M1.魔王、隠れる
僕はマーラ。
今日大人になったばかりの十二歳。
職業は魔王。
うん。僕は魔族。僕の国では、魔王も職業の一つなんだ。
もちろん、誰でもなれるわけじゃないよ。
年に一回ある能力検定で合格ラインを超えなきゃダメなんだ。
魔王になれるのは四人。
僕は十歳で魔王になったんだ。
僕の前は、お父さんが魔王だった。
でも、僕の方が強くなったから、代わることになったんだ。
僕の家は先祖代々ずっと魔王になってる。だから、魔王家って呼ばれてるんだ。
自慢するみたいで嫌なんだけど、僕、凄いんだよ。
それでね、今は、結婚式を終わって、少し休んでるところなんだ。
僕のお嫁さんは双子のお姉さんのカーマ。
髪の毛と目の色は違うけど、僕とそっくりなんだ。
僕の家じゃ、姉弟で結婚するのは当たり前のことなんだよ。
他の魔王のお姉さんたちに聞いてみたら、家も同じだって言ってたよ。
結婚式には偉い人が大勢お祝いに来てくれた。
うれしかったけど、緊張して疲れちゃったよ。
だから、休ませてもらってるんだ。
このあとは開封の儀を受けるんだ。
僕の中には、強い力を持った人間のお姉さんが封印されてるって、カーマが教えてくれたんだ。
お姉さんの力を開放すれば、僕は元首になれるぐらい強くなるんだって。
カーマは神様から聞いたって言ってたから、どれぐらい強くなるのか楽しみなんだ。
もしかしたら僕がお姉さんに圧倒されるかもしれないって神様は言ったそうだけど…。
そんなの信じられないよね。
カーマも「まあ、そんなことは無いじゃろ」って笑ってたし。
開封の儀は、僕が寝てる間に終わるらしいんだ。
目が覚めたら、僕はお姉さんと一つになってるんだって。
それからカーマとの初夜を済ませば、僕は特別な力を使えるようになるんだ。
儀式用の服に着替えて、僕はベッドで横になってる。
いよいよ開封の儀が始まるんだ。
眠ってていいよって言われてるけど、ワクワクが止まらないから無理だよ。
目を閉じてるから見えないけど、ベッドの横でカーマが呪文を唱えてるのが聞こえる。
えっ!!!
僕の中に、ものすごい力を感じる。
まさか…、これが封印されているお姉さん?
まだ呪文は始まったところだよ!?
封印は半分も解けてないよ!?
じ、冗談じゃないよ!
こんなの、僕と魔王のお姉さんたちが全員でも勝てる気がしないよ!
生まれて初めて身の危険を感じた僕は、見つからないように隠れることにした。
自分の気配を完全に消して、身体の支配権も手放した。
どうか見つかりませんように…。