【+α】「僕だけの秘密」
僕は、彼女の言葉に魅せられて、あの日。メッセージを送った。他人の言葉にすがるほど、あの時は追い詰められていたんだ。
『ゴミッカスな文章ですけど』
『それでもよければ使ってください!』
<――01:43
彼女はそういったけど、ゴミッカスなのは僕の方だ。
だって、僕には『声』がないのだから……
「ンだよ、書けてんじゃん!」
「うるっさ。天才じゃないから。でもまぁ、今回は……自信ある。かな?」
「ッたぁくよォ? あんま心配かけさせんなよなァ」
「ああぁ、うん……」
「お前よォ、こんだけ書けんならやろうぜ⁉」
「ごめん。その話はまた今度。今日は疲れた、から……」
「おう! 俺は本気だぜェ? んじゃ、また電話するわーオヤス~」
「……おやすみ」
僕は今日も嘘をつく。こんな風に、心配してくれる奴にも、応援してくれるファンにも、自分自身にも。いつだって、こうして。
「 あの歌詞……。僕じゃないんだ 」
ツーツーツーと、一定のリズムが部屋に広がる。その音はとても冷たくて、孤独で、悲しい音に聴こえた。
「はぁ……僕って最低だ。たまたま見つけたつぶやき使うなんて……何やってんだよ」
僕が歌詞を書けなくなってしばらくたつ。そのことをみんなは知らない。他人の基準で推し量られて、押し付けられた限界に、いまにも僕は、押し潰されそうなんだ。それなのにみんなは僕のメッキの才能を称賛して、次から次に無理難題を強いてくるんだ。
独りの部屋で、フェンダーの歪の音を響かせ、空白だらけのモニターを眺める。
「次、どーしようかな」
はじまりは、SNSでたまたま見つけた彼女のつぶやき。
僕にはないリアルな目線。普通なら言葉にできないような赤裸々な心情。そのつぶやきは輝いて見えて、僕は過去のつぶやきを全てみた。会ったことも、話したこともない大勢いるファンの一人。それなのに、彼女の事をずっと昔から知っているような身近な感覚で、どれもこれも共感してしまうつぶやきだった。
ミュージシャンとしてデビューしてから、僕はこの世界の広さを知った。飛び込んではみたものの、僕よりも凄いひとが大勢そこにはいて、自信満々だった僕は井の中の蛙だったことを思い知らされた。
それからといもの、ひたすらに努力して、注目浴びて、ファンが増えて、そうしたら誰かが天才とか僕のこと呼びはじめて。
勘弁してほしい。それで今度は、期待を裏切らないために、もっともっと努力して、その度に期待されて、もっともっともっともっと見栄を張らなきゃいけなくなって。
独りで目立って。スポットライト振り払えなくって。
いまさら手のひら返せなるはずもなく、悩みも本音もスランプも全部、自分だけの秘密にすることになった。そこに、また一つ『彼女』という秘密が増えただけ。
それが、彼女との出会いだった。
…………。
……。
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