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2.事故死って、それはないでしょう!

 少年にして魔族の頂点、四大魔王の一人だったマーラくん。

 そこに私の転生特典、ついでに人格と記憶が合わさり超絶パワーアップを果たした存在。

 それが今の私、真の魔王・マーラ2世よ。正式に名乗れるのは、戴冠式が終わってからだけどね。

 自分を「私」って言ってるとおり、人格として表に出てるのは真冬の方。

 私に言わせれば、これは当然ね。マーラくんの倍以上長く生きてたんだから。ちな、マーラくんだったら「僕」になってたわ。

 彼の人格も残ってるわ。裏方で仕事してくれてるの。Windowsのバックグラウンドタスクみたいなものね。

 担当は会話。私の女性口調を自動で矯正してくれてるの。

 魔王として振る舞うときに、男の娘キャラは相応しくないでしょ? だからお願いしたの。


 目覚める前の私は、マーラくんの中に封印されていた。

 でも、命日の記憶は切り取られ、カーマの中に封印されていたの。

 私が目覚めたのは、マーラくんとカーマの十二歳の誕生日。

 二人は双子の姉弟。今は夫婦でもあるわ。

 魔族は十二歳で、大人として認められる。

 大人になった二人には、三つのイベントが待ってたの。

 まず結婚式。

 国のトップの結婚だから、国家レベルの一大行事。三人の魔王も出席して、盛大に行われたわ。

 次が開封の儀。

 真冬の封印を解き、マーラくんをマーラ2世にパワーアップさせる儀式ね。

 これで人格と記憶が開放され、私は目覚めたってわけ。

 最後の三つ目が、新婚初夜。

 一般的な意義は、もちろんある。

 今回のはそれに加え、転生特典を解放するキー、真冬の命日の記憶をマーラ2世に返す儀式でもあったの。


 すべてが順調だったら、目覚めた私が混乱することはなかった。

 マーラくんが待ってて、事情を説明してくれるはずだったから。

 でも、私が目覚めたとき、マーラくんはいなかった。

 おかげで私は何が何だか分からないまま、カーマと新婚初夜に臨んだわけ。

 一回戦を終えたとき、私は真冬が死んだことと、この世界に転生したことを知ったの。

 お互い満足した後で、私はマーラくんを探したわ。

 そして彼を見つけたときは、全力でホッとしたのよ。


 で、マーラくんがいなかった理由なんだけど…。

 彼、私を恐れて自己防衛モード(完全な引きこもり)に入ってたのよ。

 気配を完全に消して、身体の支配権も完全に手放した状態。

 カーマから「絶対どこかにいるはずじゃ」って聞いてなきゃ、絶対見つけられなかったわ。

 いやいや、子供とは言え魔王の人格をビビらせたって、どれだけ強いのよ、私の人格…。


 私が情報を処理しきれていないのも、それが原因なの。

 私とマーラくんは、元は一つの魂。その記憶領域を二人で分けて使ってたわけ。

 真冬は死んじゃったから、それ以降の分は不要でしょ?

 だから、パーティションを切って、空いてる分をマーラくんが使ってたのよ。

 乱暴に例えるなら、個人が自分のパソコンを敢えて複垢で使ってるようなものね。

 開封の儀が予定通りに終わってれば、情報はすぐに整理できたの。

 真冬の記憶は真冬のアクセスキーで、マーラくんの記憶はマーラくんのアクセスキーで参照できるからね。

 どっちの人格がメインになっても、情報のピックアップは一瞬なのよ。

 ところが、実際はプランB。

 身体の持ち主が不在という、本来あり得ない事態だったわけ。

 しかもその時、マーラくん、身体の支配権まで手放しちゃったでしょ。

 おかげで記憶領域がロックされるわ、アクセスキーが無効にされるわで、復旧が大変なのよ。

 現在、四人の私とマーラくん、五人がかりでリカバリ中です。


 ついでだから言っておくわ。

 プランBは、「真冬の記憶が全部そろえば、あとは私が何とかするはず」っていう、計画とは呼べない杜撰な物だったわ…。


 さて、命日の記憶は整理できてるから、確認しておきましょう。


 私が転生した世界の名前はヴェダーシャッド。そこの時間で十二年と少し前、真冬は命を落としていた。

 死亡場所は自宅アパート。死因は事故死。享年2○歳。念のため言っておくと、間違ってないわよ? 切り捨てれば20歳なんだからね。

 ……ったく、四捨五入じゃなく五捨……ゲフンゲフン。私は何も言ってない。いいわね。


 遺体はきれいだったとのこと。

 ソースは私をこの世界に転生させた存在よ。

 情報提供者曰く、「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。(以下略)」とのこと。

 ただ、死に方が頂けない。

 私らしいと言われれば、悔しいけど否定できない。

 でも、個人の意見としては、「トラックにはねられたと勘違いしてショック死」と同じくらい恥ずかしい。他人を巻き込んでないだけマシではあるけど…。

 ……よし、この件は二つ目の黒歴史に決定!

 自己暗示をかけるために、別の死因を考えるわよ!


 私は真冬会議ウインターミーティングを招集した。

 ホワイトボードの前に円卓を置き、スーツに着替えて伊達メガネをかければ準備完了。

 情報のリカバリは一時中断。

 出席する五人も揃った。

 円卓に五人の私が着席。

 初参加のマーラくんには、様子見の意味で板書係をお願いしたわ。

 本当は私の膝の上で見学させたかったけど、反対多数で否決に決まってるからね。

 マーラくんは貴族のお坊ちゃまな衣装。「これからどうなるの?」的な期待のこもった目で私たちを見てる。


「それでは、意見がある方の発言を認めます」

 円卓の上座。スーツ姿に伊達メガネな私が発言。

 今の私は議長。感情を抑えたマシンと化し、物事を淡々と事務的に進めるの。

『タクシーにかれそうな子供を助けるために飛び込み、目的を果たしたけど、打ちどころが悪くて死んだ。というのはどうでしょう?』

 議長の右正面。グリグリなメガネにボサボサなヘアー、少し毛玉が立ってるジャージ姿な私の発言。

 彼女は私のオタクな面。他人には絶対に見せられない姿ね。

 そうそう、私の名誉のために言っておくわ。この二人の外見は真冬会議限定よ。いくら私でも、現実世界じゃここまでしてないわ。

《却下。外出しているのに自宅で死ぬのは困難よ。それ以前の問題として、その案にはオリジナリティが欠片もないわ》

 議長の右隣。知る人ぞ知るブランドのスーツ姿な私の発言。

 彼女は私のオフィシャルな面。目指せ、インテリジェンスでクールでビューティな女教師よ。

【それじゃあ、プリントの原稿を徹夜で仕上げたから無理が来て、自宅に帰ったところで力尽きたというのはどうかしら?】

 議長の左隣。有名スポーツブランドのジャージを着こなしてる私の発言。

 彼女はプライベートで徒歩圏内に外出する時の私。プライベートはジャージが一番よ。

(それはダメ。学生時代に体育会系だった私が一徹ぐらいでダウンするなんて。そんなの絶対に許せない)

 議長の左正面。上下ともネームが入った学校指定のジャージを着てる私がダメ出し。

 彼女は完全にプライベートな私。家族以外でこの姿を見たのは、従弟のなるくんだけよ。

『だったら、徹夜明けをなんとか乗り切り、無事帰宅したけど眠気でよろめいて運悪く頭を打ったっていうのはどう?』

【そうね、いいんじゃないかしら?】

《同意。実際、徹夜はつらかったわ。仕事中に何度も居眠りしそうになったもの》

(でも、本当によろけて頭を打ったぐらいで人間が死んじゃうものなのかしら?)

『打ちどころによっては…らしいわよ』

「寝てる間に死んだ人の中には、咳をするごとに頭が動いて枕から外れ、落差十数センチの衝撃で死んじゃった例もあったそうです」

『【《(何それ、怖い…)》】』

 ………。

「他に意見が無いようなら、「私が死んだのは、眠気でよろめいて運悪く頭を打ったから」に決めますが?」

『【《(異議なし!)》】』

「はい。全会一致を持って、本議題は解決しました。それでは、これ…」

<お姉さんたち、ちょっといいかな?>

 ここで、いままで板書に徹していたマーラくんが発言。

「ええ、どうぞ」

<お姉さんたちって、いつもこんな調子なの?>

 子供なのに鋭い切り込み。さすがね、もう一人の私。

 ……。

 どう答えたらいいかしら?

 救いを求めて円卓を見る。

 私以外の四人は、いつの間にか消えていた…。

 くっ、さすが私。危機回避能力は衰えてないわね。

「え、ええ、そうよ。こうやって一つの物事をいろんな角度や立場で考えると、よりよい結果が得られるの」

<わあ、そうなんだ。お姉さんたちって、すごいんだね。僕も見習わなくっちゃ>

 …ああ、純粋に受け止めてくれてる視線が痛い。

<ねえねえ、次からは僕も入るんだよね。楽しみだなぁ>

「ええ。こちらこそ、よろしくね。それでは改めて、真冬会議を終了します。お疲れさまでした」

 こうして前世の私の死因は決まった。

 後は自己暗示を強烈にかければOKよ。

 前世の私が死んだのは、徹夜明けの眠気でよろめいて運悪く頭を打ったからよ!

 ゴキブリが飛んできたからパニクって転んで頭を打って死んだんじゃない!ないったらない!!

 私の脳内で、真冬の死因が上書きされていった…。

 …よーし、黒歴史化に成功したわ。

 これで私の真の死因は、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールに封印されたわ。

 今後、人に聞かれることがあったら………。

 ん?

 ………。

 そんな機会、あるわけないじゃない!

 私、魔王なのよ。しかも、転生者だって知ってるのは、私とカーマの二人だけなのよ。

 いったいどこの誰が前世の死因なんて聞きに来るっていうの?

 なんて無駄な労力を使ってるのよ、私。

 あーーー、黒歴史にしたこと自体を黒歴史にしたい…。


 こうして改めて振り返ると、私の女子力、かなりヤバかったんじゃないかしら?

 今更だけど、真面目に考えてみましょう。

 まず、対Gね。

 アレに驚くのは仕方ないわ。人間の本能だもの。

 ましてや飛んで来たら、誰だって取り乱すはずよ?

 だから対処としてはマイナスじゃない…と思う。

 問題なのは、アレが出たってことね。

 食べ物をネタにした漫画だと、アレが出る(イコール)料理店失格。整理整頓や掃除がダメって扱いだったわ。

 つまり、私の部屋も散らかってたってことよね。

 …ハッ! ヤ、ヤバい!

 私、そんな状態で死んじゃったんだわ!

 「無断欠勤なので様子を見に来たけど応答がない。携帯もつながらない。これは警察に連絡だ」

   からの

 「合鍵を借り、警察官立ち合いで部屋に入ったら、物が散乱した中で遺体発見」

   ときて

 「遺体は若い女性教師。一見すると外傷はない」

 ……あかん。

 これ、著名人のネタが無い時にワイドショーが食いつくパターンやん。

 「美人教師に何が? 汚部屋で謎の事故死」とか全国ネットで流れたんじゃ…?

 うわぁーーーー!

 考えたくないーーーーーっ!

 悔恨。羅山真冬、一生の不覚だわ…。


 …そうね。確かにゴミの出し忘れは多かったわ。

 でも、ひとり暮らしのOLなんて、それが普通じゃない?

 洗濯物が床に散らかってたり、テーブルの上が小物でいっぱいだったり、みんなそうよね?

 ついでだから言わせてもらうと、部屋着がジャージなのも普通よね?

 ちょっと前だと、そーゆー感じでモテることを放棄したような女は干物って言われてたっけ…。

 い、言っとくけど、私は違うわよ?

 成くんが高校を卒業したら結婚しようと真剣に考えてたしー。

 二人の距離もいい感じで近付いてたしー。

 だから干物じゃなかったしー。

 ………ダメね。思い出したら悲しくなってきたわ…。

 成くんが初めて家に来た時、ジャージ姿を見てしばらく固まってたわね…。

 そのあと部屋に入ったら、散らかってるのを見てまた固まって…。

 それからは成くんが掃除しに来てくれるようになったから、完全に甘えてたわ…。

 そうね、次の日は資源の日だったから、遺体は成くんが見つけてくれたかもしれないわね…。

 彼、合鍵も持ってるし……。

 ……。

 …。


「マーラよ、何がそんなに悲しいのじゃ?」

 いつの間にか、私は声を出して泣いていたらしい。隣で寝ていたはずのカーマが、心配そうに声をかけてきた。

「うん。向こうに残してきた子供たちのことを考えてたら、ちょっとね」

 これは本当よ。ほら、悲しいことって、連鎖するでしょ。声をかけられたときは、それで泣いてたの。

 彼女が聞きたかったのは、そんな答えじゃない。

 二人は双子特有の絆で結ばれてるから、相手の考えてることがわかる。当然、取り繕ったような嘘は通用しない。

 それでも、私は本当のことを言わなかったの。

 理由?

 ちょっとだけ反抗期よ。

「ふむ、そういうことにしておくかの」

 やっぱりばれてる。まあ、今更だけど。

 彼女の目を見てたら、気分が落ち着いてきた。これが姉の包容力ってやつかしら…。

 双子の姉で正妃な彼女は、創造神の巫女として生まれたの。

 時代の節目に生まれ、時代を導く運命さだめの者を護り導く者。この世にいながら創造神と会話できる、唯一の存在。

 それが創造神の巫女よ。

 そして、時代を導く者は、私なの。

 そんな二人が双子として生まれたのは、偶然なんかじゃない。

 そのように定められたからで間違いないわ。


 いきなりだけど、気になる疑問がわいてきた。

「ねえカーマ、前世の僕の死因って、向こうの人たちは知ってるのかな?」

「案ずるでない。向こうには魔法が無いからの。事故死以上のことは調べようがなかろう。ただ…」

「何、その言い方。気になるなぁ。何かあったの?」

「うむ。生徒の何人かは、そなたが死んだことに相当なショックを受けていたらしい」

「そうなんだ…。向こうじゃ何年たってるかわからないけど、立ち直ってて欲しいな」

「然り。そなたにできるのは、信じてやることじゃ。思いはきっと届くであろう」

「そうだね。ありがとう」

「うむ。そなたもそろそろ休むがよい。明日からは時代が動く。しっかり休んで備えるのじゃ」

「わかってるって。お休み、カーマ」

 私は目を閉じた。

 でも、まだ眠れそうにないわ。

 眠くなるまで、情報の整理を続けましょう…。


 本編二話目をお届けしました。

 私が読んでる転生モノだと、主人公はとっくに活動開始してそうな話数です。

 でも、ウチのはまだ神様にも会ってないという…。

 いや、大丈夫です。ちゃんとタイトル通りの話になります。


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