3.残念女教師の転生計画
さあ、気を取り直して記憶を確認するわよ。
ここからは本題。真冬の命日に何があったのかって話よ。
自分で言うと心にダメージなんだけど、当時高三の従弟(成くん)との結婚を真剣に狙う二十代半ばの女性って、一般的じゃないわよね。
そんな従弟に部屋の掃除を依存しちゃってる社会人女性って、いろいろと問題よね。
あらゆる意味で小学生が大好きすぎる小学校教師って、大問題よね。
でもね、これはこれでちゃーんと芯が通ってるの。
だって、私が小学生大好きになった切っ掛けは、成くんなんだもん。
初めて顔を合わせた当時小一の成くんは、超めちゃめちゃ凄くとっても例えようがないぐらい思いっきりいと激しく可愛かったの。
…ごめんなさい。話がそれかけたわ。
そんな私が時代を導く者に転生。転生だから、前世の人格と記憶が漏れなくセットでついてくる。
しかも、時代を導く者は魔王だった。普通、そーゆーのって、勇者とか英雄とか賢者とか預言者とかよね?
誰得なのよ、こんな話?
答:ヴェダーシャッドの創造神と私です。
はい。私、不慮の事故で死んだあと、神様に会いました。そして二人であれこれ考えました。
私の転生、悪い顔で「計画通り」って言いたいぐらい順調よ。
ありのままに、その時に起こった事を話すわ。
過去の出来事なんだけど、臨場感ありありで回想するわね。
漫画だと、コマの外がベタか濃いトーンになってるパートだと思ってね。
私はゴミを出す準備を終え、一息つこうとした。その時よ。
視界の端で何かが動いたと思ったら、そいつはいきなり飛んできた。
とっさに避けようとしたら、足を滑らせて転んだ。
目の前が一瞬真っ暗になったと思ったら、砂の上に倒れてた。
辺り一面砂砂砂…。他には何も見えない。
昼のように明るいのに、空に太陽が無い。当然、私の影もない。
そう。私は謎空間にいたの…。
これ、やっちゃった…?
ちょっとしたことがきっかけで、非日常に遭遇する。
ネット小説とかの、あるあるパターン。
それがまさか自分に起きるなんて…。
その手の話は嫌いじゃない。普通の人より読んでたと思うわ。
学生だった頃、自分で書いてみようと思ったこともある。
でも…、私には無理だった…。
設定はできた。理想の主人公、キャラが被らない仲間たち、厨二心に響く武器と魔法、お約束の四天王、そして強大なラスボス。
一週間かけた成果はテキストファイルで三十KB。これで勝ったと思ったわ。
だけど…、その後がダメダメ。肝心のストーリーが作れなかったのよ。
私が考えた最強の主人公は、ラスボスのところにもワープできて、ワンパンで倒せる能力の持ち主だった。
最初は、その通りに書いてみたの。そしたら…。
仲間の出番が無い。四天王も出番がない。話も短いし、全然面白くなかったわ。当然ボツよ。
次は、その反省を生かしたわ。主人公は仲間を誘ってクエストに出るって決めたの。
仲間は三人で、二人は未成年。お酒を飲めない二人が酒場で待ってるのは、おかしいでしょ?
だから設定を追加して、二人は武器マニアだから普段は武器屋にいることにしたの。
で、リアルさにこだわって書いてみたわけ。そしたら…。
作中で三日目だったかしら? 「買いもしないで客にウンチクたれて営業妨害だ」って店主に言われて、出入禁止にされちゃったわ。
それからは大変よ。
主人公は大人な一人と酒場で合流した後、二人を探して町中をあちこち歩きまわるの。
町はそこそこ広いから、クエストに出る前に、最低でもアニメを一話見終わるぐらいの時間がかかるのよ。
二人とも外にいなかった時なんか、書いてる私が泣きたくなるぐらい大変だったわよ。
お店に入るときはいいのよ。見るからに怪しくさえなければ、いきなりドアを開けて無言で入っても問題ないから。
でも、民家でそれをやったらアウトよね。
当然、入る前にはノックするし、タンスを開けるときは家人の了解ももらうの。
話が先に進まないのに文字数がどんどん増えて…。結局ボツにしたわ。
…と、まあ、こんな感じよ。二日で諦めたわ。
その時のデータ? コキュートスで氷漬けになってるわ。
今思えば、若さゆえの過ちってやつね。
そんな黒歴史を作った後は、読者に徹することにしたの。
感情移入しまくりで読みつつ、「いや、そこはこうでしょ」とか「それ、前と設定違うやん」とか、冷静に突っ込むの。
その方が、私には合ってたわ…。
…いつの間にか現実逃避してたわ。
それで、今の状況なんだけど、私はこう見てるの。
自分が生きてるかどうかは不明。
生きてるんなら、ここに転移してきたってこと。
普通のアパートにそんな仕掛けがあるわけないから、神様的な存在の仕業ってことになるわね。
でも、この可能性は低いわ。ゼロと言っていい。
根拠はタイミングよ。私が転ぶのをじっと待ってるストーカー的な神様がいたら…、そんなの怖すぎるでしょ。
ただ、可能性はゼロじゃないの。
漢数字で小数点以下を表現するのが面倒だから切り捨ててるだけで、実際は小数点以下の確率であり得るのよ。
そして、もう死んでるんなら、転生を待ってる状態よ。普通は、死んだら魂だけになって、あの世で行列に並んでるはずだからね。
というわけで、私はこのあと転生する可能性が高いの。
一度死んだんだから、あとはおまけのサービスタイム。思いっきり楽しませてもらうつもりよ。
ああ、ワクワクが止まらないわ。
…ちょっと待つのよ私。
まだそうと決まったわけじゃないでしょ。
今の段階じゃ、夢の可能性も微レ存なの。それぐらいわかるでしょ。
喜ぶのは、不確定要素を排除してからにしなさい。
というわけで、改めて自分を確認する。
服装は変わってない。上下とも蒼いジャージで素足。部屋にいたんだから当然ね。
それじゃ定番。ほっぺたをつねってみるわよ。
…。
不思議な感覚ね。
つねられてるのは分かる。でも、痛いとは感じないの。
体を動かせる。感覚もついてきてる。だから、夢じゃない。
これで不確定要素がひとつ消えた。来てる可能性が上がったわ。
あとは、不思議な感覚が何を意味してるかなんだけど…。
……そうか!
私、生身じゃないんだ。普通に神経が通ってれば、もっと痛いはず。
生身じゃない。つまり、生きてない。
…ってことは…。
やっぱ、来たんじゃない?
ふっふっふ。
そうかー。私も転生かー。
しかも、しかもよ。
自分の姿でいるってことは、このあと神様的な存在とやり取りがあって、私の希望が反映される可能性があるってことよ。
そうねー。何をお願いしようかしら?
転生したいなんて考えたこともなかったから、すぐには浮かんでこないわね。
こーゆーのは一発勝負。やり直しがきかなくて当たり前だから、真剣に考えてみましょう。
大前提として、希望の反映は確定じゃないわ。
何らかの形で通ればラッキー。それぐらいの気持ちで考えること。
細かいところまで具体的に考えると、通らなかった時のダメージが大きいわ。
まず、何に転生したいか?
そうね…、できれば人外はパスしたいわ。生存競争が激しそうだから。
子育てしない系の種族に転生したら、スモールでレッサーな蜘蛛の魔物みたいに、生まれて初めての食事が兄弟の死骸って可能性もあるもの。
私、そこまではメンタル強くないと思う。
G系に生まれたら、兄弟の姿を見てショック死する自信があるわ。
そんなんじゃ、どれだけすごい能力をもらっても、全然意味がないと思うの。
…となると、私の人格と記憶は、成体になるまで表に出ないほうがいいわね。
幼体のうちに死んでも私はノーダメ。目覚めたときには、その世界で生き残る術を習得済み。
一見イージーモードだけど、魂は相応の経験を積んでる。うん、最高じゃない!
何か一つだけ叶えてもらえるなら、これで決まりね。
これなら人外に転生しても大丈夫。種族自体は何でもいいわ。
次は…そうね、二十代半ばで死んじゃったんだから、今度は長生きしてみたいわね。
長生きといえば…、定番はエルフかー。私、個人的にあまり好きじゃないのよね…。
それが特徴の一つで、それが好きな人がいるのはもちろん知ってるんだけど…、あのとがった耳がダメなのよ。
絶対ダメってわけじゃないわ。
なれと言われれば受け入れる。なってても問題ない。
でも、選べるなら選ばない。
エルフはそんなポジションね。
その他で長生きといえば…、天使や悪魔かしら。
天使もエルフと同じポジションね。だって、所詮はパシリだもの。積極的になりたいとは思わないわ。
そう考えたら、ボス的な悪魔は選択肢に入るわね。どんな姿になるのかは不安だけど…。
あ、そっか。よく考えたら、普通の人間でも長生きできちゃうんだ。
転生先の文明レベルが日本より低ければ、日本人の知識をフルに使う。衛生とか、病気の予防とか、栄養とかね。
それだけで、他の人より長く生きられると思う。
そーゆー話は読んだ記憶がないけど、転生先の文明レベルが日本より高ければ、そのまま生活してればいい。
となると、長寿を望むのは一番最後。空き枠があったらでいいわね。
そうそう、転生特典も考えなきゃ。
といっても、能力は転生する世界と種族に合ってなきゃ意味が無いわ。担当の神様に相談しながら決めるしかないわね。
ただ漠然と「丈夫な体で」とか「能力は普通で」なんて願うと、ラノベ的な展開になるのが見えてるもの。
能力以外となると、欲しいのは仲間…ううん、家族と言ったほうがいいわね。
まず、結婚は絶対したい。許されるならハーレムよ…って、それは男に転生しないと無理か。
かといって逆ハーレムは、あまり乗り気がしないのよね。
ま、その辺も要相談ってことで。
他には……。
うーん。いざ考えると、思ったほど出てこないわね。
いっそのこと、神様がパンフをたくさん持って出てきてくれないかしら? 旅行代理店にあるようなやつ。
スライムになって魔王コースとか、ゴブリンでグルメして鬼神コースとか、蜘蛛でサバイバルする神コースとか。
でなきゃ、お部屋探し感覚で転生先を探せる端末ね。
なりたい種族、職業、魔法の有無、スマホの持ち込み可否とかの条件を入れたら、それに合った転生先が出てくるの。で、リストの中から選ぶわけ。
そーゆーのを持ってきてくれたら、すごく捗りそうなんだけど。
さすがにそれは無理よね…。
転生について考えるのは一区切りついたわね。
さて、これからどうしようかしら?
選択肢は二つ。
何かが見つかることに賭けて歩き回るか、何かが起きるまでじっと待つか。
ま、これは考えるまでもないわね。待ち一択よ。
遭難したときは下手に動くなっていうのが一つ。
それに、もしも万が一私が転移でここにいた場合、神様の性格は間違いなく悪い。
三歩進んだら二歩下がる的なトラップの発動もありうるわ。
そしてなにより、裸足で砂漠を歩くなんて、ありえないもの。
ということで、私待つわ。いつまでも…は待ちたくないけど、仕方ないから待つわ。
体育座りで昭和の歌謡曲を脳内で再生しながらじーっと待つ。
ちょうど曲が終わったところで、変化が起きる。
「!?」
私の周りの砂が黄金色に淡く輝いた。
反射的に立ち上がる。
そんな私を中心に、輝きはどんどん広がっていく。
「きれい…」
まさに絶景。
ただただ見とれる私。
着てるのはジャージだけど、気分はナ○シカよ。
程なくして、砂と輝きの境界線が見えなくなる。
そして、次の変化が起きた。
本編三話目をお届けしました。
真冬の黒歴史はテキストファイルで三十KB。これ、本作の本編一話と二話を合わせても届かないサイズです。
尚、本作の設定は、サブタイの元ネタに使うかもしれないものが三KB。その他が七KBです。