僕が一番知りたかったことは、まだ出てこない。
あ、もう終わっちゃうのかな?
「それじゃ、マーラくん。何か聞きたいこととかあったら、遠慮なく言ってちょうだい」
<じゃあ、マフユさんの強さの秘密を教えてよ>
「強さの秘密?」
<うん。どうしてそんなに強いのかと、どうして分身できるのか>
「ああ、そのことね。強さの方は…。うーん、そうねぇ、自然と意志が強くなってたから、としか言いようがないわね」
<そうなんだ>
「ええ。その意志の強さが神様の目に留まって、私はこの世界に来たのよ。地球じゃ生かせる機会が無かったから、楽しみなの」
<うん、わかった。じゃあ、分身は?>
「これは簡単よ。できるようになるまで練習したの」
<なんで練習しようと思ったの?>
「小さいころの漫画に描いてあったからよ。面白そうだから、自分でもやってみたかったの」
<そうなんだ。それで、すぐにできた?>
「すぐには無理だったわ。でも、諦めたらそこで試合終了なの。できる自分をイメージして、現実の自分をそれに近づけていくのよ」
<それでできちゃったの?>
「ええ、そうよ。自分の身体で分身するのは絶対に無理。でも、頭の中だけで済むことだから、必ずできるって信じて頑張ったわ」
<マフユさん、凄いや>
「ふふ、ありがと。でもね、私はまだまだ、なのよ」
<えーっ、そうなの?>
「そうよ。新し目の漫画だとね、モンゴル人のひとり横綱が十人ぐらいで会議してたもの。私は乙女ゲーの悪役な公爵令嬢と同じで五人。つまり」
<つまり?>
「私はまだ、分身を増やせる可能性があるってことよ」
…マフユさん、漫画は作り話だって、自分で言ってたよね?
「あ、そうだ。マーラくん、一つ頼まれてくれない?」
<何?>
「人と話すとき、私の言葉を直してほしいのよ。マーラくんの姿で語尾が「~なのよ」とか「~と思うわ」だと、変でしょ?」
<うん、いいよ。でも、マフユさんが話してくれたことを僕が言葉にすると、長い話の時におかしくならない?>
「それは大丈夫よ。マーラくんと私は同じ魂の別人格なだけだから、言葉にしたいことは共有できてるの。マーラくんは、それを言葉にしてくれればいいのよ」
<そうなんだ。それなら大丈夫だね。うん、引き受けるよ>
「じゃあ、お願いね。ああ、ついでだから言っておくわ。考えてることも共有できてるんだけど、これはしばらく見ないほうがいいわ」
<えーっ、何でー。見せてくれたっていいじゃない>
「…そこまで言うなら止めないけど、ショックを受けないでね」
<だ、大丈夫だよ>
僕はマフユさんが考えてることを見た。
………。
……。
…。
見ないほうがよかった…。
マフユさん、僕に言葉じゃ言えないようなえっちなことしてる。
「だから言ったのに…。でも安心して。それはあくまでも妄想よ。お互いが合意しない限り、絶対にそんなことはしないから」
確かにそうだ。
マフユさんは僕より強いから、やろうと思えば簡単にできる。
五人に分身されたら、絶対逃げられない。
でも、それはしてない。
しかも、そんなことを考えてるなんて、僕には全然わからなかった。
<マフユさん、いつもこんなこと考えてるの?>
「小さくて可愛い子といるときはね。そーゆー状況で仕事がしたくて、先生になったぐらいだから」
<それで、よく我慢できてたね>
「それは当然よ。そんなこと考えてるって知られたら、良くて配置転換。最悪はネットで晒されて祭りになってクビだもの。実行するなんて論外よ。苦労して手に入れた楽園生活を一時の快楽のために手放すなんて、愚の骨頂以外の何物でもないわ…」
マフユさんに変なスイッチが入ったみたい。
でも、おかげでマフユさんの意志がどうして強くなったかわかった。